日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD02] 測地学・GGOS

2022年6月1日(水) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (20) (Ch.20)

コンビーナ:横田 裕輔(東京大学生産技術研究所)、コンビーナ:三井 雄太(静岡大学理学部地球科学科)、松尾 功二(国土地理院)、座長:横田 裕輔(東京大学生産技術研究所)、松尾 功二(国土地理院)、三井 雄太(静岡大学理学部地球科学科)

11:00 〜 13:00

[SGD02-P02] 重力連続観測データを用いた土壌パラメーターの推定:国立天文台水沢を例に

*隠岐 颯太1風間 卓仁1田村 良明2 (1.京都大学理学研究科、2.国立天文台水沢VLBI観測所)

キーワード:陸水重力擾乱、超伝導重力計、土壌水分、地下水、土壌物理特性、Van Genuchtenモデル

重力観測は固体地球変動(地震・火山・氷河性地殻均衡など)に伴う質量移動を把握するために最も有効な手法の1つである。固体地球起源の重力変化は一般に10 μGal前後と非常に小さいため、この重力変化を精度良く把握するには他の変動に伴う重力擾乱を適切に補正する必要がある。このうち、陸水変動(降水・土壌水浸透・地下水流動など)に伴う重力擾乱はその振幅が固体地球変動と同程度になることが知られており、陸水流動の数値シミュレーションによってその時間変化を再現することができる。例えば、Kazama et al. (2015)は浅間火山で観測された振幅20 μGalの陸水重力擾乱を陸水物理モデルによって再現し、この陸水重力擾乱を観測データから差し引くことで火道内マグマの移動に伴う振幅5 μGalの重力変化を抽出することに成功している。

陸水重力擾乱を精度良く再現するためには、陸水モデル内における土壌パラメーターを現実に即した値に設定する必要がある。特に、透水係数Kと拡散係数Dは水の流動速度を決定づける重要なパラメーターであるが、KやDの値は土壌の種類によって数桁の範囲で異なる値を有する。また、KおよびDは土壌水分量θ(x,y,z,t)に従ってべき乗的に変化し、その関数形は5個の定数によって表現できることがVan Genuchten (1980)で提案されている。しかしながら、これらの定数のうち容易に実測できるのは飽和透水係数Kmaxと有効空隙率θmaxのみであり、それ以外の定数(θmin, n, α)については大掛かりで高価な装置が必要となる。これらの定数を重力観測データ自身から正確に推定することができれば、陸水重力擾乱の補正や固体地球変動の抽出をより高精度化できると期待される。

そこで、本研究は岩手県南部の胆沢扇状地を例に、重力連続観測データ自身からVan Genuchten則(VG則)の各種パラメーターの推定を試みた。本研究で使用する重力データgobs(t)は、国立天文台水沢で2017年~2021年に観測された超伝導重力データ(田村ほか, 2022)である。まず、本研究は(Kmax, θmax)に現場実測値を、および(θmin, n, α)に任意の初期値を設定し、鉛直1次元陸水重力擾乱計算ソフトウェアG-WATER [1D] (Kazama et al., 2012)を用いて土壌水分の時空間変動θ(z,t)を計算した。次に、θ(z,t)を空間的に積分することで陸水重力擾乱gcal(t)を計算し、これを重力観測データgobs(t)と比較した。その後、(θmin, n, α)の値を調整しながら同様の計算を繰り返し、gobs(t)とgcal(t)の残差RMSが最小となるような(θmin, n, α)の組み合わせを探索した。

その結果、VG則パラメーターの最適値は(θmin, n, α) = (0.0 [m3/m3], 1.5, 4.0 [/m])と決定され、gobs(t)とgcal(t)の残差RMSは0.60 μGalと得られた。現場土壌は飽和透水係数の実測値(Kmax = 5E-8 m/s; Kazama et al., 2012)によりシルトないし粘土に分類されるが、上述のVG則パラメーターはシルト土壌の文献値(e.g., Leij et al., 1996)とよく一致する。また、今回得られた残差RMSは先行研究の値(1.0 μGal; Kazama et al., 2012)よりも小さいことから、本研究は先行研究よりも国立天文台の土壌パラメーターや陸水重力擾乱を精度良く推定できたと言える。

一方、国立天文台水沢の敷地内で観測された土壌水分変化に対して同様のパラメーター探索を行うと、その最適値は(θmin, n, α) = (0.0 [m3/m3], 1.5, 0.5 [/m])となり、αだけは重力データに基づく最適値と有意に異なっていることが分かった。この原因には、VG則の各パラメーターに対する応答感度が土壌水分変化と重力変化で異なっているためと考えられる。今後本研究では、土壌水分と重力の両データを加味した評価関数を導入し、両方のデータを同時に再現できるような土壌パラメーターを決定する予定である。