日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL24] 日本列島および東アジアの地質と構造発達史

2022年5月25日(水) 10:45 〜 12:15 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:細井 淳(産業技術総合研究所地質調査総合センター地質情報研究部門)、コンビーナ:大坪 誠(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、座長:細井 淳(産業技術総合研究所地質調査総合センター地質情報研究部門)

11:30 〜 11:45

[SGL24-04] 西南日本弧の前弧海盆に記録された後期中新世の応力

*安邊 啓明1佐藤 活志1 (1.京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)


キーワード:前弧海盆、応力逆解析、中新世、西南日本弧

後期中新世の西南日本におけるプレート同士の関係について,速度を低下しつつ沈み込み続けたとするモデル [1] と,沈み込みは停止し横ずれ境界を形成したとするモデル [2] が提案されている.前弧域の応力はプレート相対運動を反映すると期待されるが,後期中新世の西南日本前弧域の応力場を明らかにした例はない.そこで本研究は,後期中新世に西南日本全体で卓越した応力を明らかにするため,過去の前弧海盆堆積物である中部中新統田辺層群,および中部中新統倉真層群において露頭規模の変形構造を利用した古応力解析を行い,これらの地層が記録した応力史の解明を試みた.
紀伊半島南西部に分布する田辺層群では,1124枚の砕屑岩脈,426条の小断層,321枚の鉱物脈の方位データを測定した.調査範囲を数km規模の9つの区画に分け,各区画でそれぞれの構造から検出された応力に対し階層的クラスタリングを行った結果,検出された応力は北西―南東引張の正断層型応力(応力群α),東西引張応力(応力群β),北西―南東圧縮応力(応力群γ)に分類された.応力群αは約16 Ma以降に堆積した田辺層群上部で検出されないことから,それ以前に働いたと考えられる.応力群βは田辺層群上部の堆積と同時または堆積直後に貫入したと期待される砕屑岩脈から主に検出されることから,約16-15 Ma頃に働いたと考えらえる.さらに,構造どうしの切断関係から,応力群γは応力群α・βより後に働いたと考えられる.
静岡県に分布する倉真層群では65条の小断層の方位データを測定し,北東―南西方向の軸性引張応力δを検出した.この応力下で動きやすい南北走向の左横ずれ断層の多くが鉱物脈を伴うことから,この応力が働いた時期に熱水活動があったことが分かった.しかし,上部中新統-鮮新統相良層群では鉱物脈が観察されない.従って,熱水活動を伴う応力δは相良層群堆積より前に働いたと考えらえる.
西南日本では17-12 Ma頃に広く火成活動が活発化した.紀伊半島南縁部では15-14 Maに南北走向の火成岩脈が貫入したが,この火成岩脈と整合的な南北圧縮応力が前弧域で時空間的にどの程度一様であったかは不明だった.田辺層群で検出された応力群βは,σHmax軸が南北方向の応力が海溝近傍だけでなく田辺層群分布域でも働いたことを示唆する.さらに,田辺層群で検出された応力群γおよび倉真層群で検出された応力δはσHmax軸方向が似ておりかつ鉱物脈を伴うことから,火成活動終了以前にσHmax軸方向が南北から北西―南東に変化したこと,これらの応力は西南日本の前弧海盆分布域で広く働いたことが示唆される.

参考文献
[1] Kimura et al., 2005, Geol. Soc. Am. Bull., 117, 969-986
[2] Kimura et al., 2014, Tectonics, 33, 1219-1238.