日本地球惑星科学連合2022年大会

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[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP27] 変形岩・変成岩とテクトニクス

2022年5月29日(日) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (15) (Ch.15)

コンビーナ:中村 佳博(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、コンビーナ:針金 由美子(産業技術総合研究所)、座長:中村 佳博(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、針金 由美子(産業技術総合研究所)

11:00 〜 13:00

[SMP27-P04] 木呂子緑色岩メランジュの構造岩塊にみられる二次的鉱物

*小野 晃

キーワード:跡倉ナップ、緑色岩メランジュ、ぶどう石、構造岩塊

関東山地北東縁部,寄居-小川地域の跡倉ナップ南縁部に木呂子緑色岩メランジュが分布している.この地質体は木呂子変成岩と構造岩塊と蛇紋岩から構成されている.構造岩塊は木呂子変成岩の上昇場に分布していた地質体であり,木呂子変成作用を被っていない.多種多様な構造岩塊は,それぞれが独自の熱履歴を持っている.ただし,二次鉱物としてぶどう石を含有していることが多く,共通の熱事件として,ぶどう石の形成が想定される.これを念頭に置いて,ここでは構造岩塊の二次的鉱物を検討する.検討した構造岩塊の位置などはFigure Aを参照されたい.
構造岩塊のメタガブロは,広範囲に点在しており,露頭での大きさは1mほどから50m以上といろいろである.原岩のガブロの岩石組織はよく残存している(Figure B, 3).強い変形作用を被っておらず,片理面はみられない.定方向に配列したり破断されたりしている鉱物はほとんど認められない.メタガブロが被った弱変成作用の程度はいろいろであるが,かなり著しい場合が多い.斜長石は細粒のぶどう石,緑泥石,白雲母などによって部分的に交代され,普通角閃石は緑泥石などに部分的に交代されている.カルサイトはごく少量認められる.光学顕微鏡下では微小のぶどう石脈や緑泥石脈が普通に認められる.ぶどう石脈は,野外ではほとんど確認できないが,稀にごく薄いぶどう石脈が網状に発達していて,メタガブロが10cmほどの大きさの岩片に容易に破砕される.なお,地点Yなどのメタガブロには層状構造が認められ,緑色岩も介在している.今後の検討課題である.
居用地域の変成トーナル岩(Figure A, loc. f)は,非常に不均質な地質体である.苦鉄質や長石質の岩石からなる混在岩のような岩石(Figure f-b)も認められる.岩体北端部では,塊状の岩石の他に片理面の発達した変成トーナル岩が多い.この変成トーナル岩のおもな構成鉱物は,普通角閃石と斜長石(ソシューライト)である.斜長石は全体がソシューライト化されて微細なゾイサイトなどに置換されており,顕微鏡下ではほとんど不透明鉱物にみえる.ソシューライトや普通角閃石は定方向に破断されて,多数の割れ目が形成されている.割れ目を満たすように斜長石脈や石英‐斜長石脈が形成されている.脈の斜長石はソシューライト化されていない.脈には緑泥石や針状のアクチノ閃石が形成されていることがある(Figure f).普通角閃石の外縁部にはしばしば微細なアクチノ閃石と緑泥石が形成されている.ぶどう石や白雲母は確認されていない.
居用地域の木呂子緑色岩メランジュの北端部に肥後-阿武隈帯起源の変成岩とアプライト質花崗岩が1km以上に渡って分布している.この大岩体の他にかなり大きい類似の岩塊が2か所に認められる(Figure A).これらの変成岩(ザクロ石-黒雲母-白雲母片岩や砂質変成岩や結晶質石灰岩など)に重複変成作用を確認できない.ぶどう石は見出されていない.
居用集落東方(地点g)には10m以上にわたり角閃岩が露出している.岩相はK-Ar角閃石年代が402Maの角閃岩に類似している.角閃岩の斜長石や普通角閃石は交代作用をほとんど受けていないが,石英脈,ブドウ石脈,緑泥石脈および微量のアクチノ閃石を含む石英脈が認められる(Figure g).石英脈の或ものは,ブドウ石脈を切断している.角閃岩の南方にはほぼ鉛直に傾く石英質や苦鉄質のスレートが隣接しており,北方には蛇紋岩が分布している.なお,木呂子の402Maの角閃岩は,緑色岩に高角断層で介在する小さい構造岩塊である.Figure Xは岩塊南端部の画像である.調査地域では構造岩塊と緑色岩の境界部にブドウ石が大量に形成される現象は認められていない.
まとめ> 従来の研究によると,緑色岩メランジュはみかぶユニットではなく,ナップ岩体とされている.その根拠の一つは,ぶどう石が緑色岩メランジュの構造岩塊にごく普通に産出することである.ただし,ぶどう石の晶出時期や生成場は解明されていない.ここに報告したように,ぶどう石は多くの構造岩塊に見出されており,構造岩塊の形成期に広範囲に生成した可能性がある.しかしながら,ぶどう石が存在しない構造岩塊も少なくない.その上,ぶどう石を含む木呂子変成岩は稀である.したがって,ぶどう石が構造岩塊の形成以前にすでに形成されていた可能性が高い.ぶどう石は,構造岩塊ごとに異なった時期の異なった場所で生成された可能性があり,この可能性を考慮しなければならない.