日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD01] 地殻変動

2022年6月3日(金) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (19) (Ch.19)

コンビーナ:落 唯史(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)、コンビーナ:加納 将行(東北大学理学研究科)、富田 史章(東北大学災害科学国際研究所)、コンビーナ:横田 裕輔(東京大学生産技術研究所)、座長:落 唯史(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)、加納 将行(東北大学理学研究科)

11:00 〜 13:00

[SGD01-P03] 測地データを用いた2011年東北沖地震後のプレート境界での非地震性すべりイベントの検出

*富田 史章1 (1.東北大学災害科学国際研究所)

キーワード:2011年東北沖地震、GNSS測位、スロースリップイベント、余効すべり

沈み込み帯のプレート境界における非地震性すべりの発生状況を把握することは,プレート境界の摩擦特性や歪みの空間的な解放状態を知る上で極めて重要である.2011年東北沖地震以前については,M7程度のプレート境界型地震に伴う余効すべり [Suito et al., 2011],長期的な非地震性すべり(あるいは,固着の状態の変化)イベント [e.g., Yokota et al., 2015; Mavrommatis et al., 2015],プレート境界浅部域の自発的スロースリップイベント(SSE) [Ito et al., 2015],プレート境界型地震に伴う周期的なSSE [Uchida et al., 2016]等が報告されている.2011年東北沖地震以降については,2011年東北沖地震に伴う大規模な余効変動が支配的となっているため,測地データを用いて小規模な非地震性すべりイベントを検出することが難しくなっている.本研究では,陸域GNSSデータの時系列を関数近似する(trajectory model [e.g., Bevis & Brown, 2014])ことで,小規模な非地震性すべりイベントの検出を試みた.
陸域GNSSデータとして,国土地理院GEONET観測点の内,北緯36°N–42°N・東経139°E以東の213観測点におけるF5解を用いた.データの期間は,2011年東北沖地震後の2011年3月12日から2021年11月20日までを活用した.データに対して,Wdonwinski et al. [1997]による共通誤差成分の除去と,地震時,及びアンテナ保守時のオフセットの除去を行った.これらの補正を行った時系列データに対して,Fujiwara et al. [2022]で示された2011年東北沖地震の余効変動を表現するモデル,及びM6以上の地震に伴う余効変動を表現するための指数関数を地震毎に与えて,関数近似を行った.その結果,2020年以降に地震に伴う余効変動では説明しきれない変動が現れたため,2020年2月6日以降にRamp関数を加えて再度関数近似を行い,観測データを概ね説明可能であることを確かめた.
関数近似の結果の残差から,顕著な地震活動を伴わない自発的なSSEとして,2018年房総沖SSE [e.g., Ozawa et al., 2019]のみが見出された.地震に伴う余効変動として関数近似されたイベントの内,2013年以前のイベントは短期間に続発していたためにイベント毎のシグナルの分離が困難であった.2013年以降にプレート境界型地震に伴う余効変動として特に顕著な変動を示したのは,次の4イベントである:[1] 2015年2月17日三陸沖の地震(Mw6.7),[2] 2015年5月13日宮城県沖の地震(Mw6.8), [3] 2020年3月20日宮城県沖の地震(Mw7.1), [4] 2020年5月1日宮城県沖の地震(Mw6.8).これらのイベントの余効変動に対して,プレート境界での断層すべり分布の推定を行った.
上記の4つのイベントの内,[2]–[4]の余効すべりは宮城沖沿岸域に推定された.それらのすべり域は,Tomita et al. (2020)等で指摘される2011年東北沖地震に伴う余効すべり域と概ね重なることが分かった.一方で,[1]のイベントでは,Mw6.94に相当する非地震性すべりが,三陸沖の海溝近傍も含めた沖合まで広く分布する様子が見られた.Honsho et al. [2019]は,[1]のイベントに伴って,プレート境界浅部でSSEが励起されたことが指摘されており,その影響がGNSS-A観測データにも現れたことを報告している.そこで,陸域GNSSデータに加えて,GNSS-A観測データ(富田・他,本大会)も含めてすべり分布の推定を行ったところ,三陸沖プレート境界浅部にMw7.20のすべりが推定された.推定されたすべり分布は,繰り返し地震分布とそのすべり量 [Honsho et al., 2019]と調和的である.Honsho et al. [2019]では,すべり分布推定は行われていなかったため,本研究により[1]のイベントに伴う非地震性すべりの分布が初めて詳細に推定された.
2020年2月6日以降にRamp関数でモデル化した成分についても,断層すべりとして推定を行った.結果として, 2011年東北沖地震前の長期的な非地震性すべりイベント [e.g., Yokota et al., 2015]と類似したすべり分布が得られ,年間最大4 cm程度のすべりが推定された.ただし,この変動がプレート境界の固着すべりが起因しているかは,今後の変動の推移を含めて考察していく必要がある.