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[SGD01-P01] 東北地方太平洋沖地震の余効変動を予測する時空間関数モデルが共通の時定数で表現できるのはなぜか
キーワード:東北地方太平洋沖地震、地殻変動、余効変動、GNSS時系列、予測モデル
はじめに
国土地理院の電子基準点で観測されている平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の余効変動の時系列は、対数と指数関数による簡単な関数で近似することができ、広域にわたる余効変動を高精度に予測可能としている。この際、全観測点・全成分で同一の時定数を使用しても十分精度よく予測が行えることがわかっている。 このことにより、関数型とその取り扱いがシンプルになり、この関数モデルの利便性と応用性を著しく高めている。本報告では、東北地方太平洋沖地震の余効変動予測関数モデルが共通・同一の時定数で表現できるのはなぜかを考察する。
手法と結果
Tobita (2016)による下記の式で表される2個の対数及び1個の指数関数の混合モデルを用いる。
D(t) = a ln(1+ t/b) + c + d ln(1+ t/e) - f exp(– t/g) + Vt
ここで、D(t)は余効変動時系列の各成分、t は地震後の日数、ln は自然対数、b、e、g は全観測点に共通の緩和時定数、V は2011年以前の観測点ごとの定常速度である。時定数は、代表的な変動を示す観測点を用いて非線形最小二乗法で決定し、その他の観測点については、決定された時定数を共通に与えることで、a、d、fを観測点・成分ごとに最小二乗法で決定する。ここでは、共通になる各対数または指数関数を時間関数、場所・成分ごとの係数にあたるa, d, fを空間関数と呼ぶ。
この式による成分以外に、2015年から一定速度で蓄積する変動が広範囲で見いだされており、プレート面上での新たな定常すべりが2015年以降発生していると推定される。この成分を別途近似して取り除くことで、北海道から中部地方までの観測点において残差の総合的な標準偏差を水平成分で0.4cm以下に抑えた関数モデルが作成できている(Fujiwara et al. 2022)。
時定数を求める観測点の組み合わせを変えると時定数の解が収束しなかったり、近似期間を変えると時定数解が変化したりすることから、時定数がいつでもどこでも特定の同一のものとはならない。それにもかかわらず、実用的には同じ時定数がなぜ使用しうるかについて調べた。
まず、近似期間を地震後3.9年として時定数を求め、時定数ごとの空間関数を図に表示した。各空間関数はランダムではなく、一定の広がりをもった分布を示す。つまり、地上で観測される余効変動は観測点近傍のローカルな効果は十分小さく、プレート面上の余効すべりや上部マントル粘弾性緩和が観測されている。なお、物理モデルのシミュレーション結果との比較により、短周期の対数項は余効すべり、長周期の対数項と指数項の和は粘弾性緩和の分布と調和的であることがわかっている(Fujiwara et al. 2022)。
ここで、近似期間を2.0年としたものと3.9年とした関数を求め、比較を行い、以下の結果を得た。
(1) 空間関数(a、d、f)と時定数(b、e、g)が、それぞれ強い相関を持っている。したがって、各係数が特定の組み合わせでなくても余効変動の時系列を十分説明できる。
(2) 時定数が変わると、空間関数の配分は全観測点で一定の割合で変化し、トータルの関数モデルとしての変化を吸収する。これは各関数の時定数が数日、数十日、数千日となっており、時間関数の変化を時定数が異なる空間関数間の配分の変化として置き換えるものである。
(3) この結果、時定数(b、e、g)が最適解から少しずれても空間関数が変わることで総合的な残差を十分小さくすることできる。
Tobita(2016)は一つの対数関数が別々の時定数を持つ複数の対数関数の和をよく近似することを示しており、異なる時定数の成分が含まれているとしても、全体を統一された時定数の関数で近似できる要因となっている。
まとめ
東北地方太平洋沖地震の余効変動は複数の緩和時定数をもつ複合的な現象であり、各現象はシステマティックに発生・伝播し地上で観測される。実用的には、時定数が数日、数十日、数千日を持つ3つの関数による共通の時間関数を設定し、各関数間の配分を空間関数で調整することで各点・各成分の時系列が簡潔かつ高精度に表現されうる。
参考文献
Tobita M (2016) Earth Planets Space. https://doi.org/10.1186/s40623-016-0422-4.
Fujiwara S, Tobita M, and Ozawa S (2022) Earth Planets Space. https://doi.org/10.1186/s40623-021-01568-0
国土地理院の電子基準点で観測されている平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の余効変動の時系列は、対数と指数関数による簡単な関数で近似することができ、広域にわたる余効変動を高精度に予測可能としている。この際、全観測点・全成分で同一の時定数を使用しても十分精度よく予測が行えることがわかっている。 このことにより、関数型とその取り扱いがシンプルになり、この関数モデルの利便性と応用性を著しく高めている。本報告では、東北地方太平洋沖地震の余効変動予測関数モデルが共通・同一の時定数で表現できるのはなぜかを考察する。
手法と結果
Tobita (2016)による下記の式で表される2個の対数及び1個の指数関数の混合モデルを用いる。
D(t) = a ln(1+ t/b) + c + d ln(1+ t/e) - f exp(– t/g) + Vt
ここで、D(t)は余効変動時系列の各成分、t は地震後の日数、ln は自然対数、b、e、g は全観測点に共通の緩和時定数、V は2011年以前の観測点ごとの定常速度である。時定数は、代表的な変動を示す観測点を用いて非線形最小二乗法で決定し、その他の観測点については、決定された時定数を共通に与えることで、a、d、fを観測点・成分ごとに最小二乗法で決定する。ここでは、共通になる各対数または指数関数を時間関数、場所・成分ごとの係数にあたるa, d, fを空間関数と呼ぶ。
この式による成分以外に、2015年から一定速度で蓄積する変動が広範囲で見いだされており、プレート面上での新たな定常すべりが2015年以降発生していると推定される。この成分を別途近似して取り除くことで、北海道から中部地方までの観測点において残差の総合的な標準偏差を水平成分で0.4cm以下に抑えた関数モデルが作成できている(Fujiwara et al. 2022)。
時定数を求める観測点の組み合わせを変えると時定数の解が収束しなかったり、近似期間を変えると時定数解が変化したりすることから、時定数がいつでもどこでも特定の同一のものとはならない。それにもかかわらず、実用的には同じ時定数がなぜ使用しうるかについて調べた。
まず、近似期間を地震後3.9年として時定数を求め、時定数ごとの空間関数を図に表示した。各空間関数はランダムではなく、一定の広がりをもった分布を示す。つまり、地上で観測される余効変動は観測点近傍のローカルな効果は十分小さく、プレート面上の余効すべりや上部マントル粘弾性緩和が観測されている。なお、物理モデルのシミュレーション結果との比較により、短周期の対数項は余効すべり、長周期の対数項と指数項の和は粘弾性緩和の分布と調和的であることがわかっている(Fujiwara et al. 2022)。
ここで、近似期間を2.0年としたものと3.9年とした関数を求め、比較を行い、以下の結果を得た。
(1) 空間関数(a、d、f)と時定数(b、e、g)が、それぞれ強い相関を持っている。したがって、各係数が特定の組み合わせでなくても余効変動の時系列を十分説明できる。
(2) 時定数が変わると、空間関数の配分は全観測点で一定の割合で変化し、トータルの関数モデルとしての変化を吸収する。これは各関数の時定数が数日、数十日、数千日となっており、時間関数の変化を時定数が異なる空間関数間の配分の変化として置き換えるものである。
(3) この結果、時定数(b、e、g)が最適解から少しずれても空間関数が変わることで総合的な残差を十分小さくすることできる。
Tobita(2016)は一つの対数関数が別々の時定数を持つ複数の対数関数の和をよく近似することを示しており、異なる時定数の成分が含まれているとしても、全体を統一された時定数の関数で近似できる要因となっている。
まとめ
東北地方太平洋沖地震の余効変動は複数の緩和時定数をもつ複合的な現象であり、各現象はシステマティックに発生・伝播し地上で観測される。実用的には、時定数が数日、数十日、数千日を持つ3つの関数による共通の時間関数を設定し、各関数間の配分を空間関数で調整することで各点・各成分の時系列が簡潔かつ高精度に表現されうる。
参考文献
Tobita M (2016) Earth Planets Space. https://doi.org/10.1186/s40623-016-0422-4.
Fujiwara S, Tobita M, and Ozawa S (2022) Earth Planets Space. https://doi.org/10.1186/s40623-021-01568-0