日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-IT 地球内部科学・地球惑星テクトニクス

[S-IT19] 地球深部科学

2022年5月22日(日) 15:30 〜 17:00 展示場特設会場 (2) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:太田 健二(東京工業大学理学院地球惑星科学系)、コンビーナ:河合 研志(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、飯塚 毅(東京大学)、コンビーナ:土屋 旬(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、座長:飯塚 毅(東京大学)、河合 研志(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

16:45 〜 17:00

[SIT19-12] dhcp-FeHxのレオロジー:SPring-8, BL04B1におけるD111型装置を用いた高温高圧変形その場観察実験

*西原 遊1丹下 慶範2肥後 祐司2辻野 典秀3山崎 大輔3芳野 極3久保 友明4坪川 祐美子4本田 陸人5後藤 佑太5國本 健広1川添 貴章6山口 和貴6 (1.愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター、2.高輝度光科学研究センター、3.岡山大学惑星物質研究所、4.九州大学大学院理学研究院、5.九州大学大学院理学府、6.広島大学大学院先進理工系科学研究科)

キーワード:レオロジー、水素化鉄、内核、高圧変形実験

地球の核は鉄ニッケル合⾦を主体とするが、その低い地震波速度から外核と同様に内核にも軽元素が含まれることは間違いない。核に含まれる軽元素には珪素、硫⻩を始めとしていくつかの候補があるが、⽔素は近年有⼒視される軽元素候補のひとつである (例えばWang et al., 2021)。初期地球のマグマオーシャンが地球の原材料に由来する⽔を含むならば、核を形成することになる鉄にはその分配係数から相当量の⽔素が含有されるはずである (例えばLi et al., 2020)。そのため、地球核が⽔素を含有すると考えるのは⾃然である。固体⾦属の内核には地震波速度の異⽅性が存在することが知られている。これまで内核のダイナミクスについて多くのモデルが提唱されてきたが一致した見解は得られていない。その理由の一つは内核の粘性率がよくわかっていないことにある(例えばLasbleis and Deguen, 2015)。このため、内核を構成する物質の流動変形の性質(レオロジー)の理解が求められている。以上をふまえ本研究では、⾼温⾼圧変形その場観察実験に基づいて内核を構成する鉄のレオロジーへの⽔素の影響を明らかにすることを目指した。
最近われわれはD111型装置を放射光施設SPring-8のBL04B1に導入した。この装置はDT-Cup装置(Hunt et al., 2014)を大型したものであり、川井型装置の対向する一対の2段目アンビルを油圧で駆動することにより約30 GPaまでの高圧下での変形実験が可能である (西原他, 2020)。また、SPring-8の高輝度X線を用いることで、変形実験中の定量的な応力・歪測定が可能となった。本研究では、この装置を用いて二重六方構造(dhcp)を持つ鉄水素化物(FeHx)のレオロジーを実験的に調べた。円柱状に成形された多結晶体の鉄試料の周囲に水素源であるNH3BH3を配置し、高温高圧下でこの水素源を分解させることによってdhcp-FeHxを合成し一軸圧縮実験を行なった。
圧力12.7-16.1 GPa、温度623-823 K、歪速度0.3-6.5 x 10-5 s-1で行った17の条件下の変形テストにおいて、x ~ 0.8組成のdhcp-FeHxの定常変形が観察された。hcp-Feと同じ実効的剛性率を仮定して応力を見積もると、dhcp-FeHxの応力は同じ条件でのhcp-Feの値に比べやや低かったが、その比は0.5-0.7程度にとどまった。この結果をもとに考えると内核の粘性率への水素の影響はあまり大きくない。いっぽうで、より水素含有量の低いhcp-FeHxでは水素の影響は本質的に異なる可能もあり、内核の粘性率への影響については慎重な議論が必要である。