11:00 〜 13:00
[SMP26-P01] トリディマイト多形の29Si MAS NMRスペクトル予測
キーワード:29Si MAS NMR、トリディマイト、化学シフト予測、第一原理計算
序論:トリディマイト多形の29Si MAS NMR測定は、MCとMX-1多形及びいくつかの高温相について報告がある1-4。しかしMX-1については異なったスペクトルが報告されている2,3。MCについては経験式から予測した結果と測定スペクトルがあまり一致しないことが報告されている5。また、PO-10については報告がなく、予測もされていない。相同定や局所構造研究のためにはトリディマイト多形の29Si MAS NMRスペクトルを確立する必要がある。一方、トリディマイト多形の一部は非常に多くのSi席を持つために、局所構造と化学シフトの相関を調べたり、経験式をチェックするには都合がよい。本研究ではMC, MX-1, PO-10多形の化学シフトを第一原理計算で求めて、実測スペクトルと比較し、局所構造と化学シフトの相関について提案されて経験式を検証してみた。
計算方法:まずは既知の結晶構造をQuantum Espressoのpw-scfコードを使って最適化した。得られた構造と電子密度を使って、GIPAW法でNMR化学シフトを計算した(gipawコード)。実測値と比較できるように、石英についても同様に計算して、石英の実測値になるように計算値を補正した。MC及びPO-10については原子数が非常に多いため(PO-10は空間群F1で960原子含む)、単純格子に変換して計算した。MX-1については変調構造を持つことが知られており、平均構造と変調構造モデルの2つを使って計算した。トリディマイト多形の場合、席数が多くそれらのピークが重なり、ピークの分解は難しくなる。そのため実測スペクトルと比較しやすいように各Si席化学シフト位置にガウス関数をかけて擬似スペクトルを求めた。
結果と議論:計算したスペクトルをFig. 1に示す。MCについてはいくつか実測スペクトルの報告があるが1-4、相互に大きな違いはない。今回計算したスペクトルは個々のピークのずれが多少はあるが、実測スペクトルをほぼ再現しており、経験式から計算されたスペクトル5からは大きく改善されている。MX-1についてはGraetsch & Topalovic-Dierdorf2とXiaoら3でスペクトルが大きく異なる。前者はMCに相当するピークがかなり混じっていると解釈できる。後者のスペクトルでは2つのピークの接近したピークからなる単純なスペクトルを示しており、MX-1の平均構造から計算されるものと対応可能であるが、変調構造モデルから予想されるスペクトルとは異なる。PO-10については実測スペクトルがないので今のところ比較はできないが、沢山のSi席を反映してかなり広がったスペクトルとなる。
シリカ結晶やシリカガラスにおける局所構造と29Si MAS NMR化学シフトの関係については、数多くの研究があり、経験的な関係式がいくつも提案されており1,5,6、構造から化学シフトを経験的に予測することにも使われている。今回の計算では100以上のSi席を計算しており(ただしその範囲は比較的狭い)、経験的な式を評価するために役立つ。Sherriff and Grundy6が提案した経験式を使った局所構造と化学シフトの相関をプロットしてみると非常に良い相関が得られ、この経験式が優れていることが確認できた。そして今回のように原子数が多くて計算時間がかかり、収束をきちんと調べることが困難な場合には計算結果のチェックに役立った。PO-10はこの相関によく乗っているので、実測スペクトルとは比較できていないが、よく再現していると考えられる。29Si MAS NMRを使った多形の同定が可能となった。今回の結果は第一原理計算(GIPAW法)により、実用的に化学シフトが予測できることを示している。しかしPO-10のように多くの原子を単位格子に持つ場合やガラスのMDシミュレーション結果へ適用する場合では、第一原理計算に非常に時間がかかるので、そのような場合には経験式もまだ有効であろう。
文献:
1) Smith, J.V. & Blackwell, C.S., Nature, 303, 223-225,1996
2) Graetsch, H. & Topalovic-Dierdorf, I., Eur.J. Mineral,, 8,103-113,1996
3) Xao, Y. et al., Phys.Chem.Min.,22,30-40, 1995
4) Kitchin, S.J. et al., Am. Mineral., 81,550-560, 1996
5) Pettifer, R.F. et al., J. Non-Cryst. Solids, 106,408-412,1988
6) Sherriff, B.L. & Grundy, D., Nature, 332, 819-822, 1988
計算方法:まずは既知の結晶構造をQuantum Espressoのpw-scfコードを使って最適化した。得られた構造と電子密度を使って、GIPAW法でNMR化学シフトを計算した(gipawコード)。実測値と比較できるように、石英についても同様に計算して、石英の実測値になるように計算値を補正した。MC及びPO-10については原子数が非常に多いため(PO-10は空間群F1で960原子含む)、単純格子に変換して計算した。MX-1については変調構造を持つことが知られており、平均構造と変調構造モデルの2つを使って計算した。トリディマイト多形の場合、席数が多くそれらのピークが重なり、ピークの分解は難しくなる。そのため実測スペクトルと比較しやすいように各Si席化学シフト位置にガウス関数をかけて擬似スペクトルを求めた。
結果と議論:計算したスペクトルをFig. 1に示す。MCについてはいくつか実測スペクトルの報告があるが1-4、相互に大きな違いはない。今回計算したスペクトルは個々のピークのずれが多少はあるが、実測スペクトルをほぼ再現しており、経験式から計算されたスペクトル5からは大きく改善されている。MX-1についてはGraetsch & Topalovic-Dierdorf2とXiaoら3でスペクトルが大きく異なる。前者はMCに相当するピークがかなり混じっていると解釈できる。後者のスペクトルでは2つのピークの接近したピークからなる単純なスペクトルを示しており、MX-1の平均構造から計算されるものと対応可能であるが、変調構造モデルから予想されるスペクトルとは異なる。PO-10については実測スペクトルがないので今のところ比較はできないが、沢山のSi席を反映してかなり広がったスペクトルとなる。
シリカ結晶やシリカガラスにおける局所構造と29Si MAS NMR化学シフトの関係については、数多くの研究があり、経験的な関係式がいくつも提案されており1,5,6、構造から化学シフトを経験的に予測することにも使われている。今回の計算では100以上のSi席を計算しており(ただしその範囲は比較的狭い)、経験的な式を評価するために役立つ。Sherriff and Grundy6が提案した経験式を使った局所構造と化学シフトの相関をプロットしてみると非常に良い相関が得られ、この経験式が優れていることが確認できた。そして今回のように原子数が多くて計算時間がかかり、収束をきちんと調べることが困難な場合には計算結果のチェックに役立った。PO-10はこの相関によく乗っているので、実測スペクトルとは比較できていないが、よく再現していると考えられる。29Si MAS NMRを使った多形の同定が可能となった。今回の結果は第一原理計算(GIPAW法)により、実用的に化学シフトが予測できることを示している。しかしPO-10のように多くの原子を単位格子に持つ場合やガラスのMDシミュレーション結果へ適用する場合では、第一原理計算に非常に時間がかかるので、そのような場合には経験式もまだ有効であろう。
文献:
1) Smith, J.V. & Blackwell, C.S., Nature, 303, 223-225,1996
2) Graetsch, H. & Topalovic-Dierdorf, I., Eur.J. Mineral,, 8,103-113,1996
3) Xao, Y. et al., Phys.Chem.Min.,22,30-40, 1995
4) Kitchin, S.J. et al., Am. Mineral., 81,550-560, 1996
5) Pettifer, R.F. et al., J. Non-Cryst. Solids, 106,408-412,1988
6) Sherriff, B.L. & Grundy, D., Nature, 332, 819-822, 1988