11:00 〜 13:00
[SGD01-P04] 複数の地殻変動観測種目を用いたスロースリップイベントのすべり分布推定について
キーワード:スロースリップイベント、異なる地殻変動データを統合的に用いたインバージョン、データの異常検知
南海トラフにおけるフィリピン海プレート沈み込み帯のプレート境界面上では,様々なタイプのスロー地震が発生している.このうち,継続期間が数日程度の短期的スロースリップイベント(SSE)は,主としてひずみ(小林ほか 2006)や傾斜のデータ(Obara et al 2004; Hirose and Obara 2005)で検出されている.ひずみや傾斜のデータは,短期的SSEを解析するために,均一すべりを持つ矩形断層モデルに使われてきたが,Tsuyuki et al. (2021) はABIC(Akaike 1980)を用いたひずみと傾斜のデータを同時に使ったインバージョンの手法を開発し,プレート境界面上での短期的SSEのすべり分布を推定した.この手法は,ひずみと傾斜に限らず,GNSSなどの地殻変動観測データもあわせて解析することが可能である.露木ほか(JpGU 2020)は,2018年から2019年にかけて発生した豊後水道の長期的SSEのすべり分布をGNSSとひずみのデータを使って解析し,この時期にみられるひずみデータの変化は長期的SSEによるものと考えられることを示した.
本発表では,複数の地殻変動観測種目を用いたすべり分布推定手法を改良するために以下の2点について検討を行った.
1)プレート境界面上でのすべり分布を推定するにあたり,すべり分布を展開する基底関数として用いる小断層を,どのようにプレート境界面上に配置するか.
2)インバージョンに用いる観測データ~特にひずみなど分解能は高いが長期的にみると変化の大きいデータ~のスロースリップイベントによる変化をどのように検知するか.
1について,すべり分布の推定に用いる小断層は矩形断層であり,小断層はプレート等深線データと整合するように配置するが,矩形断層ではなく三角形断層を用いれば,よりプレート境界面の形状に合わせることが可能になる.三角計断層を用いることによる効果を検討した.三角形の小断層上のすべりによるグリーン関数行列の計算には,三角形断層のすべりによる半無限弾性体での変形量の計算手法(Meade 2007; Nikkhoo and R. Walter 2015など)により算出するが,これを矩形断層の小断層を使った場合の結果と比較した.また,すべり分布の事前確率密度関数を計算する場合に,すべりがなめらかであるとする仮定が置かれるが,これは離散ラプラシアンを用いて定式化される.三角断層を配置した場合の定式化の方法についてMaerten et al. (2005)を検討した.
2について,地殻変動データの異常の検知は,一般的にはトレンドの変化を検出する.発表者が主として扱っているひずみのデータは,長期的にみると,季節的要因や降水の長期的な影響などを受けやすく,定常状態(プレート境界面上でのスロースリップなどによる広域的な地殻変動がない期間)のトレンドがどのようなものであるかを客観的に推定することは難しい.状態空間モデルを用いた異常検知の手法を検討したが(JpGU 2019),トレンドを客観的に推定するまでには至らなかった.機械学習では,時系列データに対する異常検知の手法として,k近傍法などが用いられるが,地殻変動データには多くのローカルな変化を含むことから,こうした異常検知の手法は広域的な変化を検知する方法としては十分でない.一方,ひずみデータのスタッキングの手法(宮岡・横田 2012)などではある場所にすべりを仮定してデータのスタッキングを行うので,変化の開始とすべりの場所を同時に検出することができる(露木ほか 2017).地殻変動データを扱う場合には,観測網全体のデータから推定する異常検知手法が適切であると考えられる.そこで,ネットワークインバージョンフィルタの手法(Segall and Matthews 1997)をひずみのデータに適用することはできないか検討してみた.
本発表では,複数の地殻変動観測種目を用いたすべり分布推定手法を改良するために以下の2点について検討を行った.
1)プレート境界面上でのすべり分布を推定するにあたり,すべり分布を展開する基底関数として用いる小断層を,どのようにプレート境界面上に配置するか.
2)インバージョンに用いる観測データ~特にひずみなど分解能は高いが長期的にみると変化の大きいデータ~のスロースリップイベントによる変化をどのように検知するか.
1について,すべり分布の推定に用いる小断層は矩形断層であり,小断層はプレート等深線データと整合するように配置するが,矩形断層ではなく三角形断層を用いれば,よりプレート境界面の形状に合わせることが可能になる.三角計断層を用いることによる効果を検討した.三角形の小断層上のすべりによるグリーン関数行列の計算には,三角形断層のすべりによる半無限弾性体での変形量の計算手法(Meade 2007; Nikkhoo and R. Walter 2015など)により算出するが,これを矩形断層の小断層を使った場合の結果と比較した.また,すべり分布の事前確率密度関数を計算する場合に,すべりがなめらかであるとする仮定が置かれるが,これは離散ラプラシアンを用いて定式化される.三角断層を配置した場合の定式化の方法についてMaerten et al. (2005)を検討した.
2について,地殻変動データの異常の検知は,一般的にはトレンドの変化を検出する.発表者が主として扱っているひずみのデータは,長期的にみると,季節的要因や降水の長期的な影響などを受けやすく,定常状態(プレート境界面上でのスロースリップなどによる広域的な地殻変動がない期間)のトレンドがどのようなものであるかを客観的に推定することは難しい.状態空間モデルを用いた異常検知の手法を検討したが(JpGU 2019),トレンドを客観的に推定するまでには至らなかった.機械学習では,時系列データに対する異常検知の手法として,k近傍法などが用いられるが,地殻変動データには多くのローカルな変化を含むことから,こうした異常検知の手法は広域的な変化を検知する方法としては十分でない.一方,ひずみデータのスタッキングの手法(宮岡・横田 2012)などではある場所にすべりを仮定してデータのスタッキングを行うので,変化の開始とすべりの場所を同時に検出することができる(露木ほか 2017).地殻変動データを扱う場合には,観測網全体のデータから推定する異常検知手法が適切であると考えられる.そこで,ネットワークインバージョンフィルタの手法(Segall and Matthews 1997)をひずみのデータに適用することはできないか検討してみた.