日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS10] 強震動・地震災害

2022年5月24日(火) 10:45 〜 12:15 103 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:松元 康広(株式会社構造計画研究所)、コンビーナ:鈴木 亘(国立研究開発法人防災科学技術研究所)、座長:後藤 浩之(京都大学)、金子 善宏(Kyoto University)

11:30 〜 11:45

[SSS10-04] 階層パッチ構造を持つ震源モデルにより生成される地表断層地震の特性

*後藤 浩之1 (1.京都大学)

キーワード:階層パッチ震源モデル、動力学震源モデル、スケーリング則、地表断層地震

地震動評価においては基本的に規模に応じた地震動レベルが設定されるが,地表地震断層を伴う地震(地表断層地震,surface fault earthquake)と伴わない地震(潜在断層地震,buried fault earthquake)とで観測される地震動の周波数特性に違いがあることが指摘されている(Somerville, 2003).力学的な立場からこの現象を説明する試みがなされ,地表付近の応力降下量や断層周囲の境界条件によって自然に説明できることが示された(Pitarka et al., 2009; Wada and Goto, 2012).また,海溝型地震において周波数特性が深さに依存する現象も,同様に地表の存在という力学的条件により説明することができる(Yin and Denolle, 2021).このように,地表地震断層の特徴を論ずるとき,地表の存在という力学的条件により自然に説明するという考え方は重要である.このような中,2016年熊本地震の本震において断層近傍の観測点(西原村)で長周期パルス性地震動が観測されたことから,我が国においても地表地震断層の特徴は工学的に注目されるものとなり,現在も力学的な議論が勢力的に進められている.

本研究はまず,地表等の影響が少ない理想的な地震(Ideal Quake)を仮想的に生成する.そしてこのIdeal Quakeに地表等の力学的条件を加えた地震を生成することで,両者の特徴を比較しながら地表断層地震の特徴について論じる.本研究におけるIdeal Quakeには,階層パッチ構造を持つ震源モデル(Ide and Aochi, 2005; Ide 2014)を採用する.このモデルは,地震の破壊エネルギーが階層構造を持つことを仮定したもので,臨界すべり(Dc)の異なる円形パッチが階層構造を持ちながら断層上にランダムに配置されたものである.地震に関するスケーリング(GR則,M-τ関係)が再現されること(Ide and Aochi, 2005)が知られており,自然な拡張としてスロー地震の特徴も説明できる.本研究でさらに確認したところ,オメガスクエアに近い震源スペクトルが生成できることから,Ideal Quakeとしての要件を備えていると判断した.

鉛直横ずれ断層を対象とし,Ideal Quakeに地表の影響を含めた解析を行う.応力降下量を断層上で一定とした場合や地表に加えて浅部で応力降下量を低減させた場合について検討したところ,Ideal Quakeとは異なる震源過程を示すものが見られるようになり,地表の影響により破壊が停止しにくいケースが増加する傾向にあった.ただし,震源時間関数のライズタイムが有意に長いという傾向は見られない.断層全体で最大すべりを生じた地中の点と地表での最大すべりの点においてすべり速度関数を比較すると,地中では破壊直後に最大すべり速度を示し徐々にすべり速度が低下するKostrov型に近い形状を示す一方,地表のすべり速度関数は三角形状の対称な形状を示す.そして,形状に対応してその周波数特性も異なることが示された.これは,熊本地震本震における浅部と深部のすべり速度関数の形状の違いと調和的である.