11:00 〜 13:00
[SSS10-P19] 南海トラフ巨大地震による長継続時間地震動のシミュレーション
キーワード:南海トラフ、波動場平滑化スキーム、差分法シミュレーション
南海トラフのプレート境界ではこれまでマグニチュード8級の海溝型巨大地震が繰り返し発生しており、強震動や津波によって甚大な被害が引き起こされてきた。海溝型巨大地震では震源から遠く離れた平野や盆地においても長大構造物が長周期地震動による被害を受けることが知られており、平野上に発達した首都圏を含む大都市では、強震動と津波の評価のみならず長周期地震動の評価も重要である。
我々はこれまで南海トラフ沿いで想定される多様な断層モデル群に対して差分法による長周期地震動シミュレーションを行ってきたが、計算タイムステップの増加とともに振幅が指数関数的に増大する発散現象のため長継続時間の地震動を計算することが困難な場合があった。これに対し、地下構造モデルの物性値の急変箇所を平滑化するなどの発散対策を講じることで長継続時間の地震動計算を実現してきたが、大きな労力を要する一方で発散を完全に抑えることはできなかった。そこで、防災科研が開発しているシミュレーションシステムであるGMS(地震動シミュレータ)による地震波伝播計算に、発散現象の抑制を目的としてImai et al.(2018)の波動場平滑化スキームを導入した(前田・他;日本地震学会2021年秋季大会)。波動場平滑化スキームは移流拡散方程式のアナロジーを応用し波動方程式に拡散項を付加した修正波動方程式を解くもので、ある周期よりも短周期成分を選択的に減衰させることができることから、拡散項(付加項)に乗ずる係数を適切に設定することで、地震動計算として有効な周期帯域よりも短周期帯で生じる発散の影響のみを除去することが期待される。本研究では、複数の計算モデル(地下構造モデル+震源モデル)に対して拡散項の係数を複数設定した地震動シミュレーションを行い、係数の設定が波動場に及ぼす影響について調べた。
まず、単純な計算モデル(半無限媒質+点震源)を用いた検討を行った。この計算モデルは、タイムステップ数を大きくしても発散現象が生じないため、平滑化スキームの係数設定による短周期成分への影響を見るのに適している。平滑化スキームの係数を変えた複数の計算結果と平滑化スキームを用いない計算結果とのフーリエスペクトル比を取ったところ、平滑化スキームの係数に比例した係数を持つガウス関数で近似できることがわかった。つぎに、現実的な計算モデル(3次元地下構造モデル+面的震源モデル)を用いた検討では、波動場平滑化スキームの係数を適切に設定することで発散が抑えられ、長継続時間の地震動計算が可能となる一方で、短周期成分の減衰の程度は空間的に一様ではないこともわかった。現実的な計算モデルにおける波動場平滑化スキームの係数の設定方針について検討するとともに、係数を時間的、空間的に変化させるなど計算手法の改良を行うことが今後の課題である。
謝辞:本研究は文部科学省「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」の一環として行われた。
我々はこれまで南海トラフ沿いで想定される多様な断層モデル群に対して差分法による長周期地震動シミュレーションを行ってきたが、計算タイムステップの増加とともに振幅が指数関数的に増大する発散現象のため長継続時間の地震動を計算することが困難な場合があった。これに対し、地下構造モデルの物性値の急変箇所を平滑化するなどの発散対策を講じることで長継続時間の地震動計算を実現してきたが、大きな労力を要する一方で発散を完全に抑えることはできなかった。そこで、防災科研が開発しているシミュレーションシステムであるGMS(地震動シミュレータ)による地震波伝播計算に、発散現象の抑制を目的としてImai et al.(2018)の波動場平滑化スキームを導入した(前田・他;日本地震学会2021年秋季大会)。波動場平滑化スキームは移流拡散方程式のアナロジーを応用し波動方程式に拡散項を付加した修正波動方程式を解くもので、ある周期よりも短周期成分を選択的に減衰させることができることから、拡散項(付加項)に乗ずる係数を適切に設定することで、地震動計算として有効な周期帯域よりも短周期帯で生じる発散の影響のみを除去することが期待される。本研究では、複数の計算モデル(地下構造モデル+震源モデル)に対して拡散項の係数を複数設定した地震動シミュレーションを行い、係数の設定が波動場に及ぼす影響について調べた。
まず、単純な計算モデル(半無限媒質+点震源)を用いた検討を行った。この計算モデルは、タイムステップ数を大きくしても発散現象が生じないため、平滑化スキームの係数設定による短周期成分への影響を見るのに適している。平滑化スキームの係数を変えた複数の計算結果と平滑化スキームを用いない計算結果とのフーリエスペクトル比を取ったところ、平滑化スキームの係数に比例した係数を持つガウス関数で近似できることがわかった。つぎに、現実的な計算モデル(3次元地下構造モデル+面的震源モデル)を用いた検討では、波動場平滑化スキームの係数を適切に設定することで発散が抑えられ、長継続時間の地震動計算が可能となる一方で、短周期成分の減衰の程度は空間的に一様ではないこともわかった。現実的な計算モデルにおける波動場平滑化スキームの係数の設定方針について検討するとともに、係数を時間的、空間的に変化させるなど計算手法の改良を行うことが今後の課題である。
謝辞:本研究は文部科学省「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」の一環として行われた。