11:00 〜 11:15
[SGL24-02] 西南日本外帯基盤岩の変成温度解析にもとづく甲斐駒ヶ岳花崗岩体の貫入熱影響評価と赤石山地における中新世テクトニクスの復元
キーワード:赤石山地、西南日本外帯、甲斐駒ヶ岳花崗岩体、炭質物ラマン温度計、貫入熱モデリング、数値解析
[はじめに] 日本海拡大と伊豆-小笠原弧の本州弧への衝突は,中新世の東アジア縁辺における第一級のテクトニックイベントである.これらの影響は中部地方において特に顕著に認められ,赤石山地の西南日本外帯では基盤地質の大規模なねじ曲がり構造の存在も推定されている.ねじ曲がり構造の軸部にあたる小渋川地域では,変成温度解析よりねじ曲がりに起因した温度構造の改変が指摘されている.一方,小渋川地域より北の赤石山地北部では,ねじ曲がり構造の影響が特に顕著であると考えられるものの,甲斐駒ヶ岳花崗岩体が大規模に貫入しており,同地域の基盤岩の温度構造評価には,この貫入熱影響を考慮する必要がある.そこで本研究では,赤石山地北部・黒川地域の基盤岩を対象に,変成温度解析による貫入熱影響評価をおこなった.
[研究の流れ] 変成温度解析においては,炭質物ラマン温度計を用いて,甲斐駒ヶ岳花崗岩周辺の基盤岩(母岩)の変成ピーク温度を把握する.次に,数値解析を用いた貫入熱モデリングをおこない,炭質物ラマン温度計により得られた温度分布とのフィッティングにより,貫入時のマグマ温度(Tmagma)と基盤岩温度(Tbase)を制約する.一方で,変成温度解析とは独立して,貫入岩体の全岩化学組成を入力値とした熱力学計算よりTmagmaを推定し,異なるアプローチで制約された両Tmagmaを比較する.このことにより,フィッティングの制約結果の妥当性を評価するとともに,天然に記録された温度分布の熱源を貫入岩体の熱影響で説明可能か否かを検証する.
[結果] 黒川地域では,西から三波川帯,秩父帯,および四万十帯が概ね南北方向で帯状配列し,三波川帯と秩父帯の境界に沿っては浅海性堆積岩類からなる戸台層が狭長に分布する.また,四万十帯では甲斐駒ヶ岳花崗岩体が貫入する.炭質物ラマン温度計により見積もられた最高到達温度は,三波川帯で約330〜420 °C,戸台層で約280 °C,秩父帯で約280〜320 °C,および四万十帯で約320〜490 °Cを示す.大局的な温度構造としては,貫入境界に近づく西から東にかけて,三波川帯では温度低下を示す一方,戸台層から四万十帯にかけては地質帯をまたいで連続的な温度上昇を示す.また,戸台層〜四万十帯の温度データを対象とした貫入熱モデリングとのフィッティングをおこなったところ,Tmagmaは約850 °C,Tbaseは約180 °Cに制約された.一方,貫入岩体の全岩化学組成を入力値とした熱力学計算からは,Tmagmaは約750〜1100 °Cの範囲に制約された.
[考察] 変成温度解析から制約されたTmagmaは,甲斐駒ヶ岳花崗岩体の全岩化学組成を入力値とした熱力学計算にもとづく制約結果と整合的である.この整合性は,戸台層から四万十帯にかけての温度構造が甲斐駒ヶ岳花崗岩体の貫入熱影響により説明可能であることを示す.このことは,甲斐駒ヶ岳花崗岩体の貫入後に地質構造の大規模な改変がなかった,すなわち,赤石山地北部におけるねじ曲がり構造の形成は甲斐駒ヶ岳花崗岩体の貫入より前に終了していたことを示唆する.また,フィッティングにより制約されたもう一つのパラメータであるTbaseと先行研究により見積もられている甲斐駒ヶ岳花崗岩体の定置深度より,当時の地温勾配は約20 °C/kmに制約され,通常の火山活動が活発な地域で推定されるよりも比較的低い地温勾配条件下で貫入が生じたことを示唆する.
[研究の流れ] 変成温度解析においては,炭質物ラマン温度計を用いて,甲斐駒ヶ岳花崗岩周辺の基盤岩(母岩)の変成ピーク温度を把握する.次に,数値解析を用いた貫入熱モデリングをおこない,炭質物ラマン温度計により得られた温度分布とのフィッティングにより,貫入時のマグマ温度(Tmagma)と基盤岩温度(Tbase)を制約する.一方で,変成温度解析とは独立して,貫入岩体の全岩化学組成を入力値とした熱力学計算よりTmagmaを推定し,異なるアプローチで制約された両Tmagmaを比較する.このことにより,フィッティングの制約結果の妥当性を評価するとともに,天然に記録された温度分布の熱源を貫入岩体の熱影響で説明可能か否かを検証する.
[結果] 黒川地域では,西から三波川帯,秩父帯,および四万十帯が概ね南北方向で帯状配列し,三波川帯と秩父帯の境界に沿っては浅海性堆積岩類からなる戸台層が狭長に分布する.また,四万十帯では甲斐駒ヶ岳花崗岩体が貫入する.炭質物ラマン温度計により見積もられた最高到達温度は,三波川帯で約330〜420 °C,戸台層で約280 °C,秩父帯で約280〜320 °C,および四万十帯で約320〜490 °Cを示す.大局的な温度構造としては,貫入境界に近づく西から東にかけて,三波川帯では温度低下を示す一方,戸台層から四万十帯にかけては地質帯をまたいで連続的な温度上昇を示す.また,戸台層〜四万十帯の温度データを対象とした貫入熱モデリングとのフィッティングをおこなったところ,Tmagmaは約850 °C,Tbaseは約180 °Cに制約された.一方,貫入岩体の全岩化学組成を入力値とした熱力学計算からは,Tmagmaは約750〜1100 °Cの範囲に制約された.
[考察] 変成温度解析から制約されたTmagmaは,甲斐駒ヶ岳花崗岩体の全岩化学組成を入力値とした熱力学計算にもとづく制約結果と整合的である.この整合性は,戸台層から四万十帯にかけての温度構造が甲斐駒ヶ岳花崗岩体の貫入熱影響により説明可能であることを示す.このことは,甲斐駒ヶ岳花崗岩体の貫入後に地質構造の大規模な改変がなかった,すなわち,赤石山地北部におけるねじ曲がり構造の形成は甲斐駒ヶ岳花崗岩体の貫入より前に終了していたことを示唆する.また,フィッティングにより制約されたもう一つのパラメータであるTbaseと先行研究により見積もられている甲斐駒ヶ岳花崗岩体の定置深度より,当時の地温勾配は約20 °C/kmに制約され,通常の火山活動が活発な地域で推定されるよりも比較的低い地温勾配条件下で貫入が生じたことを示唆する.