14:00 〜 14:15
[SSS10-08] 微動アレイ探査における空間自己相関法の利用: ロバストな使い方,解析可能波長帯域
キーワード:微動、空間自己相関、アレイ
空間自己相関法(spatial autocorrelation method, SPAC法)の有効性の評価に関する近年の著者の研究(Cho et al., 2021)に基づいて標記テーマを論じる.本要旨はCho (2022), 長(2022)の議論の一部をまとめたものである.詳細は同報告および上記文献を参照されたい.
(標準的なSPAC法)
本研究では標準的なSPAC法を次のように定義する.
i) 三角アレイ(Fig. 1の(a)または(b))を用いる.
ii) 以下の基礎式を用いる.
ρ(f)=J0(rk(f))
ρはSPAC係数,fは周波数,J0は第1種0次ベッセル関数,rはアレイ半径,kは波数である.
iii) アレイ観測からρを推定した後,各周波数においてrk<3の範囲で上式によりrkを逆解析し,関係式c=2πrf/rkを用いて位相速度cに変換する.
既存のガイドラインによれば標準的なSPAC法で扱える最大波長は約10r(佐藤・岡田, 2016)あるいは4r〜6r(Foti et al., 2017)である.
(ロバストなSPAC法)
SPAC係数が初めてゼロを横切る時(波長2.6r)の周波数f1を同定し,対応する位相速度c1を,式c1=2πrf1/2.40を用いて計算する方法である.これはAki(1957)のSPAC法提案時の位相速度同定法(ゼロクロス法)で最初のゼロ点だけ用いることに相当する.あまり意識されていないが,このアプローチはインコヒーレントノイズおよび波動場の偏りの両方に対して非常にロバストである.これは,SN比が低く SPAC係数の絶対値が過小評価される場合であってもゼロ点に対応する周波数は影響を受けないこと,およに,三角アレイを使う限り最初のゼロ点の周波数は波動場の影響を受けないことによる. ロバストなSPAC法(ゼロクロス法)の適用例をFig. 2に示す.
(解析可能最大波長)
様々なサイズのアレイを展開して各アレイにロバストなSPAC法を適用して得られた位相速度を繋げてできる分散曲線を「参照分散曲線」と定義する.アレイごとに標準的なSPAC法を適用し,得られた分散曲線が参照分散曲線と乖離する波長を最大波長と定義する.最大波長をアレイ半径で正規化した量を「正規化最大波長(normalized upper limit wavelength, NULW)」と呼ぶこととする(例えば,最大波長が10rの場合NULWは10).多数の観測地点で様々なサイズのアレイについてNULWを評価し,最後にそれらをアレイサイズで分類してNULWの統計をとる.
その結果,半径1 m前後の極小アレイではNULWは数十に達するが,アレイ半径が大きくなって半径数十mに達するまでに急減すること,また,それ以上のアレイサイズではNULWの急減はなくなりNULWは3〜5の範囲に留まること等が統計的に明らかになった(Fig. 3).すなわち,アレイ半径が小さい時,NULWはアレイ半径に依存する.佐藤・岡田(2016)およびFoti et al. (2017)のガイドラインはそれぞれ半径10 m前後および数十m以上のアレイに対応すると理解できる.
(議論)
NULWのアレイサイズ依存性を考慮すると,深さ数十mまでの浅部探査は極小アレイ(半径1m内外)と小アレイ(半径10 m程度)の組み合わせで事足りる可能性がある.ただし,極小アレイのNULWにはFig. 3の通り大きなばらつきがあり,期待通りの効果が得られない場合もある.これは観測計画を立てる上での懸案事項となる.
そこで,Radius ID Aで最大探査深度がごく浅くなってしまうのはどのような場合かを確認したところ,観測効率が優れないケースの多くは硬質地盤(Vsがごく速い地盤あるいは表層の軟弱部分がごく薄い地盤)の場合であることが分かった.したがって,極小アレイの適用に際しては,観測の計画段階でターゲットサイトの地質概要を確認の上採否を判断するのが適切と考えられる.
極小アレイに標準的なSPAC法を適用できるという事実は必ずしも広く認知されていない.そこで長(2022)は標準的なSPAC法を極小アレイに適用できる理由を分析し,硬質地盤で観測効率が悪化する理由と併せて議論しているので,興味があれば参考にされたい.
SN比が非常に悪いサイト(e.g., 硬質地盤)の場合,また,観測効率を度外視してでも確実なデータが必要となる場合は,ターゲットとする波長の1/3の半径のアレイ(探査深度と同程度のサイズのアレイ)を展開して得られたデータにロバストなSPAC法を適用することを勧める.ロバストなSPAC法では1つのアレイにつき1つのデータ点しか得られないが,様々なサイズのアレイを展開すれば広い周波数帯域で分散曲線が得られる(例えば,Fig. 2の太線).
謝辞:本研究はJSPS科研費JP19H02287,20K04118の助成を受けたものです.
Aki, K. (1957): Space and time spectra of stationary stochastic waves, with special reference to microtremors, Bull. Earthq. Res. Inst., Univ. Tokyo, 35, 415–457.
Cho, I. (2022): Array-size dependency of the upper limit wavelength normalized by array radius for the standard spatial autocorrelation method, submitted to Earth, Planets and Space.
長郁夫(2022): 微動アレイ探査における空間自己相関法の有効利用:ロバスト性,解析可能波長帯域,極小アレイの適用に関する新知見,月刊地球, 44(印刷中).
Cho et al. (2021): Basic performance of a spatial autocorrelation method for determining phase velocities of Rayleigh waves from microtremors, with special reference to the zero-crossing method for quick surveys with mobile seismic arrays. Geophys. J. Int., 226, 1676–1694.
Foti et al. (2017): Guidelines for the good practice of surface wave analysis: A product of the InterPACIFIC project. Bull. Earthq. Engineer., 16, 2367-2420.
佐藤浩章・岡田廣(2016): 微動利用の地下構造推定法,物理探査学会編,物理探査ハンドブック増補改訂版,第4章,229–248.
(標準的なSPAC法)
本研究では標準的なSPAC法を次のように定義する.
i) 三角アレイ(Fig. 1の(a)または(b))を用いる.
ii) 以下の基礎式を用いる.
ρ(f)=J0(rk(f))
ρはSPAC係数,fは周波数,J0は第1種0次ベッセル関数,rはアレイ半径,kは波数である.
iii) アレイ観測からρを推定した後,各周波数においてrk<3の範囲で上式によりrkを逆解析し,関係式c=2πrf/rkを用いて位相速度cに変換する.
既存のガイドラインによれば標準的なSPAC法で扱える最大波長は約10r(佐藤・岡田, 2016)あるいは4r〜6r(Foti et al., 2017)である.
(ロバストなSPAC法)
SPAC係数が初めてゼロを横切る時(波長2.6r)の周波数f1を同定し,対応する位相速度c1を,式c1=2πrf1/2.40を用いて計算する方法である.これはAki(1957)のSPAC法提案時の位相速度同定法(ゼロクロス法)で最初のゼロ点だけ用いることに相当する.あまり意識されていないが,このアプローチはインコヒーレントノイズおよび波動場の偏りの両方に対して非常にロバストである.これは,SN比が低く SPAC係数の絶対値が過小評価される場合であってもゼロ点に対応する周波数は影響を受けないこと,およに,三角アレイを使う限り最初のゼロ点の周波数は波動場の影響を受けないことによる. ロバストなSPAC法(ゼロクロス法)の適用例をFig. 2に示す.
(解析可能最大波長)
様々なサイズのアレイを展開して各アレイにロバストなSPAC法を適用して得られた位相速度を繋げてできる分散曲線を「参照分散曲線」と定義する.アレイごとに標準的なSPAC法を適用し,得られた分散曲線が参照分散曲線と乖離する波長を最大波長と定義する.最大波長をアレイ半径で正規化した量を「正規化最大波長(normalized upper limit wavelength, NULW)」と呼ぶこととする(例えば,最大波長が10rの場合NULWは10).多数の観測地点で様々なサイズのアレイについてNULWを評価し,最後にそれらをアレイサイズで分類してNULWの統計をとる.
その結果,半径1 m前後の極小アレイではNULWは数十に達するが,アレイ半径が大きくなって半径数十mに達するまでに急減すること,また,それ以上のアレイサイズではNULWの急減はなくなりNULWは3〜5の範囲に留まること等が統計的に明らかになった(Fig. 3).すなわち,アレイ半径が小さい時,NULWはアレイ半径に依存する.佐藤・岡田(2016)およびFoti et al. (2017)のガイドラインはそれぞれ半径10 m前後および数十m以上のアレイに対応すると理解できる.
(議論)
NULWのアレイサイズ依存性を考慮すると,深さ数十mまでの浅部探査は極小アレイ(半径1m内外)と小アレイ(半径10 m程度)の組み合わせで事足りる可能性がある.ただし,極小アレイのNULWにはFig. 3の通り大きなばらつきがあり,期待通りの効果が得られない場合もある.これは観測計画を立てる上での懸案事項となる.
そこで,Radius ID Aで最大探査深度がごく浅くなってしまうのはどのような場合かを確認したところ,観測効率が優れないケースの多くは硬質地盤(Vsがごく速い地盤あるいは表層の軟弱部分がごく薄い地盤)の場合であることが分かった.したがって,極小アレイの適用に際しては,観測の計画段階でターゲットサイトの地質概要を確認の上採否を判断するのが適切と考えられる.
極小アレイに標準的なSPAC法を適用できるという事実は必ずしも広く認知されていない.そこで長(2022)は標準的なSPAC法を極小アレイに適用できる理由を分析し,硬質地盤で観測効率が悪化する理由と併せて議論しているので,興味があれば参考にされたい.
SN比が非常に悪いサイト(e.g., 硬質地盤)の場合,また,観測効率を度外視してでも確実なデータが必要となる場合は,ターゲットとする波長の1/3の半径のアレイ(探査深度と同程度のサイズのアレイ)を展開して得られたデータにロバストなSPAC法を適用することを勧める.ロバストなSPAC法では1つのアレイにつき1つのデータ点しか得られないが,様々なサイズのアレイを展開すれば広い周波数帯域で分散曲線が得られる(例えば,Fig. 2の太線).
謝辞:本研究はJSPS科研費JP19H02287,20K04118の助成を受けたものです.
Aki, K. (1957): Space and time spectra of stationary stochastic waves, with special reference to microtremors, Bull. Earthq. Res. Inst., Univ. Tokyo, 35, 415–457.
Cho, I. (2022): Array-size dependency of the upper limit wavelength normalized by array radius for the standard spatial autocorrelation method, submitted to Earth, Planets and Space.
長郁夫(2022): 微動アレイ探査における空間自己相関法の有効利用:ロバスト性,解析可能波長帯域,極小アレイの適用に関する新知見,月刊地球, 44(印刷中).
Cho et al. (2021): Basic performance of a spatial autocorrelation method for determining phase velocities of Rayleigh waves from microtremors, with special reference to the zero-crossing method for quick surveys with mobile seismic arrays. Geophys. J. Int., 226, 1676–1694.
Foti et al. (2017): Guidelines for the good practice of surface wave analysis: A product of the InterPACIFIC project. Bull. Earthq. Engineer., 16, 2367-2420.
佐藤浩章・岡田廣(2016): 微動利用の地下構造推定法,物理探査学会編,物理探査ハンドブック増補改訂版,第4章,229–248.