11:00 〜 13:00
[SSS10-P16] 分散型音響計測(DAS)による国道9号線沿いのサイト増幅特性の稠密な空間分布の推定
キーワード:DAS、サイト増幅、稠密観測
分散型音響計測 (DAS) は,近年地震学の分野で注目が高まっている光ファイバーケーブルを用いた地震動の観測手法である.DASには,全長数10 kmの測線を 5-10 m 間隔で稠密に観測できることと,既存の通信用光ファイバーケーブルを用いるとレーザー光を入射してその後方散乱波を解析する装置のみで計測可能であること,の特徴があり,これにより低コストで従来よりも空間的に稠密な地震動の計測が可能となる.本研究では,京都府内の国道9号線沿いに敷設された光ファイバーケーブルを使用したDAS観測(宮澤・他,2022)に基づき,自然地震時のS波直達波振幅からサイト増幅特性の空間分布を求めたので報告する.
京都駅前の京都国道事務所から丹波IC辺りまでの国道9号に沿った長さ約50 kmの区間にわたり約5m間隔でケーブルに沿った軸ひずみ速度1成分を計測した.観測期間は2021年8月23日から同9月24日までの33日間である.サンプリング周波数は500Hzとした.本研究では,期間中に発生したマグニチュード 0.9から3.9の12個の自然地震を解析する.解析対象の地震は,レコードセクション上で地震波を確認でき,かつ自動車による振動の影響の少ないものを選んだ.震源は主に京都府大阪府境界付近,和歌山付近に分布している.国道9号は交通量が多く,夜間でも自動車による振動が含まれるが,解析対象地震を絞り,複数の地震記録を用いることで,その影響を軽減させる.
具体的な解析手順は次のとおりである.各場所のひずみ速度記録に0.1-1, 1-2, 2-4, 4-8 Hzのバンドパスフィルターを適用する.理論走時を基に,各周波数帯域において,S波初動の到達時の5秒前から10秒間のRMS値を計算する.測線区間の全チャンネルの平均値が1になるようにRMS値を規格化し,41点の移動平均により測線に沿った空間方向に平滑化を行った後,12個の地震の規格化RMS値の平均値を計算する.
S波のRMS値の範囲は,用いた地震や周波数帯による違いは小さく,最大値が平均値の3-4倍程度で最小値が平均値の1/10程度だった.全体の傾向としては,測線中部で値がやや大きい傾向がみられ,また京都市大枝沓掛町に極端にRMS値の小さい箇所がみられる.RMS値が極端に小さい箇所は他の場所と比べてもかなり値が小さく,地図上からは地形的特徴も特に見られないため,光ファイバーケーブルと地面のカップリングによる影響が考えられる.また,地震ごとのRMS値のばらつきは小さかった.防災科学技術研究所地震ハザードステーションJ-SHISで公開されているS波速度400 m/sの工学的基盤から地表までの地盤増幅率と比較すると,大小関係の空間分布は,大きなスケールでは類似していた.ただし,局所的な変化は必ずしも一致しておらず,本研究で得られたRMS値の方が細かい空間的変化を示す.
DAS観測に基づきサイト増幅特性の空間分布を高い分解能で求める手法はすでに宮城県内の国道4号線において適用されているが(江本・他,2021),本研究では国道9号線においても同様に適用可能であることを示した.今後,輻射パターンや震源距離による影響の評価を行うとともに,周辺の地形・地質情報との比較を行う予定である.
謝辞
本研究は,京都大学防災研究所拠点研究(一般推進),及びJSPS科研費JP21K18748の助成を受けました.光ファイバー通信ケーブルは,京都大学防災研究所と近畿地方整備局京都国道事務所との間で締結した覚書に基づき,京都国道事務所より借用しました.ここに記して感謝いたします.
京都駅前の京都国道事務所から丹波IC辺りまでの国道9号に沿った長さ約50 kmの区間にわたり約5m間隔でケーブルに沿った軸ひずみ速度1成分を計測した.観測期間は2021年8月23日から同9月24日までの33日間である.サンプリング周波数は500Hzとした.本研究では,期間中に発生したマグニチュード 0.9から3.9の12個の自然地震を解析する.解析対象の地震は,レコードセクション上で地震波を確認でき,かつ自動車による振動の影響の少ないものを選んだ.震源は主に京都府大阪府境界付近,和歌山付近に分布している.国道9号は交通量が多く,夜間でも自動車による振動が含まれるが,解析対象地震を絞り,複数の地震記録を用いることで,その影響を軽減させる.
具体的な解析手順は次のとおりである.各場所のひずみ速度記録に0.1-1, 1-2, 2-4, 4-8 Hzのバンドパスフィルターを適用する.理論走時を基に,各周波数帯域において,S波初動の到達時の5秒前から10秒間のRMS値を計算する.測線区間の全チャンネルの平均値が1になるようにRMS値を規格化し,41点の移動平均により測線に沿った空間方向に平滑化を行った後,12個の地震の規格化RMS値の平均値を計算する.
S波のRMS値の範囲は,用いた地震や周波数帯による違いは小さく,最大値が平均値の3-4倍程度で最小値が平均値の1/10程度だった.全体の傾向としては,測線中部で値がやや大きい傾向がみられ,また京都市大枝沓掛町に極端にRMS値の小さい箇所がみられる.RMS値が極端に小さい箇所は他の場所と比べてもかなり値が小さく,地図上からは地形的特徴も特に見られないため,光ファイバーケーブルと地面のカップリングによる影響が考えられる.また,地震ごとのRMS値のばらつきは小さかった.防災科学技術研究所地震ハザードステーションJ-SHISで公開されているS波速度400 m/sの工学的基盤から地表までの地盤増幅率と比較すると,大小関係の空間分布は,大きなスケールでは類似していた.ただし,局所的な変化は必ずしも一致しておらず,本研究で得られたRMS値の方が細かい空間的変化を示す.
DAS観測に基づきサイト増幅特性の空間分布を高い分解能で求める手法はすでに宮城県内の国道4号線において適用されているが(江本・他,2021),本研究では国道9号線においても同様に適用可能であることを示した.今後,輻射パターンや震源距離による影響の評価を行うとともに,周辺の地形・地質情報との比較を行う予定である.
謝辞
本研究は,京都大学防災研究所拠点研究(一般推進),及びJSPS科研費JP21K18748の助成を受けました.光ファイバー通信ケーブルは,京都大学防災研究所と近畿地方整備局京都国道事務所との間で締結した覚書に基づき,京都国道事務所より借用しました.ここに記して感謝いたします.