日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD01] 地殻変動

2022年6月3日(金) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (19) (Ch.19)

コンビーナ:落 唯史(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)、コンビーナ:加納 将行(東北大学理学研究科)、富田 史章(東北大学災害科学国際研究所)、コンビーナ:横田 裕輔(東京大学生産技術研究所)、座長:落 唯史(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)、加納 将行(東北大学理学研究科)

11:00 〜 13:00

[SGD01-P10] 地震動到達直後の地殻変動に及ぼす間隙水圧変化の影響

*向井 厚志1 (1.福山市立大学都市経営学部)

キーワード:歪ステップ、間隙水圧、断層破砕帯

神戸市の六甲高雄観測室では, 2018年大阪府北部地震などの大きな地震動をもたらす地震時において震源過程に伴う歪ステップが観測されてきた(向井他,2020)。しかし,観測された歪ステップと震源断層モデルに基づく計算値の間には若干の差異が存在している。本発表では,この差異が地震動到達直後に発生した局所的な間隙水圧変動に起因する可能性について検証する。
六甲高雄観測室は万福寺断層を貫く坑道に開設され,埋設型石井式歪計や間隙水圧計,湧水量計等による地殻変動の連続観測が続けられている。大きな地震時には顕著な湧水量の増加が生じ,それに伴う1µstrainオーダの歪変化が観測されてきた(向井・大塚,2012)。この歪変化は震源過程から推測される歪ステップより1桁以上大きく,周辺岩盤の間隙水流動は地震時の地殻変動シグナルを乱す重大な原因となりうる。地震時の間隙水流動は,地震動によって周辺岩盤の亀裂内の目詰まりがとれたり,亀裂同士が接続したりした結果として生じると推察される。こうした間隙水流動が始まるまでに若干の時間を要することから,地震動到達直後には震源過程に基づく歪変化が観測できる可能性がある。実際,向井他(2020)は,2011年東北地方太平洋沖地震および2018年大阪府北部地震の際に,地震動到達直後の数秒間にわたって震源断層の断層すべりによる歪ステップが六甲高雄観測室で観測されたことを報告している。
しかし,観測された歪ステップが震源過程に基づく計算値と完全に一致したわけではなく,両者の間には食い違いが存在する。例えば,2016年鳥取県中部地震に伴う歪ステップに関しては,観測値から計算値を除去したのちの残差はN14°W-S14°E方向の伸びを示した。また,2018年大阪府北部地震に伴う歪ステップでは,両者の残差はN70°E-S70°W方向の伸びとなった。このように歪ステップの観測値と計算値の差異を求めたとき,その最大の伸びの方位は地震によって異なっている。しかし,これらの方位は観測坑道の方位またはその直交方向に近いことから,観測室近傍の局所的な影響の存在が伺える。
六甲高雄観測室では,断層からの距離を変えた3か所において0.1秒間隔で間隙水圧変化を観測している。その間隙水圧は,顕著な間隙水流動が始まる前の地震動到達直後にステップ状に上昇した。この間隙水圧上昇の空間的な広がりは地震動の規模に依存しており,小さな地震動では断層からやや離れた地点のみ間隙水圧変化が生じたのに対して,大きい地震動を受けると,断層近傍を含むやや広い範囲でステップ状の間隙水圧上昇が現れた。本発表では,この広がりの異なる局所的な間隙水圧上昇がもたらす岩盤の伸び縮みによって,歪ステップの観測値と計算値の差異をある程度説明することを示す。