16:00 〜 18:00
[SGC35-P04] 南部チリ海嶺系類の希ガス同位体組成:ネオン同位体組成異常とその成因
キーワード:希ガス、ネオン同位体組成異常、チリ海嶺、ガスロス
希ガスは化学的に不活性であり,質量数の小さな「軽い」元素については地球内部での拡散速度が大きく,「希ガス」という名前のように地球内部での存在度が小さいため,物理的過程を通じて生じる元素比や同位体比の変動が大きい(例えば,松田,1996;角野ほか,2005).これらの特徴から,希ガスはマントルにおける物質移動に関する極めて有効な指標となっている.
チリ南部の南緯46度付近ではチリ海嶺が南米大陸西縁に沈み込んでおり,海溝―海溝―海嶺型のチリ三重会合点 (CTJ) (例えば,Herron et al., 1981) を形成している.チリ海嶺の拡大軸はCTJから北西に約2,000 kmに渡り発達しており,Valdivia断裂帯を境にNorth Chile Ridge (NCR) とSouth Chile Ridge (SCR) に分けられている.Niedermann and Bach (1998) は,NCRから採取したMORBガラスにおいて,通常の中央海嶺玄武岩 (N-MORB) よりも高い21Ne/22Ne比をMORBについて世界で初めて報告した.彼らはこの異常をかつて東太平洋―南極海嶺 (PAR) で部分溶融・脱ガスした後の残留固相がNCR形成時に再溶融し,N-MORBソースと混合することで21Ne/22Ne比が増加したと解釈した.一方,SCRにおいては,Strum et al. (1999) によりセグメント1から4で採取したMORBについてSr・Nd・Pb同位体組成と共にHe同位体組成の報告があるが,その他の希ガス同位体組成についてはこれまで測定されていなかった.沼田(2020BS)はSCRセグメント1南部のMORBガラスについて新たに希ガス同位体組成を測定し,大気Ne同位体組成に近いながらもNe同位体組成異常を明らかにした.本研究では,このNe同位体組成異常をより高精度に求めて他の希ガス同位体組成や主要・微量元素組成と比較・検討するために,SCRセグメント1の北部と中央部で採取したMORBについても主要・微量元素組成および希ガス同位体組成を明らかにした.さらに,NCRとの関連性について比較・検討しながらSCRセグメント1におけるNe同位体組成異常の成因について考察を行なった.
今回,新たに分析を行なったSCRセグメント1のMORBガラスのNe同位体組成はN-MORBよりも強い核反応起源21Neの影響を示し(図1),その一部はNCRよりもさらに強い影響を示した.一方,3He/4He比はN-MORBの組成範囲内であり,NCRと比較しても大差はないが,40Ar/36Ar比の最大値はNCRと比較して低い傾向を示した.また,主要元素組成はN-MORBの特徴を示し,微量元素も一部の親石元素を除きN-MORBを示した.これらの結果はStrum et al. (1999) の結果と一致し,SCRセグメント1のマントルソースは,U・Thの濃度がN-MORBソースよりも高いとは考えにくい.以上のことから,SCRセグメント1のMORBガラスのNe同位体組成異常についても,Niedermann and Bach (1998) がNCRにおいて指摘しているように,脱ガスにより (U+Th)/22Ne比が高くなったPAR起源のマントルソースが再溶融したとするモデルを示唆する.
SCRセグメント1のMORBガラスのNe同位体組成異常がNCRよりも大きいものが産する理由は,SCRとPARの距離がNCRと比較して約2倍以上あるため,SCRではより長い時間効果の影響を受けたPAR起源のマントルが再溶融したためと考えられる.一方,今回得たSCRセグメント1のMORBガラスのAr同位体組成は,NCRで見られたような放射性起源の特徴を顕著に見いだすことはできなかった.前者についてはHeの拡散係数が大きいため,N-MORBソースであるアセノスフェリック・マントルと平衡化したためと考えられる.後者については,溶解度依存のガスロスによりHeおよびNeに対してマントル由来のArが選択的に抜けてしまったため,見かけ上40Ar/36Ar比が低くなったことが原因であると考えられる.NCRおよびSCRセグメント1のMORBは,マグマが生成される前のマントル中では平衡脱ガスを受けており,噴出後のガスロスでは気液分離によりHeに対してNeおよびArが損失するような溶解度依存の分別作用を受けている.これらはHe-Ne-Arの元素比から評価することができ,平衡脱ガスおよびガスロスの影響は,NCR玄武岩よりもSCRセグメント1玄武岩の方が大きい(図2).
チリ南部の南緯46度付近ではチリ海嶺が南米大陸西縁に沈み込んでおり,海溝―海溝―海嶺型のチリ三重会合点 (CTJ) (例えば,Herron et al., 1981) を形成している.チリ海嶺の拡大軸はCTJから北西に約2,000 kmに渡り発達しており,Valdivia断裂帯を境にNorth Chile Ridge (NCR) とSouth Chile Ridge (SCR) に分けられている.Niedermann and Bach (1998) は,NCRから採取したMORBガラスにおいて,通常の中央海嶺玄武岩 (N-MORB) よりも高い21Ne/22Ne比をMORBについて世界で初めて報告した.彼らはこの異常をかつて東太平洋―南極海嶺 (PAR) で部分溶融・脱ガスした後の残留固相がNCR形成時に再溶融し,N-MORBソースと混合することで21Ne/22Ne比が増加したと解釈した.一方,SCRにおいては,Strum et al. (1999) によりセグメント1から4で採取したMORBについてSr・Nd・Pb同位体組成と共にHe同位体組成の報告があるが,その他の希ガス同位体組成についてはこれまで測定されていなかった.沼田(2020BS)はSCRセグメント1南部のMORBガラスについて新たに希ガス同位体組成を測定し,大気Ne同位体組成に近いながらもNe同位体組成異常を明らかにした.本研究では,このNe同位体組成異常をより高精度に求めて他の希ガス同位体組成や主要・微量元素組成と比較・検討するために,SCRセグメント1の北部と中央部で採取したMORBについても主要・微量元素組成および希ガス同位体組成を明らかにした.さらに,NCRとの関連性について比較・検討しながらSCRセグメント1におけるNe同位体組成異常の成因について考察を行なった.
今回,新たに分析を行なったSCRセグメント1のMORBガラスのNe同位体組成はN-MORBよりも強い核反応起源21Neの影響を示し(図1),その一部はNCRよりもさらに強い影響を示した.一方,3He/4He比はN-MORBの組成範囲内であり,NCRと比較しても大差はないが,40Ar/36Ar比の最大値はNCRと比較して低い傾向を示した.また,主要元素組成はN-MORBの特徴を示し,微量元素も一部の親石元素を除きN-MORBを示した.これらの結果はStrum et al. (1999) の結果と一致し,SCRセグメント1のマントルソースは,U・Thの濃度がN-MORBソースよりも高いとは考えにくい.以上のことから,SCRセグメント1のMORBガラスのNe同位体組成異常についても,Niedermann and Bach (1998) がNCRにおいて指摘しているように,脱ガスにより (U+Th)/22Ne比が高くなったPAR起源のマントルソースが再溶融したとするモデルを示唆する.
SCRセグメント1のMORBガラスのNe同位体組成異常がNCRよりも大きいものが産する理由は,SCRとPARの距離がNCRと比較して約2倍以上あるため,SCRではより長い時間効果の影響を受けたPAR起源のマントルが再溶融したためと考えられる.一方,今回得たSCRセグメント1のMORBガラスのAr同位体組成は,NCRで見られたような放射性起源の特徴を顕著に見いだすことはできなかった.前者についてはHeの拡散係数が大きいため,N-MORBソースであるアセノスフェリック・マントルと平衡化したためと考えられる.後者については,溶解度依存のガスロスによりHeおよびNeに対してマントル由来のArが選択的に抜けてしまったため,見かけ上40Ar/36Ar比が低くなったことが原因であると考えられる.NCRおよびSCRセグメント1のMORBは,マグマが生成される前のマントル中では平衡脱ガスを受けており,噴出後のガスロスでは気液分離によりHeに対してNeおよびArが損失するような溶解度依存の分別作用を受けている.これらはHe-Ne-Arの元素比から評価することができ,平衡脱ガスおよびガスロスの影響は,NCR玄武岩よりもSCRセグメント1玄武岩の方が大きい(図2).