日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS07] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2022年5月31日(火) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (19) (Ch.19)

コンビーナ:大谷 真紀子(東京大学地震研究所)、コンビーナ:岡崎 啓史(海洋研究開発機構)、奥脇 亮(筑波大学生命環境系山岳科学センター)、コンビーナ:金木 俊也(京都大学防災研究所)、座長:金木 俊也(京都大学防災研究所)、岡崎 啓史(海洋研究開発機構)、奥脇 亮(筑波大学生命環境系山岳科学センター)、大谷 真紀子(東京大学地震研究所)

11:00 〜 13:00

[SSS07-P08] 石英系砂岩の仕事率増加に伴う急激な摩擦・摩耗特性の転換

*前田 純伶1山下 太1大久保 蔵馬1福山 英一2,1 (1.国立研究開発法人 防災科学技術研究所 、2.京都大学)

断層の摩擦特性は断層強度を規定し,摩耗特性は摩耗物の蓄積量を規定するため,これらの特性を明らかにすることは,地震発生機構の理解および地震履歴の推定精度向上に繋がると考えられる.そのため,室内実験に基づき様々な岩種の摩擦・摩耗特性が明らかにされてきたが,砂岩の摩擦・摩耗特性に関しては未だに不明な点が多い.Hirose et al. (2012, JSG) は石灰岩質砂岩を用いた摩擦実験を行い,摩耗率の低下とshiny slickenside surface(以下,鏡面)の形成に関係があることを示唆した.前田・他(2021SSJ)は石英が多く含まれているインド砂岩(石英含有率:68%)を用いた実験を行なって,石灰岩質砂岩とは摩擦・摩耗特性および鏡面の生成・破壊条件が異なることを明らかにするとともに,実験後の断層面の状態により4つのフェーズに分類可能なことを示した.本研究では,特に,鏡面が剪断面全体に発達した状態(フェーズ1)から鏡面が部分的に破壊し始める状態(フェーズ2)への遷移に注目して解析を行った.
実験は防災科学技術研究所が保有するサーボ式高速剪断摩擦試験機を用いて行い,法線応力,剪断応力,すべり速度,すべり距離,温度,および,実験後に回収した摩耗物の質量のデータを取得した.実験中の法線応力は0.5 MPaもしくは1.0 MPaで一定に保ち,1実験あたり200 mのすべりを与えた.本研究では,すべり距離が60-100 mの間で測定された摩擦係数及び仕事率(すべり速度と剪断応力の積)の平均値をそれぞれの代表値として使用する.また,すべり距離に対する剪断応力の積分値を摩擦仕事量,摩擦仕事量に対する摩耗物質量を摩耗率とする.温度データは赤外放射温度計(KEYENCE IT2-02, IT2-50)を用いて模擬断層面近傍で計測し取得した.
取得した各データを解析した結果,フェーズ1とフェーズ2では摩擦・摩耗特性に大きな違いがあることが明らかとなった.フェーズ1では仕事率の増加(10-4から10-2 MJ/m2s)に伴って摩擦係数が減少する傾向(〜0.6から0.2)にある一方,フェーズ2では仕事率の増加(>10-2 MJ/m2s)に伴って摩擦係数が増加する傾向に転じることが判明した.また,フェーズ1では,断層面の最高温度は〜100℃以下で摩耗率は仕事率に寄らずほぼゼロであったのに対し,フェーズ2では最高温度が100℃を超え摩耗率も仕事率とともに急増することが判明した.
Boneh et al. (2013, EPSL) は,炭酸塩岩を用いた剪断摩擦実験に基づき,すべり速度の増加に伴って,アスペリティ同士が直接接触することで破壊および摩耗が生じるtwo-body modeから,剪断面がガウジで覆われてガウジが潤滑剤の役目をすることで摩耗が減少するthree-body modeに変遷することを示した.一方,本研究で明らかとなったインド砂岩の摩耗特性はそれとは逆の傾向を示すことから,Boneh et al. (2013, EPSL) とは異なる摩耗モデルを構築する必要がある.講演ではそのモデルについての議論も行う.