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[SSS10-06] 成層構造における直達S波の透過率を考慮した地震動距離減衰特性の検討:福島県浜通・茨城県北部の内陸地震群への適用
キーワード:震源近傍地震動、直達S波、透過率、距離減衰特性
■1 はじめに
内陸地震の震源近傍地震動の予測は工学的に重要な課題の一つである.震源近傍では震源からの直達S波が最大の入射成分となる可能性が高い.そのため,予測に際してはその特徴を的確に反映させることが求められる.本研究では,透過率を考慮した直達S波(DS)と地殻内を2次元的に伝播する間接的なS波群(IS)のベクトル和によって震源近傍から遠方に至る距離減衰特性のモデル化を試みている.今回は東北地方太平洋側(福島県浜通,茨城県北部)の内陸地震に適用した結果を報告する.
■2 モデルと解析法[池浦(2021)]
震源距離rにおける周波数fの基盤地震動振幅BRM(f) [池浦(2020)]を直達S波の振幅DS(f)と間接的なS波群の振幅IS(f)のベクトル和で表す. BRM(f) = {DS2(f)+ IS2(f)} 0.5 …(1式). また,DS(f)とIS(f)はそれぞれ次のように表す. DS(f) = SDS(f)×r −1 CTR(h, Δ) exp[−bDS(f) r] …(2式), IS(f) = SIS(f)×r −0.5 exp[−bIS(f)r] …(3式). ただし,SDS(f)とSIS(f)は直達S波,間接的なS波群の地震項であり,両者の間に一定の倍率:CIS(f) = SDS(f) / SIS(f)を考える.また,CTR(h, Δ)はJMA2001[上野他(2002)]を仮定した場合の直達S波の透過率[池浦(2021)],bDS(f)とbIS(f)はそれぞれ直達S波と間接的なS波群のQ値効果による距離減衰係数である.
このモデルを観測データに当てはめる場合,未知数は地震毎のSDS(f)と全地震共通のCIS(f),bDS(f),bIS(f)であるが,振幅を対数化しても線形問題にはならない.そのため,非線形最適化手法を適用してこれらのパラメータを求める.
■3 データ
今回はTable 1の5地震を分析した.検討では火山地帯に大きく踏み込まないようにr≦90kmの地点を扱った.また,#3と#5の地震については破壊開始点と主破壊領域がやや離れているため,ここでは引間(2012, 2017)のモデルで最大すべりグリッドの位置を震源位置として扱った.
■4 結果
図1は2016/12/28茨城県北部の地震(M6.3)による4Hz帯域のBRM(〇)に当てはめた場合の距離減衰曲線である.図で赤線と青線がそれぞれDSとISであり,緑線が両者の和を表している.この地震の場合,DSはr = 25km程度で消失する.
図2ではこの距離減衰曲線を従来法: lnA(f) = ln S(f) − ln r − b(f) r …(4式) による距離減衰曲線(LSQ)と比較した.ただし,従来法では同帯域でb(f)<0となったため,非負拘束条件を課している.しかし,それでも震源近傍では直達S波の透過率を考慮した曲線には届いていない.
図3は(2式)のbDS(f),(3式)のbIS(f)および(4式)のb(f)から求めたQ値である.DSのQ値は不安定であるが,ISのQ値は安定的でありQIS(f) = 150f1であった.一方,従来法のQ値はfc = 0.4, 4, 7, 13 Hzで非負拘束にかかっている.
図4では,2016/12/28茨城県北部の地震と2013年04/13淡路島の地震[池浦(2021)]について,それぞれ,DSとISの地震項から求められた震源スペクトルSDS(f), SDS(f)を,波形インバージョン[JMA(2022)]による震源スペクトルを近似したω二乗モデル(ω2MODEL)と比較している.これによると,いずれの地震でもDSとISの震源スペクトルが波形インバージョンによる震源スペクトルに対してそれぞれ1.5~5倍,0.1~0.5倍前後である.
■5 まとめ
成層構造における直達S波の透過率を考慮した距離減衰モデルを福島県浜通・茨城県北部の大地震に適用し,直達S波のQ値評価について不安定さの課題を残すものの,従来法に比べて震源近傍の予測精度が向上することを確認した.また,直達S波,間接的なS波群の震源スペクトルと波形インバージョンで推定される震源スペクトルとの対応関係を把握した.今後も他の地域で同様な検討を行い,有効性の検討を行う.
■参考文献
引間(2012)地震2, 引間(2017)JpGU, JMA(2020参照) 国内で発生した顕著な地震の震源過程解析結果,池浦(2020)日本地震工学論文集, 池浦(2021)地震学会秋季大会, 上野他(2002)験震時報
内陸地震の震源近傍地震動の予測は工学的に重要な課題の一つである.震源近傍では震源からの直達S波が最大の入射成分となる可能性が高い.そのため,予測に際してはその特徴を的確に反映させることが求められる.本研究では,透過率を考慮した直達S波(DS)と地殻内を2次元的に伝播する間接的なS波群(IS)のベクトル和によって震源近傍から遠方に至る距離減衰特性のモデル化を試みている.今回は東北地方太平洋側(福島県浜通,茨城県北部)の内陸地震に適用した結果を報告する.
■2 モデルと解析法[池浦(2021)]
震源距離rにおける周波数fの基盤地震動振幅BRM(f) [池浦(2020)]を直達S波の振幅DS(f)と間接的なS波群の振幅IS(f)のベクトル和で表す. BRM(f) = {DS2(f)+ IS2(f)} 0.5 …(1式). また,DS(f)とIS(f)はそれぞれ次のように表す. DS(f) = SDS(f)×r −1 CTR(h, Δ) exp[−bDS(f) r] …(2式), IS(f) = SIS(f)×r −0.5 exp[−bIS(f)r] …(3式). ただし,SDS(f)とSIS(f)は直達S波,間接的なS波群の地震項であり,両者の間に一定の倍率:CIS(f) = SDS(f) / SIS(f)を考える.また,CTR(h, Δ)はJMA2001[上野他(2002)]を仮定した場合の直達S波の透過率[池浦(2021)],bDS(f)とbIS(f)はそれぞれ直達S波と間接的なS波群のQ値効果による距離減衰係数である.
このモデルを観測データに当てはめる場合,未知数は地震毎のSDS(f)と全地震共通のCIS(f),bDS(f),bIS(f)であるが,振幅を対数化しても線形問題にはならない.そのため,非線形最適化手法を適用してこれらのパラメータを求める.
■3 データ
今回はTable 1の5地震を分析した.検討では火山地帯に大きく踏み込まないようにr≦90kmの地点を扱った.また,#3と#5の地震については破壊開始点と主破壊領域がやや離れているため,ここでは引間(2012, 2017)のモデルで最大すべりグリッドの位置を震源位置として扱った.
■4 結果
図1は2016/12/28茨城県北部の地震(M6.3)による4Hz帯域のBRM(〇)に当てはめた場合の距離減衰曲線である.図で赤線と青線がそれぞれDSとISであり,緑線が両者の和を表している.この地震の場合,DSはr = 25km程度で消失する.
図2ではこの距離減衰曲線を従来法: lnA(f) = ln S(f) − ln r − b(f) r …(4式) による距離減衰曲線(LSQ)と比較した.ただし,従来法では同帯域でb(f)<0となったため,非負拘束条件を課している.しかし,それでも震源近傍では直達S波の透過率を考慮した曲線には届いていない.
図3は(2式)のbDS(f),(3式)のbIS(f)および(4式)のb(f)から求めたQ値である.DSのQ値は不安定であるが,ISのQ値は安定的でありQIS(f) = 150f1であった.一方,従来法のQ値はfc = 0.4, 4, 7, 13 Hzで非負拘束にかかっている.
図4では,2016/12/28茨城県北部の地震と2013年04/13淡路島の地震[池浦(2021)]について,それぞれ,DSとISの地震項から求められた震源スペクトルSDS(f), SDS(f)を,波形インバージョン[JMA(2022)]による震源スペクトルを近似したω二乗モデル(ω2MODEL)と比較している.これによると,いずれの地震でもDSとISの震源スペクトルが波形インバージョンによる震源スペクトルに対してそれぞれ1.5~5倍,0.1~0.5倍前後である.
■5 まとめ
成層構造における直達S波の透過率を考慮した距離減衰モデルを福島県浜通・茨城県北部の大地震に適用し,直達S波のQ値評価について不安定さの課題を残すものの,従来法に比べて震源近傍の予測精度が向上することを確認した.また,直達S波,間接的なS波群の震源スペクトルと波形インバージョンで推定される震源スペクトルとの対応関係を把握した.今後も他の地域で同様な検討を行い,有効性の検討を行う.
■参考文献
引間(2012)地震2, 引間(2017)JpGU, JMA(2020参照) 国内で発生した顕著な地震の震源過程解析結果,池浦(2020)日本地震工学論文集, 池浦(2021)地震学会秋季大会, 上野他(2002)験震時報