日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS10] 強震動・地震災害

2022年6月1日(水) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (22) (Ch.22)

コンビーナ:松元 康広(株式会社構造計画研究所)、コンビーナ:鈴木 亘(国立研究開発法人防災科学技術研究所)、座長:染井 一寛(一般財団法人地域地盤環境研究所)

11:00 〜 13:00

[SSS10-P09] 山梨地方における強震動評価のための浅部・深部統合地盤構造モデルの構築

*先名 重樹1佐藤 将2、稲垣 賢亮2松山 尚典2藤原 広行1 (1.防災科学技術研究所、2.応用地質)

キーワード:地盤モデル、強震動、常時微動、S波速度構造、重力

1.はじめに
 防災科学技術研究所では,地震調査研究推進本部の「全国地震動予測地図」作成の一環として,「地下構造モデル作成の考え方」に基づき強震動評価を行うための浅部・深部統合地盤構造モデルを作成してきた.これまでに,関東・東海・熊本地方において実施された大量の微動観測データ(約26,000箇所の小アレイ,約750箇所の大アレイによるS波速度構造を用いて作成してきており,その後,継続して関東・東海の周辺地域(山梨県・長野県・福島県等)で探査を実施している.これらのデータを用いることで,従来の地盤モデル構築手法を大幅に改善し,強震動予測に用いる地震基盤から地表までの広域および広帯域に対応できる地盤モデルの構築が可能になった(Senna et al.,(2019), 地震本部 2017, 2021).この方法で作成された関東地方の地盤モデルが昨年地震本部やJ-SHISより公開されている.本研究では,山梨地方全域における微動観測データ,地震観測データ等を用いた地盤モデルの構築について報告する.

2. 深部地盤モデルの構築
 山梨県全域において防災科研で実施した,最大半径400 mの微動アレイ観測(23箇所)の解析を行い,微動観測地点毎の位相速度,H/Vスペクトルの推定を行った.また,地震記録を収集し,収集した地震記録を用いて地震観測点ごとのR/Vスペクトルを求めた.さらに,主に浅部地盤構造モデルや工学的基盤上面を確認するために小アレイ探査を741箇所で実施し,位相速度・S波速度構造の解析を行った.使用した微動アレイおよび地震観測点を図1に示す.得られた位相速度,H/Vスペクトル,R/Vスペクトルを基に逆解析(鈴木・山中, 2010)を行い,地点毎のS波速度構造を推定し,現在J-SHISで公開されている深部地盤構造モデル(J-SHIS_V2)の修正を行った.修正後の深部地盤モデルは修正前のモデルと比較して,工学的基盤からVs 900 m/s層までは,甲府盆地の全域で修正後は深くなっている.また,Vs 1,200 m/s層より深部では,盆地の北西側で修正後のほうが浅くなり,東側では深くなる傾向となった.富士山麓北部地域の火山山麓地はVs2000の深さが500~1000m程度と深くなる傾向にあり,山梨県南部の身延地域では,深さが500m程度(J-SHIS_V2では2000m程度)と非常に浅くなる結果となった.

3. 浅部地盤モデルの構築
 山梨地方の低地,台地については,ボーリングデータ(値・土質区分)に基づき,あてはめ形式のメッシュモデルによるS波速度構造を作成した. また,山地・火山地・丘陵については,既に作成済の関東・東海地方の山地の設定方法をふまえ,地質分布を基に風化部を考慮したS波速度構造を設定し,関東・東海地方の地盤モデルと接合した.山地の区分部においては,県内の大部分が関東地域と同様の設定となっている.一方で県南部は東海地域と同様の区分設定となっている.

4. 浅部・深部統合地盤モデルの構築
 構築した浅部地盤モデル,深部地盤モデルを結合し,初期浅部・深部統合地盤モデルを作成した.浅部地盤モデル(メッシュモデル)で,N値と土質区分による換算で求めたS波速度構造を,主に小アレイ探査の波長6.6, 13 , 20, 25, 35, 40m(AVS5,10,15,20,25,30相当)の位相速度(長尾・紺野, 2002)を用いて修正し,関東地方で公開されている地盤モデル相当の浅部・深部統合地盤モデルを作成した. 作成されたモデルの理論位相速度と小アレイの観測位相速度は概ね調和的な結果になっている.

5. まとめと今後の予定
 本研究においては,山梨地方全域の微動観測および地震観測データを用いた逆解析によるS波速度構造の推定と地盤モデルの修正を行った.今後は,関東および東海地方の地盤モデルと接続した上で,3次元差分法によるモデルの精度検証を行う予定である.

(参考文献)
地震調査研究推進本部地震調査委員会 (2017): 「地下構造モデル作成の考え方」に基づいて作成された関東地方の浅部・深部統合地盤構造モデル説明資料.
地震調査研究推進本部地震調査委員会 (2021): 「地下構造モデル作成の考え方」に基づいて作成された関東地方の浅部・深部統合地盤構造モデル説明資料.
Atsushi Wakai, Shigeki Senna, Kaoru Jin, Atsushi Yatagai, Haruhiko Suzuki, Yoshiaki Inagaki, Hisanori Matsuyama, and Hiroyuki Fujiwara, “Modeling of Subsurface Velocity Structures from Seismic Bedrock to Ground Surface in the Tokai Region, Japan, for Broadband Strong Ground Motion Prediction,” J. Disaster Res., Vol.14, No.9, pp. 1140-1153, 2019.
鈴木晴彦, 山中浩明 : 深部地盤のS波速度構造推定のための地震記録と微動探査データの同時逆解析, 物理探査, 63, 215-227, 2010.
長尾毅, 紺野克昭 (2002) :常時微動アレー観測に基づく表層地盤の平均S波速度推定精度に関する研究, 土木学会論文集, No.696, I-58, pp.225-235.