日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP26] 鉱物の物理化学

2022年6月3日(金) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (21) (Ch.21)

コンビーナ:大平 格(学習院大学 理学部 化学科)、コンビーナ:柿澤 翔(広島大学大学院先進理工系科学研究科)、座長:柿澤 翔(高輝度光科学研究センター)

11:00 〜 13:00

[SMP26-P03] スピネル(MgAl2O4)の状態方程式:self-consistentな熱力学パラメータの制約と鉱物・流体包有物地質圧力計への応用

*萩原 雄貴1、Ross Angel2山本 順司3、Matteo Alvaro4 (1.北海道大学、2.IGG-CNR、3.九州大学、4.パヴィア大学)

キーワード:MgAl2O4-spinel、状態方程式、秩序無秩序転移、鉱物包有物、流体包有物、地質圧力計

スピネルは地殻~最上部マントルまでの様々な地質環境で普遍的に存在し,近年その分布がマントル遷移相付近にまで達することを示唆する証拠が報告されている.スピネルはその堅牢性の高さからそのような高温高圧条件でトラップした包有物の優秀なカプセルとして機能することが期待され,更に等軸晶系であることからその弾性挙動は等方的に近似可能であるためelastic geobarometryのホスト鉱物として(場合によっては包有物としても)最適な鉱物の一つである(Angel et al., 2014; 2017; Mazzucchelli et al., 2019).スピネルを含むhost-inclusion systemへelastic geobarometryを適用して信頼性の高いトラップ圧力を得るためには,スピネルの正確な非線形状態方程式(EoS)が必要不可欠であるが,他のスピネルと比較して熱弾性特性に関するデータ量が圧倒的に豊富な端成分のMgAl2O4でさえ,先行研究により様々なEoSが報告されており,スピネルを利用したelastic geobarometryの適用は困難な状況である.ここでは,標準状態から高温高圧まで有効なMgAl2O4のEoSを決定し,カンラン石中のMgAl2O4包有物とMgAl2O4中のCO2包有物へのelastic geobarometryの適用可能性を議論する.

MgAl2O4のEoSを制約するために先行研究が用いた手順には大きく分けて主に5つの問題がある:1)利用可能なすべての体積 (V),弾性率 (K),熱容量 (CP) データをレビューしていない,2)先行研究で報告された体積-温度 (V-T) データはばらつきが多いが,どのデータが他の熱弾性データと整合的なのか議論がされていない,3)従来の石英のEoSから推定された圧力値を,改良されたEoSを使って補正していない(Angel et al., 1997; Scheidl et al., 2016),4)MgAl2O4では成立しない仮定を含むEoSを用いてフィッティングを行っている,5)inversion degreeが大きく変化する秩序・無秩序転移温度以上でのEoSの有効性が議論されていない.これらの問題を克服するために,入手可能なすべての熱弾性データに適切な規格化,補正,スケーリングを施した.そして,P-V-T-Kデータに加え,等圧熱容量を用いるCP-EoSの助けを借りて,他の熱弾性データとself-consistentとなるVTデータを決定した(下図参照).選択したself-consistentなデータセットを様々なタイプのEoSでフィッティングした結果,3次のBirch-Murnaghan EoSとMie-Grüneisen-Debye EoSを組み合わせたthermal pressure EoSがMgAl2O4の熱弾性データをよく説明できることが明らかになった.inversion degreeの変化がEoSに与える影響を排除するため,秩序・無秩序転移温度より十分に低い800K以下のデータのみを用いてフィッティングを行い(Suzuki et al., 2000),800K以上では適切な補正を行えばEoSは1400K程度まで有効であることが示された.

MgAl2O4P-V-T-KデータをフィットさせるためのEoSパラメータの決定は,弾性率データと体積データを同時にフィットさせるMilani et al. (2017)のアプローチに従い,EosFit7cプログラム (Angel et al. 2014)を用いて実施した.最後に,本研究で得られたMgAl2O4のEoSとかんらん石(Angel et al., 2018)およびCO2 (Pitzer and Sterner, 1994)のEoSを用いて,かんらん石中のMgAl2O4包有物とMgAl2O4中のCO2包有物のentrap isomekeを計算し,これらのhost-inclusion系に対するelastic geonarometryの適用可能性を議論する.

References
Angel et al. (1997) J. Appl. Crystallogr, 30, 461–466; Angel et al. (2014) Am Mineral, 99, 2146–2149; Angel et al. (2017) Am Mineral, 102, 1957–1960; Angel et al. (2018) Phys Chem Miner, 45, 95–113; Mazzucchelli et al. (2019) Lithos, 350-351, 105218; Milani et al. (2017) Am Mineral, 102, 851–859; Pitzer and Sterner (1994) Int. J. Thermophys, 16, 511–518; Scheidl et al. (2016) J. Appl. Crystallogr, 49, 2129–2137; Suzuki et al. (2000) Am Mineral, 85, 304–311.