日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS10] 強震動・地震災害

2022年6月1日(水) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (22) (Ch.22)

コンビーナ:松元 康広(株式会社構造計画研究所)、コンビーナ:鈴木 亘(国立研究開発法人防災科学技術研究所)、座長:染井 一寛(一般財団法人地域地盤環境研究所)

11:00 〜 13:00

[SSS10-P02] 運動学的震源モデルから推定した断層面上の破壊伝播速度の不均質性

*染井 一寛1宮腰 研1Petukhin Anatoly1Galvez Percy2 (1.一般財団法人地域地盤環境研究所、2.AECOM, Los Angeles, California, U.S.)

キーワード:破壊伝播速度、運動学的震源モデル、震源時間関数

断層面上での破壊伝播速度は,地震の破壊過程を把握する不可欠なパラメタの1つである。観測記録に基づく震源過程解析では,仮定した基底関数(例えば,平滑化傾斜関数)を複数設定したマルチタイムウィンドウによって震源時間関数を表現した波形インバージョン解析(例えば,Hartzell and Heaton, 1983)が行われ,運動学的震源モデルが推定されている。この波形インバージョン解析では,破壊開始点から同心円に拡がる均質な破壊伝播を仮定し,その伝播速度は,観測波形を説明できるよう設定することが多い。この伝播速度は,破壊開始点から各サブ断層の中心に設定した点震源の第1タイムウィンドウまでの伝播速度であるが,推定した各サブ断層の震源時間関数は,必ずしも第1タイムウィンドウですべりが開始しているとは限らない(宮腰・他, 2004)。したがって,すべりの開始を規定した破壊時間を推定することができれば,より実際の破壊過程を表現した破壊伝播速度の不均質性を把握することができる。さらに,破壊伝播速度は,震源モデルから生成される地震動の評価,予測に対しても必要不可欠なパラメタである。現行の強震動予測レシピでは,特性化震源モデルの平均破壊伝播速度として,特にその震源域に詳しい情報が無い限り,Geller (1976) による震源域S波速度βに係数0.72を掛けた速度を設定している。レシピに基づいた地震動計算では,長周期成分の計算結果が破壊伝播速度の設定によって大きく変化することも確認されており(地震調査委員会強震動評価部会, 2008),特性化震源モデルにおける破壊伝播速度の設定方法を過去の地震から得られた知見に基づいて高度化することは,将来発生し得る地震に対して合理的な強震動予測を実施するための重要な取り組みとなる。そこで,本研究では,国内外の内陸地殻内地震の運動学的震源モデルを対象として,サブ断層毎の震源時間関数に基づいてすべり開始を規定し,その時間を考慮した破壊伝播速度を推定することで,破壊伝播速度の不均質性について議論を行う。
ここでは,宮腰・Petukhin (2004) の手順を参考にして,運動学的震源モデルからすべりの開始を規定したサブ断層毎の破壊伝播速度(以降,破壊伝播速度)を推定する。すべりの開始は,各サブ断層でのモーメント量が,断層全体の平均すべり量の0.3倍のすべり量と等しいモーメント量に達した時間,と規定し,このすべり開始の規定を用いてサブ断層の破壊伝播時間をそれぞれ計算する。さらに,サブ断層間の破壊伝播時間と点震源間の距離を用いて,走向方向と傾斜方向の中央差分からスローネスを計算し,そのベクトルから各サブ断層の破壊伝播速度を求めた。本研究で対象とした地震は,2013年栃木県北部の地震,2013年淡路島付近の地震,2016年茨城県北部の地震,2019年Ridgecrest地震(Mw6.5)の4つで,それぞれについて近地強震記録からマルチタイムウィンドウ波形インバージョンによって推定された運動学的震源モデルから破壊伝播速度を推定した。得られたサブ断層の破壊伝播速度について,各地震でSomerville et al. (1999)の基準で抽出されたアスペリティ領域とそれ以外の領域(背景領域)で算術平均と標準偏差をとったところ,アスペリティ領域では0.66β ± 0.06,背景領域では0.58β ± 0.07,となった。12の内陸地殻内地震について同様の検討を行った宮腰・Petukhin (2004)は,アスペリティ領域では0.73β ± 0.14,背景領域では0.69β ± 0.19,であるため,本研究で推定した破壊伝播速度はやや遅いものの,背景領域よりもアスペリティ領域の方が相対的に若干速い破壊伝播速度であることは同様の結果であった。動力学シミュレーションで得られた破壊伝播速度の不均質性との比較を行うとともに,発生環境による破壊伝播速度の地域性や断層タイプによる違い等を整理していく予定である。また,すべり開始の規定方法や複雑な震源時間関数の取扱いについては今後議論を行う必要がある。

謝辞:本研究は,原子力規制庁の令和3年度原子力施設等防災対策等委託費(内陸型地震の特性化震源モデルに係る検討)事業の一部として実施されました.