日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD01] 地殻変動

2022年5月26日(木) 10:45 〜 12:15 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:落 唯史(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)、コンビーナ:加納 将行(東北大学理学研究科)、富田 史章(東北大学災害科学国際研究所)、コンビーナ:横田 裕輔(東京大学生産技術研究所)、座長:福島 洋(東北大学災害科学国際研究所)、山崎 雅(産業技術総合研究所)

11:00 〜 11:15

[SGD01-02] InSARを用いた御嶽山浅部圧力源の粘弾性応答の評価

*坂本 侑太1伊藤 武男1 (1.名古屋大学)


キーワード:御嶽山、InSAR、GNSS、粘弾性緩和

御嶽山は日本で二番目に高い活火山であり, 有史以降初めて1979年に噴火し, その後も1991, 2007, 2014年にも水蒸気噴火が発生した. このうち, 2014年9月27日に発生した噴火の火口からは現在も噴気が噴出し続けており, 今後も常時観測が欠かせない. この御嶽山内部の圧力源を解明するため, これまで多くの先行研究が半無限弾性体を仮定した茂木モデルに基づいて行われてきた(e.g., Murase et al. 2016; Takagi and Onizawa 2016). 一方, Segall(2016)は半無限弾性体中に置かれた粘弾性殻を伴う球状圧力源を仮定し, 山体内部の圧力変化に伴う地表変位の解析解を求めた. 一般的に山体内部の圧力源が増圧すると地表面は隆起することが予想されるが, Segall(2016)は圧力源が増圧しているにもかかわらず噴火後に一時的な沈降が見られる可能性を指摘した. 本研究では, Segall(2016)のモデルをNarita and Murakami(2018)が推定した浅部の球状圧力源(深さ500 m)に適用して, 粘弾性殻が地表変位に与える影響を評価した.

ALOS-2/PALSAR-2が2014年8月〜2021年11月に観測した御嶽山のSAR画像を干渉解析して, 地表面の地殻変動時系列を求めた. InSAR解析にはRINC(Ozawa et al. 2016)とそのGUIツールのrinc_gui(Okuyama 2018)を用いた。また, GEONETの高根(950281)を基準とし, F5解により地殻変動成分を補正した. このような補正を加えた上で, 山頂周辺13点において, 衛星視線方向の変位量(dLOS)の時間変化を求めた(図). 次に, この観測dLOS時系列に対して, Segallのモデルから作成したモデルdLOS時系列が一致するようなモデルパラメータを探した. この時, 粘弾性緩和に関わるパラメータ(粘弾性殻の粘性率と厚さ)以外のパラメータを固定して, forward計算によりパラメータを推定した.

InSAR時系列解析の結果, 圧力源周辺では2014年噴火から継続していた山体収縮の傾向が噴火後7年経過して, ようやく停滞に近づいてきたことがわかった. この結果は山頂付近に設置されたキャンペーンGNSS観測点の変動時系列(2016年〜2021年)と矛盾がない結果となった. また, Segallのモデルパラメータを推定した結果, 粘性率: 3×1016 Pa・s, 厚さ:66 mの粘弾性殻を伴う球状圧力源の存在を仮定すると, InSAR解析で観測された地表の沈降は粘弾性緩和の影響として説明可能である. 浅部については本研究の解析結果から2021年現在も山体収縮はわずかに継続しているようである一方, 深部については気象庁のGNSS基線(落合唐谷-田の原基線:約8.5 km)の変動時系列を見ると, 山体収縮の傾向は2021年に入ってほとんど停滞していることから, 深部からのガスの放出がほとんど終息したことが示唆される.

今後の展望として, 逆解析によるモデルパラメータ推定, GNSSの変動時系列を用いて深部圧力源のモデルパラメータ推定も実施し, 山体内部の包括的な理解を目指している.

本研究で用いたPALSAR-2データはPIXEL(PALSAR Interferometry Consortium to Study our Evolving Land surface)において共有しているものであり, 宇宙航空研究開発機構(JAXA)とPIXELとの共同研究契約に基づきJAXAから提供されたものである. PALSAR-2データの所有権はJAXAにある. また, 本研究は東京大学地震研究所共同利用(2021-B-03)の援助をうけた.