日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD02] 測地学・GGOS

2022年5月25日(水) 09:00 〜 10:30 101 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:横田 裕輔(東京大学生産技術研究所)、コンビーナ:三井 雄太(静岡大学理学部地球科学科)、松尾 功二(国土地理院)、座長:中島 正寛(国土交通省国土地理院)、太田 雄策(東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター)

10:00 〜 10:15

[SGD02-17] 2015年以降における観測史上初のチャンドラー運動の消失

*山口 竜史1古屋 正人2 (1.北海道大学大学院理学院自然史科学専攻地球惑星ダイナミクス講座、2.北海道大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)


キーワード:地球回転、極運動、チャンドラー運動

地球の極運動のうち、周期約14か月のチャンドラー運動は、大気海洋の質量再配分(気圧と海底圧の変化)と固体地球に対する相対運動(風と海流)とによって励起される自由振動であると考えられている(Gross 2015)。チャンドラー周期の観測値は433.7±1.8日(例えばFuruya and Chao 1996)とされ、「自由振動」の単一周期として時間変化するものではないとされてきた(Okubo 1982; Dahlen 1983)。Okubo(1982)は、単一のチャンドラー周期とQを仮定して、ランダムに励起されている場合に、仮定したQによってはチャンドラー周期が見かけ上変化するように見えることを示した。一方、1970年代から1990年代でも現代的な宇宙測地データの蓄積は不十分だったため、極運動データをデコンボリューションして、最小励起を与えるようなチャンドラー周期が時間変化するか否かを宇宙測地技術による極運動データで調べた先行研究は存在しない。
本研究では先ず、最小励起の仮定に基づいてチャンドラー周期の時間変化の有無について調べた。この解析からは、2005年以降、チャンドラー周期が見かけ上短縮し続け、380日程度に至っているように見え、従来のチャンドラー周期の理論と矛盾してしまう。さらに、極運動そのもののデータにおいて、年周運動とチャンドラー運動による約6年のうなりが2015年頃には明らかに弱くなっていることが観察できた。1920年代にチャンドラー運動の振幅が小さくなったことはよく知られているが、2015年以降にはチャンドラー運動が励起されていない可能性を確かめるために、極運動データそのもので最小二乗法を用いたモデリングを行った。
まず、2006年迄に期間を区切った極運動を、年周運動と1日刻みで周期を仮定したチャンドラー運動、2次の長期変動を仮定した3成分モデルにフィッティングさせたものと実際の極運動との残差を調べた。同様に、2015年からのみの極運動にチャンドラー運動を除いた2成分モデル(年周運動+極運動)をフィッティングし残差を調べた。
2006年迄のデータに3成分モデルをフィッティングした結果、2005年10月頃に残差が大きくなり、2015年以降のデータに2成分モデルをフィッティングした場合では2015年1月頃から残差が小さいことが分かった。以上の結果から2005年にはチャンドラー運動に何らかの異常が生じ、2015年頃にはチャンドラー運動が消失していることが示された。また、この状況は現在も続いている。年周運動は強制振動なので、振幅一定として1900年代まで遡ることができる。前述した1920年代のチャンドラー運動の小振幅は本研究で確認できたが、振幅がほぼゼロになったことは極運動の観測史上初めてのことである。
この原因を探るため、パリ天文台が公開している大気海洋角運動量データから計算した励起関数のノイズレベル(特に14か月周期の近傍)を調べた。大気角運動量はNCEP再解析データ、海洋角運動量はECCOモデルに基づく。励起関数を10年間で区切って周波数領域でノイズレベルを計算したところ、チャンドラー運動が減衰している2005年以降で顕著な減少はみられなかった。また、Wilson (1985)による極運動から励起関数を計算する式を逆に用いて、チャンドラー周期を435日に固定し、初期値をゼロにして励起関数を積分して極運動をシミュレートしたところ、上述した現実のチャンドラー運動の最近の様子は説明できなかった。これらの結果により、励起関数に用いた現在提供されているAAM及びOAMが真のチャンドラー運動の励起を説明するには不十分であることが示唆される。