11:00 〜 13:00
[SSS08-P03] 宮崎平野及びその周辺におけるS波偏向異方性の推定
キーワード:スラブ起源水、S波スプリッティング解析、S波偏向異方性
1. はじめに
宮崎平野を含む九州地方の前弧域はフィリピン海プレートの沈み込み帯に位置しており(例えば、Shiono et al., 1980;Hata et al., 2020)、レシーバ関数や地震波速度構造などから、マントル・ウェッジにおけるスラブ起源流体の存在が示唆される(例えば、Abe et al., 2013)。また宮崎平野における一部の塩水起源地下水には、スラブからの脱水に起因して地下深部から上昇する水の関与が報告されている(風早ほか, 2015)。このような水の流入経路と、地下のクラックや媒質異方性との関連付けを行うことを目標に、宮崎平野及びその周辺を対象としたS波スプリッティング解析を行った。
2. S波スプリッティング解析
S波スプリッティング解析では、宮崎県内の計18個の観測点を解析の対象とした。これらは防災科学技術研究所(NIED)の高感度地震観測網(Hi-net)、気象庁(JMA)及び鹿児島大学により運用される観測点である。2004年4月から2018年8月の期間に20 km以浅の深度で発生した、マグニチュードが1.0以上の地震を解析に用いた。また、実際の解析の際には、鉛直下向きから測った時に観測点への波線が入射角35°以内となるような震源と観測点との組み合わせのみを選択した。これらのデータにSilver and Chan(1991)による手法を適用し、各観測点における速いS波の振動方向(φ)と、分離した2つのS波の到達時間差(dt)の分布を推定した。なおdtに関しては、震源距離により規格化した値(震源距離規格化dt)も算出した。
3. 結果
解析により推定されたS波偏向異方性について、以下の特徴が認められた。
(1) 宮崎県におけるφは概ね北北東-南南西~北東-南西方向であり、九州地方に卓越する水平圧縮応力軸方向(北北東—南南西~東北東—西南西方向(Matsumoto et al., 2015))と調和的な傾向を示す。一方で、宮崎平野においては、水平圧縮応力軸方向とおよそ直交する北西-南東方向のφが卓越する観測点が複数認められた。
(2) 宮崎平野南部や、Asamori and Zhao(2015)の地震波トモグラフィ―により推定されたS波低速度体の直上の地域において、周辺に比べて大きい値の震源距離規格化dt が少数認められた。
(3) 今後、宮崎平野においてS波偏向異方性に影響を与えうる地層境界や断層の走向等の検討も含めて、引き続きS波スプリッティング解析を行う予定である。
謝辞:本報告は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和3年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)(JPJ007597)」の成果の一部である。S波スプリッティング解析には、気象庁(JMA)が公開する一元化震源カタログを使用した。また、同解析対象として、JMA、防災科学技術研究所(NIED)の高感度地震観測網(Hi-net)及び鹿児島大学の観測点で収録された連続波形データを用いた。
引用文献:
Abe et al. (2013): Along‐arc variation in water distribution in the uppermost mantle beneath Kyushu, Japan, as derived from receiver function analyses, Journal of Geophysical Research: Solid Earth, vol.118, no.7, 3540-3556, doi:10.1002/jgrb.50257.
Asamori and Zhao (2015): Teleseismic shear wave tomography of the Japan subduction zone, Geophysical Journal International, vol.203, no.3, pp.1752-1772.
Hata et al. (2020): Three-dimensional electrical resistivity structure beneath a volcanically and seismically active island, Kyushu, Southwest Japan Arc, Journal of Geophysical Research: Solid Earth, vol.125, e2019JB017485, doi:10.1029/2019JB017485.
風早ほか(2015):日本列島におけるスラブ起源水の上昇地域の分布図, 地質調査総合センター研究資料集, no.616, 産業技術総合研究所地質調査総合センター.
Matsumoto et al. (2015): Spatial heterogeneities in tectonic stress in Kyushu, Japan and their relation to a major shear zone, Earth, Planets and Space, vol.67, 172, doi: 10.1186/s40623-015-0342-8.
Shiono et al. (1980): Tectonics of the Kyushu-Ryukyu arc as evidenced from seismicity and focal mechanism of shallow to intermediate-depth earthquakes, Journal of Physics of the Earth, vol.28, no.1, 17-43.
Silver and Chan (1991): Shear wave splitting and subcontinental mantle deformation, Journal of Geophysical Research, vol.96, no.B10, pp.16,429-16,454.
宮崎平野を含む九州地方の前弧域はフィリピン海プレートの沈み込み帯に位置しており(例えば、Shiono et al., 1980;Hata et al., 2020)、レシーバ関数や地震波速度構造などから、マントル・ウェッジにおけるスラブ起源流体の存在が示唆される(例えば、Abe et al., 2013)。また宮崎平野における一部の塩水起源地下水には、スラブからの脱水に起因して地下深部から上昇する水の関与が報告されている(風早ほか, 2015)。このような水の流入経路と、地下のクラックや媒質異方性との関連付けを行うことを目標に、宮崎平野及びその周辺を対象としたS波スプリッティング解析を行った。
2. S波スプリッティング解析
S波スプリッティング解析では、宮崎県内の計18個の観測点を解析の対象とした。これらは防災科学技術研究所(NIED)の高感度地震観測網(Hi-net)、気象庁(JMA)及び鹿児島大学により運用される観測点である。2004年4月から2018年8月の期間に20 km以浅の深度で発生した、マグニチュードが1.0以上の地震を解析に用いた。また、実際の解析の際には、鉛直下向きから測った時に観測点への波線が入射角35°以内となるような震源と観測点との組み合わせのみを選択した。これらのデータにSilver and Chan(1991)による手法を適用し、各観測点における速いS波の振動方向(φ)と、分離した2つのS波の到達時間差(dt)の分布を推定した。なおdtに関しては、震源距離により規格化した値(震源距離規格化dt)も算出した。
3. 結果
解析により推定されたS波偏向異方性について、以下の特徴が認められた。
(1) 宮崎県におけるφは概ね北北東-南南西~北東-南西方向であり、九州地方に卓越する水平圧縮応力軸方向(北北東—南南西~東北東—西南西方向(Matsumoto et al., 2015))と調和的な傾向を示す。一方で、宮崎平野においては、水平圧縮応力軸方向とおよそ直交する北西-南東方向のφが卓越する観測点が複数認められた。
(2) 宮崎平野南部や、Asamori and Zhao(2015)の地震波トモグラフィ―により推定されたS波低速度体の直上の地域において、周辺に比べて大きい値の震源距離規格化dt が少数認められた。
(3) 今後、宮崎平野においてS波偏向異方性に影響を与えうる地層境界や断層の走向等の検討も含めて、引き続きS波スプリッティング解析を行う予定である。
謝辞:本報告は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和3年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)(JPJ007597)」の成果の一部である。S波スプリッティング解析には、気象庁(JMA)が公開する一元化震源カタログを使用した。また、同解析対象として、JMA、防災科学技術研究所(NIED)の高感度地震観測網(Hi-net)及び鹿児島大学の観測点で収録された連続波形データを用いた。
引用文献:
Abe et al. (2013): Along‐arc variation in water distribution in the uppermost mantle beneath Kyushu, Japan, as derived from receiver function analyses, Journal of Geophysical Research: Solid Earth, vol.118, no.7, 3540-3556, doi:10.1002/jgrb.50257.
Asamori and Zhao (2015): Teleseismic shear wave tomography of the Japan subduction zone, Geophysical Journal International, vol.203, no.3, pp.1752-1772.
Hata et al. (2020): Three-dimensional electrical resistivity structure beneath a volcanically and seismically active island, Kyushu, Southwest Japan Arc, Journal of Geophysical Research: Solid Earth, vol.125, e2019JB017485, doi:10.1029/2019JB017485.
風早ほか(2015):日本列島におけるスラブ起源水の上昇地域の分布図, 地質調査総合センター研究資料集, no.616, 産業技術総合研究所地質調査総合センター.
Matsumoto et al. (2015): Spatial heterogeneities in tectonic stress in Kyushu, Japan and their relation to a major shear zone, Earth, Planets and Space, vol.67, 172, doi: 10.1186/s40623-015-0342-8.
Shiono et al. (1980): Tectonics of the Kyushu-Ryukyu arc as evidenced from seismicity and focal mechanism of shallow to intermediate-depth earthquakes, Journal of Physics of the Earth, vol.28, no.1, 17-43.
Silver and Chan (1991): Shear wave splitting and subcontinental mantle deformation, Journal of Geophysical Research, vol.96, no.B10, pp.16,429-16,454.