日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP27] 変形岩・変成岩とテクトニクス

2022年5月29日(日) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (15) (Ch.15)

コンビーナ:中村 佳博(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、コンビーナ:針金 由美子(産業技術総合研究所)、座長:中村 佳博(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、針金 由美子(産業技術総合研究所)

11:00 〜 13:00

[SMP27-P03] マイロナイト化の指標としての再結晶石英のカソードルミネッセンススペクトル

*福島 夕紀子1高木 秀雄1 (1.早稲田大学)


キーワード:カソードルミネッセンススペクトル、マイロナイト化、再結晶石英、SEM–EBSD、SEM–CL

石英は結晶内の構造欠陥や不純物元素の存在によってCL (Cathodoluminescence) 特性を有するが,そのCLスペクトルは主に青色領域の450 nmと赤色領域の630 nm付近にピークをもつブロードなバンドスペクトルである.SEM−EBSD解析より得られるCPO (結晶方位定向配列) パターンはマイロナイト化の変形温度に依存して形成されるため,マイロナイト化の評価指標として使われている.近年,マイロナイト化の評価指標として石英のCL特性を活用できないか,CLスペクトルを発光成分ごとに分離し,マイロナイト化の影響について検討する研究が進められている (田野ほか, 2017; Kiku et al., 2017).マイロナイト化の粒径減少に伴い,青色発光が減少し,赤色発光が増加することが明らかにされ,その変化にAl欠陥中心とTi欠陥中心におけるイオンの移動が関わっていることが示唆されている.しかし,いずれも中央構造線などの複雑な変形履歴を持つ剪断帯における石英で解析が行われている.そこで,本研究では複雑な変形履歴を排除できる瀬戸内海手島の領家新期花崗岩の小剪断帯において解析を行った.
SEM−EBSD解析の結果,小剪断帯の縁辺部から中心部にかけて,平均粒径が減少した.また,CPOパターンのc軸ファブリックは低温型のタイプⅠクロスガードルから中温型のY集中への漸移が記録された (Passchier and Trouw, 1996).剪断帯の中心部から縁辺部にかけての剪断歪の減少に伴って,粒径が増加し,変形温度が上昇する遷移は,一般的な剪断帯で見られる傾向と矛盾がない.
再結晶石英粒子のCL濃淡像では,粒子内部に明部 (発光強度が強い) と暗部 (発光強度が弱い) がまだらに観察された.SEM−EBSD測定によって得られた粒界 (White, 1977より,10° 以上を粒界とする) マップと比較すると,暗部が粒界または亜粒界の周辺,明部が粒子または亜粒子の中央部であることが分かった.しかし,一部の粒界で見られた非発光部は溶解沈殿作用により二次的に形成された石英であると考えられるため (Shimamoto et al., 1991),粒界は避けて測定を行った.得られたCLスペクトルの表示をnm から eV に変換後,最小二乗法を用いて Voigt 関数でフィッティングし,ピーク分離を行った (Stevens-Kalceff, 2009).分離に用いた発光成分は1.65 eV (750 nm),1.95 eV (635 nm),2.2 eV (560 nm),2.7 eV (460 nm),2.95 eV (420 nm),3.3 eV (385 nm) の6つである (Götze et al., 2001; Stevens-Kalceff, 2009).青色発光と赤色発光の関係に対する各発光成分の変化を明確にするため,青色領域と赤色領域の最大発光強度の比 (Rh/Bh) を用いた.Rh/Bhは粒径減少に伴い増加する.Rh/Bhと,ピーク分離で算出された各発光成分の面積比で散布図を作成したところ,1.95 eVにおいて相関が非常に強く,正の傾きを持つ直線に回帰することができる.1.95 eVはNBOHC (非架橋酸素正孔中心) を要因とする発光であり,[AlO4/M+] (3.3 eV) が [AlO4] +NBOHC (1.95 eV) へと変化する (King et al., 2011) ことで増加するAl欠陥中心に関する発光成分である.一方,最も相関が低い2.95 eVは面積比の大小で2つのグループに分けられた.これは青色領域のピーク付近の発光成分2.95 eV,2.7 eV,2.2 eVで生じたピーク分離の不完全さに起因する.以上より,CLスペクトル解析から得られるデータのうち,1.95 eVの占有率とRh/Bhはマイロナイト化の指標として用いることができる可能性が示された.