日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS03] Seismological advances in the ocean

2022年6月1日(水) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (21) (Ch.21)

コンビーナ:久保田 達矢(国立研究開発法人防災科学技術研究所)、コンビーナ:利根川 貴志(海洋研究開発機構 地震津波海域観測研究開発センター)、仲谷 幸浩(鹿児島大学地震火山地域防災センター附属南西島弧地震火山観測所)、座長:久保田 達矢(国立研究開発法人防災科学技術研究所)、利根川 貴志(海洋研究開発機構 地震津波海域観測研究開発センター)、仲谷 幸浩(鹿児島大学地震火山地域防災センター附属南西島弧地震火山観測所)

11:00 〜 13:00

[SSS03-P08] 日本海溝―千島海溝会合部OBS観測網記録の地震波干渉法解析による地震波速度変化検出の試み

*佐藤 豪大1東 龍介1高木 涼太1日野 亮太1篠原 雅尚2 (1.東北大学、2.東京大学地震研究所)

キーワード:地震波干渉法、海底地震計

地震活動に伴う地下構造の時空間変化の検出には地震波干渉法を用いた解析が一般的に行われていて,2011年東北沖地震とその直前のスロースリップイベント (Ikeda&Takagi, 2016; Uemura et al., 2018)や,2018年北海道胆振東部地震 (Ikeda&Takagi, 2019) に関わる検出例がある.本研究が注目する日本海溝-千島海溝会合部では,スロー地震の一種である超低周波地震 (Baba et al., 2020)やテクトニック微動 (Nishikawa et al., 2019; 川久保, 2021) の活動度が高い.テクトニック微動活動が示す震源の移動速度が流体拡散モデルに調和することから流体の関与する可能性が指摘される (例えば,Tanaka et al., 2019).こうした背景から,会合部スロー地震の震源移動の背景に間隙流体の移動が関わっているならば,それに伴って発生場周辺の地震波速度が時空間変化することが期待される.本研究では,川久保 (2021) が会合部で微動を検出した2006年から2007年の稠密OBS観測データを解析し,地震波干渉法によってスロー地震活動に伴う海底下構造の時空間変化の検出を試みる. 観測期間中には2度の千島列島沖巨大地震(Lay et al., 2009),近地地震(Mj6.2)も発生しており,それらに関わる変化も期待される.
本研究で解析する海溝会合部のOBS観測データは,文科省委託研究の一環として東京大学地震研究所により収集された.観測は2006年10月25日から2007年6月5日にかけて実施され,全観測点42点のうち北半分の21点は南半分の観測点より遅れ11月24日から観測を開始した.使用した海底地震計は,固有周期1 Hzの3成分速度センサーを備えており,観測された波形はサンプリング周波数200 HzでA/D変換されレコーダーに収録された.
本研究では,観測点ごとに海底常時微動記録の自己相関関数 (Auto-Correlation Function, ACF) を計算した.ACFの計算は,一日長のOBS 上下動連続波形記録を10 Hzにダウンサンプリングしたのちに,60秒ずつ重複するよう切り出した120秒のウィンドウごとに行い,1日分(1439個)のACFの平均を日毎のACFと定義した.このとき各ウィンドウに対して0.25-2 Hzのバンドパスフィルタを施し,2値化処理を行った.次に,2007年12月の1ヶ月間のACFの平均をとり基準ACFとし,それと15日間の平均をとったACFとの相互相関関数(Cross-Correlation Function, CCF)を移動時間窓内で計算することで,ACFの時間変化を調べた.相互相関係数が最大となるときのラグタイムdtと定義すると,dtは散乱波の往復走時の変化量に対応する.ACFのラグタイムTとそのときのdtから,地震波速度の変化率dv/v=-dt/Tを計算した.
得られた日毎のACFの時系列に次のような特徴が見られる.ACFの振幅の大きいフェイズがラグタイム0〜90秒の間でみられ,特に0-20秒に集中していた.また,ほとんどの観測点においてラグタイム10秒付近でACFに時間的な揺らぎが見て取れた.一方で,その他のラグタイムにおいて大振幅のフェイズの明瞭な変化は見られなかった.基準ACFと15日平均ACFとのラグタイムゼロにおけるCC係数を見ると,いずれの観測点においてもラグタイム90秒を超えると0.5未満と著しく低下する.それよりも前のラグタイムではおおよそCC係数>0.8程度と安定しているものの,ラグタイム10秒付近では局所的にCC係数が0.5-0.6程度まで低下する様子がみられた.この傾向はほとんど全ての観測点で共通する.最後に,ラグタイム10秒付近でdv/v~2%ほどの変化が見られたが,相互相関係数の高いラグタイム範囲内ではほとんど変化はなかった.
本研究ではラグタイム10秒付近でdv/vの変化が見られたが,そのときのCC係数が低いために,得られた値が速度変化を示しているとは言えない可能性がある.このような傾向は先行研究でも捉えられており,Uemura et al. (2018) ではCC係数低下及びdtの変化について,テクトニック微動による脈動波動場の変化を原因に挙げている.そこで,本研究においてもこの限定的なCC係数の低下は何によって引き起こされているのかについて,今後の解析で検討していく予定である.