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[SGC36-04] 伊豆諸島火山岩のモリブデン同位体組成
キーワード:伊豆諸島、モリブデン同位体組成、火山
沈み込み帯に配列する火山を形成したマグマは、沈み込むプレート由来の流体がマントルの融点降下を引き起こすことにより発生する。流体の化学組成はプレートの沈み込みに伴って連続的に変化し、そのことが島弧火山の組成多様性を生み出す要因の一つとなっている。これまで、火山岩の種々の元素存在度及び同位体組成を用いて、沈み込み帯の脱水過程や初生マグマの発生に関する地球化学的議論が数多く行われてきた。近年では、従来広く用いられてきた地球化学的トレーサーである放射壊変起源同位体 (Sr, Nd, Hf, Pbなど) や軽元素安定同位体 (Li, B, C, N, O, Sなど) に限らず、重元素安定同位体を使った研究も行われている。特に、Mo同位体は沈み込むプレートからの脱水過程に伴い質量依存の分別をすると考えられており、新たなトレーサーとして注目されている (e.g., [1-2]) 。Mo同位体を使った研究は北部伊豆諸島においても行われているが[2]、先行研究では新島以深の沈み込み帯下の情報が得られていない。これは、新島よりも太平洋プレートの沈み込み深度の深い背弧側には、玄武岩が単独で噴出している火山島がないためである。沈み込み深度の深い背弧側の玄武岩試料を用いた地球化学的研究では伊豆諸島のスミスリフトでの海山や背弧海盆玄武岩を用いた研究があるが (e.g., [3])、海山試料の多くは噴出年代が不明なものや、四国海盆拡大時に形成された火山島も含まれ、火山フロントで活動する第四紀の玄武岩と比較することが難しい。
我々はこれまで、新島よりも背弧側に位置する神津島において、流紋岩中に見られる玄武岩質捕獲岩に着目し、その主要元素・微量元素の特徴が新島よりも沈み込みの深い場所に由来する可能性を示した[4]。本研究では伊豆諸島火山岩のMo同位体組成に着目し、ダブルスパイク法を用いた表面電離型質量分析計 (TIMS) によるMo同位体測定法を立ち上げ、伊豆大島・新島・神津島の火成岩試料の測定を行った。δ98/95Mo (標準物質NIST 3134からの偏差) は伊豆大島で–0.24 ± 0.19 ‰ (N=13, 2SD)、新島で –0.39 ± 0.01 ‰、神津島で –0.58 ± 0.15 ‰ (N=4, 2SD) という値を示した。伊豆諸島では伊豆大島から新島にかけて、δ98/95Moが火山フロントから背弧にかけて低くなることが知られている[2]。本研究により、新島よりも背弧側的な特徴を持つ神津島玄武岩質捕獲岩が、新島よりも低いδ98/95Moを持つことが分かった。このような低いMo同位体組成を作る可能性として表層付近のプロセス、すなわち捕獲岩のホストである流紋岩の混入や海水の影響が考えられる。しかし、神津島の流紋岩のMo同位体組成を測定したところ、δ98/95Moは–0.33 から–0.14 ‰の範囲で変動しており、玄武岩質捕獲岩より高い値であった。また、海水のMo同位体組成はδ98/95Mo = 2.3 ± 0.1 ‰ [5]であり、玄武岩質捕獲岩より有意に高い。従って、神津島の玄武岩質捕獲岩が持つ低いδ98/95Mo値はより深部のプロセス、すなわち沈み込むプレートから脱水した流体の影響が原因であると考えられる。今回の結果は、新島-神津島の間においても連続的な脱水が起きており、火山フロント同様、新島よりも背弧側の地域においても、重いMo同位体が脱水する流体に選択的に分配されることを示唆する。このような連続的な脱水とそれに伴うMo同位体分別により、伊豆弧域においても、軽いMo同位体組成を持つ脱水したスラブ物質がマントル深部へと供給されることが明らかとなった。
参考文献
[1] Freymuth, Heye, et al. "Molybdenum mobility and isotopic fractionation during subduction at the Mariana arc." Earth and Planetary Science Letters 432 (2015): 176-186.
[2] Villalobos-Orchard, Javiera, et al. "Molybdenum isotope ratios in Izu arc basalts: The control of subduction zone fluids on compositional variations in arc volcanic systems." Geochimica et Cosmochimica Acta 288 (2020): 68-82.
[3] Tollstrup, Darren, et al. "Across‐arc geochemical trends in the Izu‐Bonin arc: Contributions from the subducting slab, revisited." Geochemistry, Geophysics, Geosystems 11.1 (2010).
[4] 田村達也 横山哲也 石川晃 JpGU-AGU Joint Meeting 2020 SGC49-06 神津島流紋岩及び玄武岩質捕獲岩の地球化学的研究
[5] Siebert, Christopher, et al. "Molybdenum isotope records as a potential new proxy for paleoceanography." Earth and Planetary Science Letters 211.1-2 (2003): 159-171.
我々はこれまで、新島よりも背弧側に位置する神津島において、流紋岩中に見られる玄武岩質捕獲岩に着目し、その主要元素・微量元素の特徴が新島よりも沈み込みの深い場所に由来する可能性を示した[4]。本研究では伊豆諸島火山岩のMo同位体組成に着目し、ダブルスパイク法を用いた表面電離型質量分析計 (TIMS) によるMo同位体測定法を立ち上げ、伊豆大島・新島・神津島の火成岩試料の測定を行った。δ98/95Mo (標準物質NIST 3134からの偏差) は伊豆大島で–0.24 ± 0.19 ‰ (N=13, 2SD)、新島で –0.39 ± 0.01 ‰、神津島で –0.58 ± 0.15 ‰ (N=4, 2SD) という値を示した。伊豆諸島では伊豆大島から新島にかけて、δ98/95Moが火山フロントから背弧にかけて低くなることが知られている[2]。本研究により、新島よりも背弧側的な特徴を持つ神津島玄武岩質捕獲岩が、新島よりも低いδ98/95Moを持つことが分かった。このような低いMo同位体組成を作る可能性として表層付近のプロセス、すなわち捕獲岩のホストである流紋岩の混入や海水の影響が考えられる。しかし、神津島の流紋岩のMo同位体組成を測定したところ、δ98/95Moは–0.33 から–0.14 ‰の範囲で変動しており、玄武岩質捕獲岩より高い値であった。また、海水のMo同位体組成はδ98/95Mo = 2.3 ± 0.1 ‰ [5]であり、玄武岩質捕獲岩より有意に高い。従って、神津島の玄武岩質捕獲岩が持つ低いδ98/95Mo値はより深部のプロセス、すなわち沈み込むプレートから脱水した流体の影響が原因であると考えられる。今回の結果は、新島-神津島の間においても連続的な脱水が起きており、火山フロント同様、新島よりも背弧側の地域においても、重いMo同位体が脱水する流体に選択的に分配されることを示唆する。このような連続的な脱水とそれに伴うMo同位体分別により、伊豆弧域においても、軽いMo同位体組成を持つ脱水したスラブ物質がマントル深部へと供給されることが明らかとなった。
参考文献
[1] Freymuth, Heye, et al. "Molybdenum mobility and isotopic fractionation during subduction at the Mariana arc." Earth and Planetary Science Letters 432 (2015): 176-186.
[2] Villalobos-Orchard, Javiera, et al. "Molybdenum isotope ratios in Izu arc basalts: The control of subduction zone fluids on compositional variations in arc volcanic systems." Geochimica et Cosmochimica Acta 288 (2020): 68-82.
[3] Tollstrup, Darren, et al. "Across‐arc geochemical trends in the Izu‐Bonin arc: Contributions from the subducting slab, revisited." Geochemistry, Geophysics, Geosystems 11.1 (2010).
[4] 田村達也 横山哲也 石川晃 JpGU-AGU Joint Meeting 2020 SGC49-06 神津島流紋岩及び玄武岩質捕獲岩の地球化学的研究
[5] Siebert, Christopher, et al. "Molybdenum isotope records as a potential new proxy for paleoceanography." Earth and Planetary Science Letters 211.1-2 (2003): 159-171.