日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS07] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2022年5月23日(月) 13:45 〜 15:15 105 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:大谷 真紀子(東京大学地震研究所)、コンビーナ:岡崎 啓史(海洋研究開発機構)、奥脇 亮(筑波大学生命環境系山岳科学センター)、コンビーナ:金木 俊也(京都大学防災研究所)、座長:金木 俊也(京都大学防災研究所)、岡崎 啓史(海洋研究開発機構)

14:15 〜 14:30

[SSS07-03] 海溝型地震発生メカニズムの解明に向けた水熱環境下での玄武岩の摩擦実験

★招待講演

*奥田 花也1,2、André Niemeijer3高橋 美紀4山口 飛鳥1,2、Christopher Spiers3 (1.東京大学 大気海洋研究所 海洋底科学部門、2.東京大学 理学系研究科 地球惑星科学専攻、3.ユトレヒト大学 地球科学科、4.産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)


キーワード:地震発生帯、海洋地殻、変質玄武岩、摩擦実験

海溝型地震は深さ約5-35km、温度約150-350℃の地震発生帯で発生する。地震発生帯はプレート境界断層に存在する物質の摩擦特性に対応すると考えられており、例えばイライト質堆積物の速度弱化(den Hartog et al., 2012)や堆積物の固結化(Ikari & Hüpers, 2021)がその候補に挙げられている。しかし、近年の地震学的観測や地質学的研究からは、地震発生帯の上限近傍でのプレート境界断層は沈み込む海洋地殻中に発達する可能性も指摘されている(e.g., Kimura et al., 2012)。これは海溝型地震の発生メカニズムにおいて変質玄武岩の摩擦特性も重要であることを示唆するが、玄武岩質の断層岩の摩擦特性の研究は少なく、特にその温度依存性はよくわかっていなかった。

本研究では四万十付加体の牟岐メランジュから採取された変質玄武岩を用いた。この玄武岩は中央海嶺玄武岩がかつてのプレート境界断層に沿って地震発生帯の深度まで沈み込んだ後に上昇したものであり、曹長石化した斜長石、単斜輝石、緑泥石の填間状組織を示す。この玄武岩を100 μm以下に粉砕したものを試料とし、地震発生帯の条件を模擬するため、ユトレヒト大学の高温高圧熱水回転式摩擦試験機を用い、有効垂直応力100 MPa、間隙水圧100 MPa、温度100-550℃の条件で摩擦実験を行った。それぞれの温度条件における摩擦の不安定性を探るため、1-3-10-30-100 μm/sでの速度ステップ試験を行ったほか、微細構造観察のために一定速度での実験も行った。

実験を行った温度範囲では摩擦係数は0.55から0.85であった。ただしこれは47.5 mmの変位の間に起こった滑り強化の影響も含まれている。地震につながりうる条件的不安定滑り(すなわち速度弱化)は100-450℃の温度で観察された。摩擦係数はすべての温度条件において粘土鉱物に富む堆積物よりも高かったものの(cf., den Hartog et al., 2012)、変質玄武岩が速度弱化を示した温度範囲はイライト質、花崗岩質、非変質玄武岩質のガウジよりも幅広かった。微細構造観察の結果から、この速度弱化挙動は曹長石化した斜長石の圧力溶解クリープによりもたらされていると考えられる。斜長石の曹長石化は沈み込み帯浅部で起こるため(Moore et al., 2007)、今回の実験結果は、沈み込む変質した海洋地殻物質が、プレート境界断層が海洋地殻中に発達する深度における海溝型地震の発生プロセスを支配している可能性を示唆する。