11:00 〜 13:00
[SSS06-P03] 微動を用いた地殻モニタリングにおける深度解像度向上に向けた研究
キーワード:雑微動、S波速度変化、ウェーブレット変換、モニタリング
地殻の弾性波速度は、断層帯の損傷、間隙水圧や応力状態の変化、地震によるダメージから回復する過程によって変化する。つまり弾性波速度の変化を観測することは、地震や火山活動を予測する上で、重要な情報を提供する。これまでの研究では、雑微動の相互相関解析を用いた地下の速度変化のモニタリングが活発に実施されているが、深度方向への解像度が低く、どの深度で速度変化が大きく起きているかを議論することが難しい。そこで本研究では、2016年4月16日に発生した熊本地震の前後で取得された微動データから周波数ごとに速度変化を求めることで、S波速度変化の深度分布を推定し、深度方向の解像度を向上させることを目的とした。
まず雑微動の相互相関に周波数領域の解析(ゼロクロス法)を適用することで分散曲線を推定し、その逆解析によりS波速度構造の参照モデルを作成した。その後、ウェーブレット変換を適用した相互相関関数のコーダ波部分にストレッチング法を適用し、周波数ごとの位相速度変化を求めた。最後に、得られたS波速度構造の参照モデルと周波数ごとの位相速度変化を使って逆解析を行い、深度ごとのS波速度変化を推定した。本研究ではウェーブレット変換で使用するマザーウェーブレットとして、Morlet waveletとPaul waveletの2種類を使用した。さらに、ストレッチング法を適用するコーダ波のウィンドウの長さを注目周波数の10、20、30周期分の3種類を準備して比較した。
ストレッチング法から得られる位相速度変化は、どのウィンドウの長さでも地震後に位相速度低下を示していたが、次の示す理由から20周期が最も適切であった。ウィンドウの長さが10周期の時は、周期変動のような速度変化のばらつきが確認できたが、20周期以降になると安定した速度変化を得られるようになった。一方で、後続のコーダ波ほど実体波の情報を含むことが知られているため、コーダ波の長さは20周期が最も適切であると考えた。
次に、インバージョンにより推定したS波速度変化の深度分布において、マザーウェーブレットの違いによる影響を比較した。その結果、Morlet waveletを利用した場合の方がS波速度低下のピークを深度方向に明瞭に推定することができた。しかしながら、ピーク以外の速度変化が小さい深度において、速度変化の揺らぎが大きくなってしまい、安定した結果は得られなかった。一方で、Paul waveletは深度方向に安定した速度変化を得ることができたが、Morlet waveletのときほどS波速度変化のピークが明確ではなくなった。このように、Morlet waveletはS波速度変化のピークを明確に見たいときには優れている一方で、Paul waveletは安定した速度変化を推定したいときに優れていると言える。
以上の結果から、S波速度変化の推定にはウィンドウの長さは20周期で十分だが、S波速度変化の深度方向への空間解像度を増やしたいときにはMorlet waveletが優れており、安定した速度変化を推定したいときにはPaul waveletの方が優れていると言える。今後はさらに深度方向のS波速度変化を安定して求めるために、深度ごとのS波速度変化の逆解析において適切なパラメータ設定や制約条件を与えることが必要である。例えば、影響の大きい表層の感度カーネルの影響を少なくするために、一層目のS波速度変化を固定することや既存のデータから一層目のデータを細かく分割することが挙げられる。
まず雑微動の相互相関に周波数領域の解析(ゼロクロス法)を適用することで分散曲線を推定し、その逆解析によりS波速度構造の参照モデルを作成した。その後、ウェーブレット変換を適用した相互相関関数のコーダ波部分にストレッチング法を適用し、周波数ごとの位相速度変化を求めた。最後に、得られたS波速度構造の参照モデルと周波数ごとの位相速度変化を使って逆解析を行い、深度ごとのS波速度変化を推定した。本研究ではウェーブレット変換で使用するマザーウェーブレットとして、Morlet waveletとPaul waveletの2種類を使用した。さらに、ストレッチング法を適用するコーダ波のウィンドウの長さを注目周波数の10、20、30周期分の3種類を準備して比較した。
ストレッチング法から得られる位相速度変化は、どのウィンドウの長さでも地震後に位相速度低下を示していたが、次の示す理由から20周期が最も適切であった。ウィンドウの長さが10周期の時は、周期変動のような速度変化のばらつきが確認できたが、20周期以降になると安定した速度変化を得られるようになった。一方で、後続のコーダ波ほど実体波の情報を含むことが知られているため、コーダ波の長さは20周期が最も適切であると考えた。
次に、インバージョンにより推定したS波速度変化の深度分布において、マザーウェーブレットの違いによる影響を比較した。その結果、Morlet waveletを利用した場合の方がS波速度低下のピークを深度方向に明瞭に推定することができた。しかしながら、ピーク以外の速度変化が小さい深度において、速度変化の揺らぎが大きくなってしまい、安定した結果は得られなかった。一方で、Paul waveletは深度方向に安定した速度変化を得ることができたが、Morlet waveletのときほどS波速度変化のピークが明確ではなくなった。このように、Morlet waveletはS波速度変化のピークを明確に見たいときには優れている一方で、Paul waveletは安定した速度変化を推定したいときに優れていると言える。
以上の結果から、S波速度変化の推定にはウィンドウの長さは20周期で十分だが、S波速度変化の深度方向への空間解像度を増やしたいときにはMorlet waveletが優れており、安定した速度変化を推定したいときにはPaul waveletの方が優れていると言える。今後はさらに深度方向のS波速度変化を安定して求めるために、深度ごとのS波速度変化の逆解析において適切なパラメータ設定や制約条件を与えることが必要である。例えば、影響の大きい表層の感度カーネルの影響を少なくするために、一層目のS波速度変化を固定することや既存のデータから一層目のデータを細かく分割することが挙げられる。