日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP26] 鉱物の物理化学

2022年5月26日(木) 09:00 〜 10:30 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:大平 格(学習院大学 理学部 化学科)、コンビーナ:柿澤 翔(広島大学大学院先進理工系科学研究科)、座長:大平 格(学習院大学 理学部 化学科)

09:45 〜 10:00

[SMP26-04] マントル遷移層におけるα-PbO2型鉄チタン水酸化物の安定性

*松影 香子1西原 遊2丹下 慶範3 (1.帝京科学大学自然環境学科/総合教育センター、2.愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター、3.高輝度光科学研究センター)

キーワード:鉄チタン水酸化物、水輸送、高圧含水相、マントル遷移層

近年、含水玄武岩の高温高圧実験の急冷回収試料において上部マントル深部からマントル遷移層にかけて安定な鉄チタン水酸化物が発見された(Matsukage et al. 2017, Liu et al. 2019)。急冷回収した試料のXRD分析やFE-EPMAの表面化学分析により、この鉄チタン水酸化物にはε-FeOOH型とα-PbO2型の2種類の結晶構造が確認されている。α-PbO2型はルチルの高圧相として知られており、このα-PbO2型TiO2相に最大で50 mol%を超えるFeOOH成分が固溶しうることが報告されている(Nishihara and Matsukage 2016)。また、Ti#(= Ti/(Ti + Fe) 原子比)にもよるが温度1600℃程度まで安定である事が示唆されている。
 本研究では地球深部における水輸送プロセスの解明にむけてFeOOH-TiO2系水酸化物の結晶構造とその安定領域をX線その場観察実験によって調べた。実験はSPring-8(BL04B1)設置のマルチアンビル装置(SPEED-1500)を用いた。高圧発生用セルには10M のMgO+Cr2O3焼結体製八面体、アンビルには一辺26mm、TEL5mmのWC用いた。ヒーターにはLaCrO3スリーブ、電極にはMo、絶縁体兼圧力媒体にはMgO、温度測定にはW3Re–W25Re熱電対を用いた。圧力は最大22GPa、温度は最高で900℃程度まで発生させた。圧力マーカーにはAuを用いた。鉄チタン水酸化物は含水相であるため試料は金属カプセルなどで溶接封入しなければ水が系から散逸してしまうが、金属カプセルに封入すると放射光の透過率が落ちるために、X線による観察ができなくなる。水を封入しつつ合成の様子とその後の相変化を放射光X線その場観察で追うために本実験ではダイヤモンド単結晶の円盤とAu管を組み合わせたカプセルを用いた。出発物質は試薬のFeOOHとTiO2をFe:Ti=1:1になるように混合したものを用いた。まず12GPaに加圧してから800℃に加熱して、高圧相(α-PbO2構造)の合成を行った。鋭いX線回折ピークを持った理想的の単相が合成された。その後、12GPa~22GPa、室温~900℃の温度圧力範囲で、圧力を徐々に上げながら、広い範囲でX線回折データを取得し、その結晶構造と安定性を観察した。その結果、圧力およそ21GPa(深さおよそ600km)でα-PbO2相は、Baddeleyiteとε-FeOOH相に分解することが分かった。さらに、Baddeleyite+ε-FeOOHに分解させてからのα-PbO2相の合成実験(逆反応の実験)も行った。本研究によってTi#=0.5のα-PbO2型FeTi水酸化物の高圧側の安定領域はかなり良く制約することができた。今後、ε-FeOOH-TiO系の高圧相の相関係を明らかにするため、さらに組成を変化させて同様の実験を行う必要があるだろう。