11:00 〜 13:00
[SSS10-P05] 2016年チリ沖Chiloéプレート間地震 (MW 7.6) の広帯域震源特性
キーワード:プレート間地震、ペルー・チリ海溝、震源スケーリング則、大すべり域、強震動生成域
2016年12月25日,チリ南部沖のChiloé島直下の南米/ナスカプレートの境界を震源とするMW 7.6のプレート間地震が発生した.この地震の震源域周辺では,チリ大学の観測網による強震動記録が得られている.本研究では,これらの記録を用いて広帯域震源モデルを構築し,この地震の震源特性を震源スケーリング則と比較しながら検討する.このような検討は,プレート間地震の地震動に対する予測手法の高度化に寄与すると考えられる.
本検討での震源モデルの構築は,周期約5秒を境に長周期側と短周期側に分けて行った.強震・遠地波形インバージョンに基づくこの地震の震源モデルがすでにいくか提案されている(例えば,気象庁,2017;Ruiz et al., 2017;Lange et al., 2018;USGS, 2018).長周期側の震源モデルとして,気象庁 (2017) の遠地波形インバージョンに基づく震源モデルをチューニングし,大すべり域および背景領域からなる特性化震源モデルを構築した.具体的には,まず,気象庁 (2017) のモデルからSomerville et al. (1999) の規範に従って断層面積を抽出した.そして,この断層面積を持つ断層面をプレート境界にほぼ沿うように配置し,観測記録のパルス状波形および振幅レベルに合うように,主として大すべり域の位置・面積・すべり量を試行錯誤的に調整した.理論波形の計算には,余震(2017年1月3日MW 5.4)波形記録をもとにLange (2008) の一次元速度構造モデルをチューニングしたものを使用した.一方,短周期側の震源モデルは正方形の強震動生成域 (SMGA) のみを仮定し,経験的グリーン関数法 (Irikura, 1986) を用いたフォワード計算により試行錯誤でパラメータ推定を行った.なお,経験的グリーン関数として使用する余震記録は,長周期側における速度構造モデルのチューニングと同じものである.
検討の結果,1個の大すべり域 (2500 km2) とそのほぼ内側に3個のSMGA (1368 km2) が同定された.大すべり域は破壊開始点の少し北東側に中心があり,深さ範囲が約25-40 kmである.M 8以上の地震では大すべり域とSMGAが空間的に分離しているが (e.g., Lay et al., 2012; Tilmann et al., 2016),MW 7.6である今回の地震ではそのような分離は確認できない.しかしながら,同程度規模の地震である1994年三陸はるか沖地震 (MW 7.7) では部分的分離の報告がある(宮原・笹谷,2004).今後,このようなM 7後半クラスの地震に対する解析事例を増やすなど,大すべり域とSMGAの位置関係について継続的な議論が望ましい.
断層面積および大すべり域面積は日本の代表的なスケーリング則であるMurotani et al. (2008) に比べて大きく,SMGAの面積も佐藤 (2010) のスケーリング則に比べて大きかった.これは,チリと日本のプレート間地震の震源特性に違いがあることを示唆している(郭・他,本大会).大すべり域およびSMGAはそれぞれ断層面積の21%, 12%を占めており,SMGAの面積は大すべり域の半分程度と小さい.すなわち,地震動の短周期成分まで良好に再現するには,大すべり域に比べて一回り小さいサイズのSMGAが必要である.このような大すべり域面積とSMGA面積の乖離はすでに議論されており(例えば,佐藤,2010;田島・他,2013),M 7以上クラスのプレート間地震に共通した震源特性である可能性が示唆されている.
推定されたSMGAの短周期レベルは8.3×1019 Nm/s2で,東北日本で起きた同程度規模の地震とほぼ変わらない一方,SMGAの応力降下量は東北日本 (30-40 MPa) に比べて小さく19 MPaであった.なお,2010年Maule地震 (MW 8.8) は約20 MPaと今回の地震とほぼ同じであるが (e.g., Frankel, 2017),同じチリでも,2015年Illapel地震 (MW 8.3) は東北日本と同程度の40 MPaであった(藤堂・他,2019).同じ地域のプレート間地震であるにもかかわらず応力降下量がばらつく要因について,今後分析することが重要である.
謝辞:本研究は,原子力規制庁の委託業務「令和3年度原子力施設等防災対策等委託費(海溝型地震の特性化震源モデルに係る検討)事業」による成果の一部である.
本検討での震源モデルの構築は,周期約5秒を境に長周期側と短周期側に分けて行った.強震・遠地波形インバージョンに基づくこの地震の震源モデルがすでにいくか提案されている(例えば,気象庁,2017;Ruiz et al., 2017;Lange et al., 2018;USGS, 2018).長周期側の震源モデルとして,気象庁 (2017) の遠地波形インバージョンに基づく震源モデルをチューニングし,大すべり域および背景領域からなる特性化震源モデルを構築した.具体的には,まず,気象庁 (2017) のモデルからSomerville et al. (1999) の規範に従って断層面積を抽出した.そして,この断層面積を持つ断層面をプレート境界にほぼ沿うように配置し,観測記録のパルス状波形および振幅レベルに合うように,主として大すべり域の位置・面積・すべり量を試行錯誤的に調整した.理論波形の計算には,余震(2017年1月3日MW 5.4)波形記録をもとにLange (2008) の一次元速度構造モデルをチューニングしたものを使用した.一方,短周期側の震源モデルは正方形の強震動生成域 (SMGA) のみを仮定し,経験的グリーン関数法 (Irikura, 1986) を用いたフォワード計算により試行錯誤でパラメータ推定を行った.なお,経験的グリーン関数として使用する余震記録は,長周期側における速度構造モデルのチューニングと同じものである.
検討の結果,1個の大すべり域 (2500 km2) とそのほぼ内側に3個のSMGA (1368 km2) が同定された.大すべり域は破壊開始点の少し北東側に中心があり,深さ範囲が約25-40 kmである.M 8以上の地震では大すべり域とSMGAが空間的に分離しているが (e.g., Lay et al., 2012; Tilmann et al., 2016),MW 7.6である今回の地震ではそのような分離は確認できない.しかしながら,同程度規模の地震である1994年三陸はるか沖地震 (MW 7.7) では部分的分離の報告がある(宮原・笹谷,2004).今後,このようなM 7後半クラスの地震に対する解析事例を増やすなど,大すべり域とSMGAの位置関係について継続的な議論が望ましい.
断層面積および大すべり域面積は日本の代表的なスケーリング則であるMurotani et al. (2008) に比べて大きく,SMGAの面積も佐藤 (2010) のスケーリング則に比べて大きかった.これは,チリと日本のプレート間地震の震源特性に違いがあることを示唆している(郭・他,本大会).大すべり域およびSMGAはそれぞれ断層面積の21%, 12%を占めており,SMGAの面積は大すべり域の半分程度と小さい.すなわち,地震動の短周期成分まで良好に再現するには,大すべり域に比べて一回り小さいサイズのSMGAが必要である.このような大すべり域面積とSMGA面積の乖離はすでに議論されており(例えば,佐藤,2010;田島・他,2013),M 7以上クラスのプレート間地震に共通した震源特性である可能性が示唆されている.
推定されたSMGAの短周期レベルは8.3×1019 Nm/s2で,東北日本で起きた同程度規模の地震とほぼ変わらない一方,SMGAの応力降下量は東北日本 (30-40 MPa) に比べて小さく19 MPaであった.なお,2010年Maule地震 (MW 8.8) は約20 MPaと今回の地震とほぼ同じであるが (e.g., Frankel, 2017),同じチリでも,2015年Illapel地震 (MW 8.3) は東北日本と同程度の40 MPaであった(藤堂・他,2019).同じ地域のプレート間地震であるにもかかわらず応力降下量がばらつく要因について,今後分析することが重要である.
謝辞:本研究は,原子力規制庁の委託業務「令和3年度原子力施設等防災対策等委託費(海溝型地震の特性化震源モデルに係る検討)事業」による成果の一部である.