日本地球惑星科学連合2022年大会

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[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP26] 鉱物の物理化学

2022年6月3日(金) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (21) (Ch.21)

コンビーナ:大平 格(学習院大学 理学部 化学科)、コンビーナ:柿澤 翔(広島大学大学院先進理工系科学研究科)、座長:柿澤 翔(高輝度光科学研究センター)

11:00 〜 13:00

[SMP26-P04] CO2雰囲気における非晶質カルシウムマグネシウム炭酸塩 (ACMC) の加熱誘起ドロマイト化

*菅原 慎吾1藤谷 渉1鍵 裕之2山口 亮3橋爪 光1 (1.茨城大学大学院理工学研究科、2.東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設、3.国立極地研究所)


キーワード:ドロマイト、非晶質炭酸塩

非晶質炭酸塩 [MCO3・nH2O] は結晶相 (e.g., calcite [CaCO3]、dolomite [CaMg(CO3)2]、magnesite [MgCO3]) に対して熱力学的に準安定であり、結晶化の低エネルギー経路を提供する前駆物質として注目されている (e.g., Radha et al., 2012)。ACC (Amorphous calcium carbonate) は、空気中の加熱で、固体変換でcalciteに結晶化すると考えられている (Ihli et al., 2014)。一方で、Mg/Ca ∼ 1のACMC (Amorphous calcium magnesium carbonate) を空気中で加熱した場合、Mg-calciteへの結晶化とMgO-CO2への分解が生じ、dolomiteには結晶化しない。Dolomite組成のACMCが溶液を介さずにdolomiteへ結晶化すれば、粒径の制御や不純物の添加などへの応用を期待できるが、結晶化の既報はない。

Dolomite組成のACMCが分解する原因はdolomiteの解離圧 (pCO2) が高いためだと考えられる。分解反応をCaMg(CO3)2 → CaCO3 + MgO + CO2として、各相のギブスの自由エネルギー (Robie et al., 1978) からdolomiteの解離圧を求めたところ、Mg-calcite結晶化温度付近 (700 K) においてのpCO2は∼ 1.2 barであった。そこで本研究では、CO2雰囲気下閉鎖系で分解を抑制した上でACMCを加熱することで、dolomiteに結晶化するか実験を行った。

Dolomite組成のACMCの合成は、溶液のMg/Ca比を2.36にした0.2 M (Mg + Ca) Cl2 溶液 10 ml と0.2 M Na2CO3 溶液 10 mlを氷冷下で混合することで行われた。混合後、即座に吸引濾過、アセトン洗浄を行い、試料を真空デシケータ内で一晩乾燥させた。このACMCを数Pa以下に真空引きした炉内で、300 ℃で加熱し脱水させた。脱水前後の試料が非晶質であることを粉末X線回折 (XRD) によって確かめた。また、脱水後のACMCをFE-SEMで観察したところ、粒径は< 100 nmであり、先行研究とおおよそ一致していた (e.g., Rodriguez-Blanco et al., 2015)。

CO2雰囲気下での加熱は、脱水後のACMCをステンレス製の容器に入れ、下方置換によってCO2ガスを容器内に充填させたのち、密閉した上で、420 ℃で行った。加熱試料をXRDで測定した結果、MgOへの分解は起こらず、dolomite (101反射、015反射が存在) へ結晶化した。FE-SEMで観察したところ、粒径は数100 nmであった。加熱試料にはdolomite以外にもnorthupite [Na3Mg(CO3)2Cl] やhalite [NaCl] などが生じるが、超純水で洗浄することでdolomite以外の相はすべて溶解した。このdolomite単相のMg/Ca比を電子プローブマイクロアナライザー (EPMA) で測定した結果、Mg/Ca比は0.83 ± 0.04 (2SD) であった。

Dolomiteへの結晶化過程を調べるため、同一の脱水ACMCを360 ℃ 2, 6, 12, 24 h、420 °C 2, 12, 72 hで加熱した。360 ℃ 2∼6 hの加熱では、回折パターンに104反射が観察されるが、101反射や015反射は認められず、ドロマイトの証拠を示さなかった。加熱温度and/or加熱時間を増大させると、ピークの強度は高く、シャープになり、101反射や015反射が観測されるようになった。また、ピーク位置が高角度側へシフトした (104反射が30.56° → 30.82°)。ピーク位置の高角度側へのシフトは、ACCの結晶化過程では観察されず、結晶相のMg/Ca比の増大による格子体積の変化を示すと考えられる。これはdolomite合成法としてよく知られる水熱合成でも観察される現象である (e.g., Kaczmarek and Thornton, 2017)。水熱合成の場合は水溶液中での溶解再結晶過程によってMg/Ca比の増大が生じるが、本研究によって、溶液を介さない場合でもMg/Ca比の増大を経てドロマイトへの結晶化が進行することがわかった。