日本地球惑星科学連合2022年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD02] 測地学・GGOS

2022年5月25日(水) 09:00 〜 10:30 101 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:横田 裕輔(東京大学生産技術研究所)、コンビーナ:三井 雄太(静岡大学理学部地球科学科)、松尾 功二(国土地理院)、座長:中島 正寛(国土交通省国土地理院)、太田 雄策(東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター)

09:15 〜 09:30

[SGD02-14] 測地学的手法に基づく光格子時計における重力ポテンシャル値の決定

*中島 正寛1深谷 俊太朗1、豊福 隆史1、越智 久巳一1松尾 功二1 (1.国土交通省国土地理院)

キーワード:測地学、重力ポテンシャル値、重力、ジオイド、光格子時計

はじめに
光格子時計は、安定度が非常に高い時刻周波数標準を与えるだけでなく、リンクした時計2台の歩度差から2地点間の重力ポテンシャル値の差を与える。光格子時計の性能の向上はめざましく、センチメートルの高さの差に相当する重力ポテンシャル差を計測可能となっている。これにより、国際測地学協会が2015年の総会で決議した「重力ポテンシャル値を用いて高さを記述し、ジオイド面の重力ポテンシャル値を基準として、高さを維持・管理する高さの基準座標系」に光格子時計を活用することが可能となりつつある(宮原ほか,2018)。国土地理院は、光格子時計の社会的実装へ貢献するための取組みとして、情報通信研究機構(NICT)と産業技術総合研究所計量標準総合センター(NMIJ)に設置された光格子時計における重力ポテンシャル値を測地学的な手法を用いて決定した。本発表では、決定した重力ポテンシャル値とその不確かさについて報告する。


手法
重力ポテンシャル値は、楕円体高、ジオイド高、重力値を用いて決定できる(Sánchez et al. 2021)。NICTの光格子時計の設置地点における重力ポテンシャル値W(P)は、以下のように決定した。

W(P)=W0-(HA+ΔHAP-Np)gp

W0はジオイド面上の重力ポテンシャル値 (62,636,853.40 m2/s2)である。HAは電子基準点「小金井」の楕円体高であり、「小金井」の座標解(GEONETのF5解(村松ほか, 2021))の1年間の平均値を用いた。ΔHAPは「小金井」と光格子時計との比高差であり、2021年の水準測量で得られた比高データを用いた。Npは光格子時計におけるジオイド高であり、Matsuo and Forsberg (2021)の手法を用いて構築した重力ジオイド・モデル(JGEOID2021b)から求めた。gpは光格子時計における重力値とジオイド面上の重力値との平均値であり、2021年に実施した光格子時計における重力測量結果とポアンカレ・プレイ化成を用いて算出した。
NMIJの光格子時計の設置地点における重力ポテンシャル値W(Q)は、電子基準点「つくば1」における重力ポテンシャル値W(R)に、「つくば1」と光格子時計との間の重力ポテンシャル差を加えることで決定した。重力ポテンシャル差は比高差と重力値から求めることができ(Heiskanen and Moritz, 1967)、W(Q)は以下のように決定した。

W(Q)=W(R)-ΣiΔhi(gi+gi+1)/2

Δhiは水準点iと隣接水準点i+1との比高差であり、2014年から2021年に実施した水準測量で得られた比高データを用いた。giは水準点i上の重力値であり、黒石(1998)の推定重力値と2021年に実施した光格子時計における重力測量結果を用いた。W(R)はNICTの光格子時計と同様の手法で決定した。

W(R)=W0-(HR-NR)gR

HRはF5解の1年平均値から求めた「つくば1」の楕円体高、NRはJGEOID2021bから求めた「つくば1」のジオイド高、gRは黒石(1998)による「つくば1」の推定重力値とポアンカレ・プレイ化成により算出したジオイド面上の重力値との平均値である。
決定した重力ポテンシャル値の不確かさは、使用したデータの不確かさを用いて誤差伝搬の法則により見積もった。W0の不確かさは0.02 m2/s2(Sánchez et al. 2016)、F5解の不確かさは1年間の座標値変化の標準偏差(「小金井」は8 mm、「つくば1」は6 mm)、JGEOID2021bの不確かさは5 cm(GNSS/水準法で得られた実測ジオイド高との較差の標準偏差)、重力測量結果の不確かさは網平均計算の標準偏差、推定重力値の不確かさは2.5 mGal(黒石, 1998)、水準測量の比高差の不確かさは2.5√(観測距離km) mm(水準測量作業規程の制限値)とした。


結果
NICTの2号館の東側に設置された光格子時計(NICT1)の重力ポテンシャル値は62,636,102.84±0.50 m2/s2、西側に設置された光格子時計(NICT2)の重力ポテンシャル値は62,636,103.41±0.50 m2/s2となった。
NMIJの3-7棟の研究室013に設置された光格子時計(NMIJ1)の重力ポテンシャル値は62,636,648.59±0.50 m2/s2、研究室011に設置された光格子時計(NMIJ2)の重力ポテンシャル値は62,636,648.69±0.50 m2/s2となった。
今回決定した重力ポテンシャル値は、測地学的手法による重力ポテンシャル計測の一例であるだけでなく、重力赤方偏移で生じる時刻周波数シフトの補正計算を通じて、国際原子時の定義に基づく光格子時計の時刻周波数の校正への貢献が期待できる。また、時刻周波数シフトの校正により、光格子時計の相互比較が可能となる。


謝辞:本研究は、情報通信研究機構時空標準研究室と産業技術総合研究所計量標準総合センター物理計測標準研究部門との協力に基づいて実施した。