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[SMP26-03] マントル深部における含水SiO2スティショバイトの安定性
キーワード:シリカ鉱物、マントル遷移層、下部マントル
マントルやスラブを構成する鉱物には、結晶格子内に不純物として少量の水を含むことができるものがある。堆積岩や玄武岩などの地殻物質における代表的な鉱物であるSiO2シリカ鉱物は、マントル深部の10~70 GPaという幅広い圧力下でスティショバイトとして安定であり、少量の水を含むことが可能だと報告されている。従来、スティショバイト中の含水量はAl含有量と関連していることが知られていたが、その含水量はAl2O3を4.4 wt%含むスティショバイトでも最大0.3 wt%であるとされていた (Litasov et al., 2007)。しかし最近の研究では、Alを含まないSiO2シリカ鉱物の高圧相に3 wt%以上の多量の水が溶解する可能性が指摘されている(e.g., Spektor et al., 2016; Lin et al., 2020)。スティショバイトが水をどの程度取り込むかは、マントル深部における水の分布や水輸送効率に大きく影響するため重要である。マルチアンビル装置による急冷回収実験によると準安定的な現象である可能性が指摘されている一方で、レーザー加熱式DACによる実験結果は下部マントルで主要な含水相となり得ると主張しており、高温高圧状態における含水SiO2シリカ鉱物の安定性は正確に理解されていない。そこで本研究では、マルチアンビル装置を用いた高温高圧X線その場観察実験により、含水SiO2高圧相の格子体積を測定し、その安定性を調査した。
実験は、含水量9.8 wt%のケイ酸(SiO2・xH2O)を出発物質とし、SPring-8のBL04B1に設置されている高圧発生装置SPEED-1500により圧力13-29 GPaにおいて温度1000℃まで加熱した。エネルギー分散型システムにより高温高圧下で試料のX線回折パターンを取得した。実験の結果、加熱後に見られたSiO2高圧相は常にスティショバイトであった。加熱初期の低温で観察された格子体積は無水スティショバイトの格子体積よりも非常に大きく、その値は最大で2.6 %大きかった。しかし昇温とともにその差は急激に小さくなり、550℃以上では格子体積は無水スティショバイトの値に近い値を示したことから、550℃以上では脱水が起こっている可能性が高い。また一定の温度における時分割X線観察から、時間経過とともに格子体積が縮小することが明らかとなった。したがって、本研究の実験条件下ではスティショバイトは準安定的にしか1 wt%以上の多量の水を含まない可能性が高い。本研究の結果から、少なくとも下部マントル最上部までのマントル温度において、SiO2スティショバイトが主要な含水相となるとは考えにくい。
実験は、含水量9.8 wt%のケイ酸(SiO2・xH2O)を出発物質とし、SPring-8のBL04B1に設置されている高圧発生装置SPEED-1500により圧力13-29 GPaにおいて温度1000℃まで加熱した。エネルギー分散型システムにより高温高圧下で試料のX線回折パターンを取得した。実験の結果、加熱後に見られたSiO2高圧相は常にスティショバイトであった。加熱初期の低温で観察された格子体積は無水スティショバイトの格子体積よりも非常に大きく、その値は最大で2.6 %大きかった。しかし昇温とともにその差は急激に小さくなり、550℃以上では格子体積は無水スティショバイトの値に近い値を示したことから、550℃以上では脱水が起こっている可能性が高い。また一定の温度における時分割X線観察から、時間経過とともに格子体積が縮小することが明らかとなった。したがって、本研究の実験条件下ではスティショバイトは準安定的にしか1 wt%以上の多量の水を含まない可能性が高い。本研究の結果から、少なくとも下部マントル最上部までのマントル温度において、SiO2スティショバイトが主要な含水相となるとは考えにくい。