15:30 〜 15:45
[SGD02-07] 精密単独測位の高度な利用を支える地殻変動補正 ~POS2JGDとその将来展望~
キーワード:地殻変動補正、POS2JGD、電子基準点、干渉SAR時系列解析、データ同化
日本は4つのプレート境界に位置し、世界でも地殻変動だけでなくひずみの速度も最も大きいエリアの1つである。この地球物理学的環境は、日本の測地基準系の維持のためにGNSS測量を導入する上で大きな障壁となった。すなわち、相対測位の誤差は、測地系の基準日から観測日までのひずみの累積量と観測の基線長に比例して大きくなるため、日本において基線長が長いGNSS測量を実施する際、地殻変動のひずみの累積に起因する位置の誤差を無視できない。そこで、国土地理院は地殻変動のGNSS測量への影響を軽減するため、2010年にセミ・ダイナミック補正を導入した。この枠組みを可能とする基幹ツールは、地殻変動モデルである。地殻変動モデルのグリッドデータ(地殻変動補正パラメータ)は、電子基準点における基準日と観測日の座標値の差から算出され、GNSS測量では、地殻変動モデルは既知点の座標値を観測日に、そして新点の座標値を基準日に変換するために適用される。安定的な運用の観点から、現在は、地殻変動モデルの時間関数として単純なステップ関数を採用し、1年に1度の頻度でモデルを更新している。
近年、精密単独測位(PPP)を含む衛星測位の技術が著しく進展し、PPPが自動走行などさまざまな分野に応用されつつある。こうしたPPPの応用においては、測位で得た位置と、多くの場合基準日に準拠しているデジタルマップの間の整合性が重要であり、PPPユーザは変動モデルにより測位解を観測日から基準日に変換することによって測位解を地図など既存の地理空間情報と位置の齟齬を生じることなく活用することができる。この場合、地殻変動モデルの絶対値が重要であるものの、従来の地殻変動モデルではその要求精度(最大で数cm)を満たせていないことが検証により分かった(高木ほか、2019)。そこで国土地理院は、PPPを含む単独測位の地殻変動補正をサポートするための枠組みPOS2JGDを2020年3月31日に公開した(https://positions.gsi.go.jp/cdcs/)。補正精度の向上のため、POS2JGDで用いる地殻変動モデルはより高頻度に(3か月に1度)更新されている。さまざまな状況での利用を想定し、POS2JGDのウェブサイトでは、地殻変動モデルそのものだけでなく、GUIやWeb APIを介した補正計算機能も提供している。
POS2JGDのための地殻変動モデルのさらなる精度向上に向けて、地殻変動モデルの時間関数として区分的線形関数を導入する手法について検証を行い、特に2011年東北地方太平洋沖地震の余効変動に対して精度向上が確認された(田中ほか、2020)。しかし、水準測量データを用いた検証により、電子基準点のみによる地殻変動モデルでは、電子基準点の配点間隔よりも空間波長の短い地殻変動を要求精度内でとらえられないことが示唆されたため、この問題を解決するアプローチとして、電子基準点だけでなく、InSAR時系列解析のデータをモデリングに利用することを提案している(山下ほか、2021)。InSARの2.5次元解析で得られた準上下方向の変動成分を用いて地殻変動モデルの空間分解能を向上することが可能となるが、品質のよい高頻度なSARデータの取得が課題である。タイミング良く2022年度には、先進レーダ衛星(ALOS-4)の打ち上げが予定されおり、ALOS-4による高頻度観測データの活用は、より高精度なモデルの構築につながることが期待される。将来これらの手法を実運用で用いるモデリングに採用するためには、電子基準点とInSAR時系列解析の最適なデータ同化手法に関する調査と検証が求められる。
国土地理院はGNSS測量におけるセミ・ダイナミック補正の枠組みを改良することで、POS2JGDを構築・公開した。これにより、日本国内のPPPユーザが国家座標に直接アクセスし、自動走行などさまざまな分野への応用を加速する環境が整った。将来の展望として、国土地理院は今後も地殻変動モデリングの改良を継続することで、地理空間情報の基盤インフラとしてのPOS2JGDの高度化を進める予定である。
参考文献
高木ほか(2019):地殻変動補正システムの構築に向けて (2),日本測地学会
田中ほか(2020):定常時地殻変動補正システム(POS2JGD)の高度化へ向けて,日本測地学会
山下ほか(2021):GNSS CORSとInSAR時系列解析を用いた利根川中流域における鉛直変位の把握,日本測地学会
近年、精密単独測位(PPP)を含む衛星測位の技術が著しく進展し、PPPが自動走行などさまざまな分野に応用されつつある。こうしたPPPの応用においては、測位で得た位置と、多くの場合基準日に準拠しているデジタルマップの間の整合性が重要であり、PPPユーザは変動モデルにより測位解を観測日から基準日に変換することによって測位解を地図など既存の地理空間情報と位置の齟齬を生じることなく活用することができる。この場合、地殻変動モデルの絶対値が重要であるものの、従来の地殻変動モデルではその要求精度(最大で数cm)を満たせていないことが検証により分かった(高木ほか、2019)。そこで国土地理院は、PPPを含む単独測位の地殻変動補正をサポートするための枠組みPOS2JGDを2020年3月31日に公開した(https://positions.gsi.go.jp/cdcs/)。補正精度の向上のため、POS2JGDで用いる地殻変動モデルはより高頻度に(3か月に1度)更新されている。さまざまな状況での利用を想定し、POS2JGDのウェブサイトでは、地殻変動モデルそのものだけでなく、GUIやWeb APIを介した補正計算機能も提供している。
POS2JGDのための地殻変動モデルのさらなる精度向上に向けて、地殻変動モデルの時間関数として区分的線形関数を導入する手法について検証を行い、特に2011年東北地方太平洋沖地震の余効変動に対して精度向上が確認された(田中ほか、2020)。しかし、水準測量データを用いた検証により、電子基準点のみによる地殻変動モデルでは、電子基準点の配点間隔よりも空間波長の短い地殻変動を要求精度内でとらえられないことが示唆されたため、この問題を解決するアプローチとして、電子基準点だけでなく、InSAR時系列解析のデータをモデリングに利用することを提案している(山下ほか、2021)。InSARの2.5次元解析で得られた準上下方向の変動成分を用いて地殻変動モデルの空間分解能を向上することが可能となるが、品質のよい高頻度なSARデータの取得が課題である。タイミング良く2022年度には、先進レーダ衛星(ALOS-4)の打ち上げが予定されおり、ALOS-4による高頻度観測データの活用は、より高精度なモデルの構築につながることが期待される。将来これらの手法を実運用で用いるモデリングに採用するためには、電子基準点とInSAR時系列解析の最適なデータ同化手法に関する調査と検証が求められる。
国土地理院はGNSS測量におけるセミ・ダイナミック補正の枠組みを改良することで、POS2JGDを構築・公開した。これにより、日本国内のPPPユーザが国家座標に直接アクセスし、自動走行などさまざまな分野への応用を加速する環境が整った。将来の展望として、国土地理院は今後も地殻変動モデリングの改良を継続することで、地理空間情報の基盤インフラとしてのPOS2JGDの高度化を進める予定である。
参考文献
高木ほか(2019):地殻変動補正システムの構築に向けて (2),日本測地学会
田中ほか(2020):定常時地殻変動補正システム(POS2JGD)の高度化へ向けて,日本測地学会
山下ほか(2021):GNSS CORSとInSAR時系列解析を用いた利根川中流域における鉛直変位の把握,日本測地学会