16:30 〜 16:45
[SSS06-10] 点震源地震動の近地項の幾何減衰と放射パターン
キーワード:近地項、幾何減衰、放射パターン
2016年熊本地震以降,近地の地震動が注目されるようになっている.しかし,Love (1906)に記述された点力源地震動の解から得られる点震源地震動のうち,遠地項の幾何減衰と放射パターンは古くからよく調べられているが,近地項の幾何減衰を明確にした文献を見つけることができなかった.また,近地項の放射パターンはAki and Richards (1980, 2002)において求められているが,それは水平横ずれ断層の点震源という特殊なものでやや実用性に乏しい.そこでここでは近地項の幾何減衰と放射パターンを改めて検討する.
横ずれ断層の中では水平より垂直の方が一般的だと考えられるので,無限媒質中の垂直横ずれ断層の点震源による地震動を検討する.その近地項はUn=(30γnγxγy–6δnyγx–6δnxγy)/4πρR4∫τM0(t–τ)dτ(積分範囲は[R/α,R/β])と与えられる(纐纈, 2018).地震動は地動速度∂Un/∂tで代表されるとし,モーメント時間関数M0(t)は定数の最終モーメントM0と立ち上がり時間τrの原点移動した傾斜関数U0(t)の積になっているとする.∂Un/∂tの時間関数は∫τ∂M0(t–τ)/∂tdτ=M0∫τ∂U0(t–τ)/∂tdτであるから,最大速度(PGV)は(1) ∫τ∂U0(t–τ)/∂tdτ(積分範囲[R/α,R/β])が最大値をとるときの∂Un/∂tである.
τr=1 s,媒質のP波速度α=5.5 km/s,S波速度β=3.0 km/s,距離R=3 km (R1)または12 km (R2)の場合の(1)式を次ページの図にプロットした.この図からはR1とR2で波形が異なり,それはR/α+τrがR/βより後になるか前になるかによると見て取れる.従って,その境界はR/α+τr=R/βを解いたRτ=τr/(β-1–α-1)であり,R≧Rτでは波形の中央部が傾き正の直線になって最大値の頂点が現れる(付図のR2).∂U0(t–τ)/∂tはt–τr≦τ≦tのときに1となり,それ以外では0であるから,積分範囲はtにより変化する.R/α+τr<t<R/βの範囲を考えると,t–τr>R/αより積分下限はR/αからt–τrに変えなければならず,t<R/βより積分上限はR/βからtに変えなければならない.
以上より(1)式=∫τdτ(積分範囲[t–τr,t])=τrt–τr2/2となり,R2波形中央部の直線は傾きτrのこの直線であることがわかる.さらにt=R/βにおける(1)式の最大値がτrR/β–τr2/2と得られるので,これを∂Un/∂tに代入すれば,近地項の最大速度(PGV)は点震源のごく近傍を除いて主に1/R3に沿って幾何減衰することがわかる.
最後に,近地項の放射パターンに移るが,数式が非常に長くなるのでここでは結果のみ示す.冒頭のUn, n=x,y,zを球座標系n=R,θ,φに変換して方向余弦をθ,φの三角関数に置き換えると,Un=An/4πρR4∫τM0(t–τ)dτ(積分範囲[R/α,R/β])のAnは次のように与えられる.AR=9sin2θ sin 2φ,Aθ=–3sin 2θ sin 2φ,Aφ=–6sin θ cos 2φ.これらは垂直横ずれ断層の結果であり,水平横ずれ断層の場合であるAki and Richards (1980, 2002)の(4.33)式には一致しない.
横ずれ断層の中では水平より垂直の方が一般的だと考えられるので,無限媒質中の垂直横ずれ断層の点震源による地震動を検討する.その近地項はUn=(30γnγxγy–6δnyγx–6δnxγy)/4πρR4∫τM0(t–τ)dτ(積分範囲は[R/α,R/β])と与えられる(纐纈, 2018).地震動は地動速度∂Un/∂tで代表されるとし,モーメント時間関数M0(t)は定数の最終モーメントM0と立ち上がり時間τrの原点移動した傾斜関数U0(t)の積になっているとする.∂Un/∂tの時間関数は∫τ∂M0(t–τ)/∂tdτ=M0∫τ∂U0(t–τ)/∂tdτであるから,最大速度(PGV)は(1) ∫τ∂U0(t–τ)/∂tdτ(積分範囲[R/α,R/β])が最大値をとるときの∂Un/∂tである.
τr=1 s,媒質のP波速度α=5.5 km/s,S波速度β=3.0 km/s,距離R=3 km (R1)または12 km (R2)の場合の(1)式を次ページの図にプロットした.この図からはR1とR2で波形が異なり,それはR/α+τrがR/βより後になるか前になるかによると見て取れる.従って,その境界はR/α+τr=R/βを解いたRτ=τr/(β-1–α-1)であり,R≧Rτでは波形の中央部が傾き正の直線になって最大値の頂点が現れる(付図のR2).∂U0(t–τ)/∂tはt–τr≦τ≦tのときに1となり,それ以外では0であるから,積分範囲はtにより変化する.R/α+τr<t<R/βの範囲を考えると,t–τr>R/αより積分下限はR/αからt–τrに変えなければならず,t<R/βより積分上限はR/βからtに変えなければならない.
以上より(1)式=∫τdτ(積分範囲[t–τr,t])=τrt–τr2/2となり,R2波形中央部の直線は傾きτrのこの直線であることがわかる.さらにt=R/βにおける(1)式の最大値がτrR/β–τr2/2と得られるので,これを∂Un/∂tに代入すれば,近地項の最大速度(PGV)は点震源のごく近傍を除いて主に1/R3に沿って幾何減衰することがわかる.
最後に,近地項の放射パターンに移るが,数式が非常に長くなるのでここでは結果のみ示す.冒頭のUn, n=x,y,zを球座標系n=R,θ,φに変換して方向余弦をθ,φの三角関数に置き換えると,Un=An/4πρR4∫τM0(t–τ)dτ(積分範囲[R/α,R/β])のAnは次のように与えられる.AR=9sin2θ sin 2φ,Aθ=–3sin 2θ sin 2φ,Aφ=–6sin θ cos 2φ.これらは垂直横ずれ断層の結果であり,水平横ずれ断層の場合であるAki and Richards (1980, 2002)の(4.33)式には一致しない.