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[SGC36-P03] 始源的マントルの強親鉄元素存在度の推定:チモール−タニンバルオフィオライトカンラン岩からの制約
キーワード:強親鉄元素、白金族元素、始源的マントル、インドネシア、東チモール
強親鉄元素(Highly Siderophile Elements [Ru, Rh, Pd, Re, Os, Ir, Pt, Au] : HSE)は、地球内部ではそのほとんどが金属核に濃集しており、ケイ酸塩マントル中での存在度は極微量(µg/gレベル)である。しかし、極微量であるが故に、マントル中のHSE濃度は金属相が関与する過程に敏感であり、地球形成時の核−マントル分離過程およびその後の核−マントル相互作用の実態などを解明する上で鍵となる。特に、核と分離した時点におけるマントル、すなわち「始源的マントル」におけるHSE存在度を正確に推定することは、マントルの化学進化の出発点を制約するという意味で極めて重要である。始源的マントルのHSE存在度の推定は、Al2O3など部分融解によって取り去られる成分(メルト成分)に富む組成をもつカンラン岩(レールゾライト)の組成に基づいて行われてきた[1]。なぜなら、部分融解を被っている度合いが低いカンラン岩ほど、始源的なマントル組成に近いと考えることができるからである。しかし、レールゾライトの多くは、メルト成分に枯渇したカンラン岩(ハルツバーガイト)に玄武岩質メルトが後から付け加わる過程(refertilization)によってもとの組成を改変されていると考えられるため[2]、始源的マントルの推定には実際は適さない。始源的マントルのHSE存在度をより正確に推定するには、始源的マントルから取り去られたと想定されるメルトとハルツバーガイトが混合したものを始源的マントル組成とするパイロライトモデル[3]をHSE組成に適用する方法が考えられる。しかし、ハルツバーガイトは一般に、HSEの組成多様性がレールゾライトより大きい[4]。これは、ハルツバーガイトのHSE組成が、レールゾライトに比べてメタソマティズムなどの二次的な改変過程の影響を受けやすいことを示唆している。したがって、パイロライトモデルにより始源的マントルのHSE組成を推定するには、二次的改変の影響の少ないハルツバーガイトのデータを必要とする。
インドネシア東部に分布するチモール−タニンバルオフィオライト(TTO)は、ユーラシアプレートへのオーストラリアプレートの沈み込みによって形成されたスンダ−バンダ火山弧の前弧域に位置し、ユーラシアプレートを構成するリソスフェア起源と考えられるカンラン岩(ハルツバーガイト〜レールゾライト)を含む。これらのカンラン岩は、岩石組織・鉱物化学組成・全岩主成分元素組成などから、ハルツバーガイト・レールゾライトともに二次的な改変過程をほとんど被っていないと考えられている[5]。そこで本研究では、TTOカンラン岩の全岩HSE組成を用いて、始源的マントルのHSE組成を制約することを試みた。TTOカンラン岩のHSE組成は、ハルツバーガイト・レールゾライトともに、Pt・Pd・Reの濃度にある程度のばらつきは見られるものの、他地域に比較するとかなり多様性は小さい。TTOハルツバーガイトの特にAlに乏しいものと平均的MORBを用いたパイロライトモデルにより始源的マントルHSE組成を計算すると、Beckerらの始源的マントルHSE存在度[1]に比較してReが4倍以上高くそれ以外は4分の1程度となり、相対濃度パターンはコンドライトと大きく異なる。一方、TTOカンラン岩のHSE組成多様性を単純な部分融解によるメルト成分枯渇によりできたものと仮定すると、これらの起源となったカンラン岩のHSE濃度は、Beckerらの始源的マントルの値にかなり近くなるが、取り去られたメルトのHSE濃度の計算値は、Ptを除いてTTOカンラン岩の平均値と同等以上という非現実的な値となる。以上のことから、TTOハルツバーガイトの起源カンラン岩は、Re以外のHSEに枯渇した組成であった可能性が高い。このことは、マントルのHSE組成が、地域やテクトニックセッティングごとに、主成分元素組成よりもはるかに大きな多様性を持つことを示唆しており、その多様性の成因を解明することが、始源的マントルのHSE存在度を精確に推定する上で必要である。
[1] Becker H. et al. 2006, Geochim. Cosmochim. Acta 70, 4528-4550.
[2] Le Roux V. et al. 2007, Earth Planet. Sci. Lett. 259, 599-612.
[3] Ringwood T.E. 1962, J. Geophys. Res. 67, 57-866.
[4] Aulbach A. et al. 2016, Rev. Mineral. Geochem. 81, 239-304.
[5] Ishikawa A. et al. 2007, Gondwana Res. 11, 200-217.
インドネシア東部に分布するチモール−タニンバルオフィオライト(TTO)は、ユーラシアプレートへのオーストラリアプレートの沈み込みによって形成されたスンダ−バンダ火山弧の前弧域に位置し、ユーラシアプレートを構成するリソスフェア起源と考えられるカンラン岩(ハルツバーガイト〜レールゾライト)を含む。これらのカンラン岩は、岩石組織・鉱物化学組成・全岩主成分元素組成などから、ハルツバーガイト・レールゾライトともに二次的な改変過程をほとんど被っていないと考えられている[5]。そこで本研究では、TTOカンラン岩の全岩HSE組成を用いて、始源的マントルのHSE組成を制約することを試みた。TTOカンラン岩のHSE組成は、ハルツバーガイト・レールゾライトともに、Pt・Pd・Reの濃度にある程度のばらつきは見られるものの、他地域に比較するとかなり多様性は小さい。TTOハルツバーガイトの特にAlに乏しいものと平均的MORBを用いたパイロライトモデルにより始源的マントルHSE組成を計算すると、Beckerらの始源的マントルHSE存在度[1]に比較してReが4倍以上高くそれ以外は4分の1程度となり、相対濃度パターンはコンドライトと大きく異なる。一方、TTOカンラン岩のHSE組成多様性を単純な部分融解によるメルト成分枯渇によりできたものと仮定すると、これらの起源となったカンラン岩のHSE濃度は、Beckerらの始源的マントルの値にかなり近くなるが、取り去られたメルトのHSE濃度の計算値は、Ptを除いてTTOカンラン岩の平均値と同等以上という非現実的な値となる。以上のことから、TTOハルツバーガイトの起源カンラン岩は、Re以外のHSEに枯渇した組成であった可能性が高い。このことは、マントルのHSE組成が、地域やテクトニックセッティングごとに、主成分元素組成よりもはるかに大きな多様性を持つことを示唆しており、その多様性の成因を解明することが、始源的マントルのHSE存在度を精確に推定する上で必要である。
[1] Becker H. et al. 2006, Geochim. Cosmochim. Acta 70, 4528-4550.
[2] Le Roux V. et al. 2007, Earth Planet. Sci. Lett. 259, 599-612.
[3] Ringwood T.E. 1962, J. Geophys. Res. 67, 57-866.
[4] Aulbach A. et al. 2016, Rev. Mineral. Geochem. 81, 239-304.
[5] Ishikawa A. et al. 2007, Gondwana Res. 11, 200-217.