日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS07] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2022年5月24日(火) 10:45 〜 12:15 105 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:大谷 真紀子(東京大学地震研究所)、コンビーナ:岡崎 啓史(海洋研究開発機構)、奥脇 亮(筑波大学生命環境系山岳科学センター)、コンビーナ:金木 俊也(京都大学防災研究所)、座長:大谷 真紀子(東京大学地震研究所)、奥脇 亮(筑波大学生命環境系山岳科学センター)

11:15 〜 11:30

[SSS07-21] 地下構造の不確かさを考慮したベイズマルチモデル断層すべり推定について

★招待講演

*縣 亮一郎1中田 令子2、笠原 天人、八木 勇治3瀬下 幸成5吉岡 祥一4,5飯沼 卓史1 (1.海洋研究開発機構、2.東北大学大学院理学研究科、3.筑波大学大学院 生命環境系、4.神戸大学都市安全研究センター、5.神戸大学大学院理学研究科)

キーワード:長期的スロースリップ、地下構造の不確かさ、ベイズマルチモデル推定

測地・地震波形データに基づいて断層すべり分布を推定する際、事前に地下構造(ここでは弾性構造と断層ジオメトリとする)を仮定しておく必要がある。地下構造の情報は不確実なものしかないことを前提とすると、地下構造の「1つのモデル」を仮定することは、モデルによる観測点応答の予測誤差を大きくし、すべり推定結果に大きなバイアスをもたらす可能性がある。いくつかの既往研究では,グリーン関数の不確かさに起因するモデル予測誤差のデータ共分散への寄与を考慮することで,この問題を解決しようとしている(例えば,Yagi & Fukahata 2008, 2011; Duputel et al. 2014)。著者らは最近,これらの考えを発展させ、断層すべり分布を推定するためのベイズマルチモデル推定手法を開発した。この手法では、推定の際に「1つのモデル」を仮定するのではなく、地下構造の「マルチ(複数の)モデル」からなるアンサンブルを用いて地下構造の不確かさを考慮する。これにより、より一般的な形でモデル予測誤差を考慮した推定が可能となり、ガウス分布の仮定に伴う誤差を低減することができる。さらにこの手法では、「マルチモデル」に含まれるモデル一つ一つに対する尤度を計算することで、地下構造パラメータの事後確率密度関数(PDF)を推定することができる。
本手法を、西南日本の豊後水道下で2010年と2018年頃に発生した長期的スロースリップイベント(L-SSE)における測地観測データを用いたすべり分布の推定に適用した。ここでは、マルチモデルに基づく本アプローチを導入することによる2つの利点について着目する。第一に、ill-posedな逆問題であるすべり分布の推定に、モデルの不確かさに起因するモデル予測誤差の確率的特性を精度よく考慮したフルベイズ推定をもちいると、すべり分布のスムーズさなどの強い事前情報なしに推定を行いやすくなる。第二に,L-SSEのように同じ場所で繰り返し発生する事象のスリップ推定において,地下構造を特徴づけるPDFを逐次更新することができる。提案した手法を用いて得られたすべり分布推定結果は、クーロン破壊応力変化の空間分布が、強い事前情報に基づいて得られたものと比較し、L-SSEの期間中に発生したdown-dip側の深部低周波微動の分布とよりよく一致していることを示唆した。この結果は,L-SSEと周辺地域の同期したスロー地震との力学的な関係をより明確に示しており,得られたすべり分布と他のイベントとの関係を議論する上で,非物理的な拘束条件なしにすべり分布を推定することがより効果的であることを示唆している。また,2010年のイベントに対する推定において更新された地下構造のPDFを2018年のイベントを解析する際の入力として使用したところ,情報量規準の値が小さくなり、より好ましいベイズ推定を実施できた。
本手法は今後、より地下構造の仮定が結果に影響しやすい地震波形を用いた震源過程のインバージョンに適用されることが期待される。また、現段階ではアドホックに地下構造のマルチモデルを設定しているが、将来的には不確かさまでを考慮した地下構造推定結果をもとにマルチモデルを設定し、本手法をよりデータ駆動的なアプローチにより展開させていきたい。