日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS07] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2022年5月31日(火) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (19) (Ch.19)

コンビーナ:大谷 真紀子(東京大学地震研究所)、コンビーナ:岡崎 啓史(海洋研究開発機構)、奥脇 亮(筑波大学生命環境系山岳科学センター)、コンビーナ:金木 俊也(京都大学防災研究所)、座長:金木 俊也(京都大学防災研究所)、岡崎 啓史(海洋研究開発機構)、奥脇 亮(筑波大学生命環境系山岳科学センター)、大谷 真紀子(東京大学地震研究所)

11:00 〜 13:00

[SSS07-P16] 2011年東北地方太平洋沖地震に伴う地震活動変化:小規模地震の発震機構解を用いたクーロン応力変化に基づく検討

*渡部 大地1前田 拓人1高野 智也1 (1.弘前大学大学院理工学研究科)


キーワード:2011年東北地方太平洋沖地震、クーロン応力変化

2011年東北地方太平洋沖地震(以下,東北沖地震)は,広範囲に地殻変動をもたらす巨大地震であった。東北沖地震後には,日本列島全域で地震数が増加した。これらの地震の多くは,東北沖地震による応力変化によって誘発された地震であると考えられている。このような地震の誘発現象は,これまで特に地震活動が活発になった地域を対象にして,クーロン応力変化(ΔCFF)を用いて検討されてきた。ΔCFFとは,対象とする地震の断層面(以下,レシーバー断層)上にかかる本震の断層運動による応力変化を計算する手法である。本研究では本州東部地域を対象として,東北沖地震によるΔCFFを統計的に検討した。
 ΔCFFを用いて地震の誘発現象を議論する上で,レシーバー断層として用いる地震の発震機構解は極めて重要である。しかし,これまで発震機構解が安定して推定されてきたのは中大規模地震に限られる。そのため,微小地震しか発生していない地域では,ΔCFFに基づく地震誘発の検討が困難であった。近年,ニューラルネットワークモデルを用いて,P波の初動極性を検測することで,日本国内で発生した小規模地震の発震機構解が推定された(Uchide, 2020)。そこで,これらの小規模地震の発震機構解と気象庁の初動発震機構解をレシーバー断層として利用する。
 本研究では,東北沖地震後の期間に発生した地震のレシーバー断層におけるΔCFFを調査した。ここで,2011年3月11日から2012年3月11日の期間を「東北沖地震後」と定めた。しかしながら,東北沖地震後のレシーバー断層は,例えば福島-茨城県境地域のように局所的に集中して分布していることが知られている。そのため,本州東部地域を網羅するように広域的にΔCFFを検討することができない。また,東北沖地震後のΔCFFの値だけでは,東北沖地震前後でΔCFFがどのように変化したのか推定することができない。そこで,1997年から2011年3月11日の期間を「東北沖地震前」として,東北沖地震前の期間に発生した地震におけるΔCFFも調査した。東北沖地震後の期間のレシーバー断層数に占めるΔCFFが正となったレシーバー断層数の割合が約72%,東北沖地震前では約48%となり,東北沖地震後にΔCFFが正になる地震が増加するという結果が得られた。
 また,ΔCFFの地域的な特徴を調べるために,本州東部地域を緯度経度0.4°のグリッドに区切り,それぞれのグリッド内に存在するレシーバー断層のΔCFFを平均した。東北地方中部では,東北沖地震前と後の両方の期間でΔCFFが負になった。また,東北沖地震後の期間では,東北地方中部を除く地震活動が増加した地域でΔCFFが正になることがわかった。
 さらに,東北沖地震後と東北沖地震前で同じ位置のグリッド同士でΔCFFの差をとり,東北沖地震前後でのΔCFF値の変化の検討を行なった。その結果,秋田県全域や福島県南部,北関東など広い地域で,ΔCFFの値が東北沖地震後に増加したことがわかった。また,ΔCFFでは負になる東北地方中部地域でも,ΔCFFの値がより正に近づくような変化が見られた。本研究では,広範囲でのΔCFFについて検討したが,地震活動の特徴は狭い地域毎に異なると考えられる。そのため,地域的なΔCFFについて検討していくことが必要である。今後,小規模地震の発震機構解を使用することで,これまでΔCFFを用いた検討が困難とされていた地域においても,より詳しく検討することができると期待される。