日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS11] 地震活動とその物理

2022年5月25日(水) 10:45 〜 12:15 103 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:楠城 一嘉(静岡県立大学)、コンビーナ:直井 誠(京都大学)、座長:楠城 一嘉(静岡県立大学)、勝俣 啓(北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター)

11:45 〜 12:00

[SSS11-11] 2008年岩手・宮城内陸地震震源域周辺の通常地震と深部低周波地震の震源スペクトルと地震波放射エネルギー: 類似点と相違点

*織茂 雅希1、吉田 圭佑1平 貴昭2江本 賢太郎3松澤 暢1、長谷川 昭1 (1.東北大学理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター、2.カリフォルニア大学バークレイ校地震研究所、3.東北大学理学研究科地球物理学専攻)


キーワード:震源スペクトル、低周波地震

深部低周波地震は、主に火山周辺で通常地震よりも深部で発生する特異な地震である。同程度の規模の通常地震に比べて地震波の卓越周波数が顕著に小さく、特徴的な後続部が見られることが多い。深部低周波地震は、断層運動であることが分かっている通常地震に比べて、詳細の理解が進んでいない。深部低周波地震の発生過程の理解のためには, 地震波放射過程の理解が重要であると考えられる。
多くの通常地震の破壊過程・放射地震波はオメガ二乗モデルに適合して見える (Aki, 1967)。一方、プレート境界で発生する低周波地震はオメガ二乗モデルとは異なる様式で破壊が生じているという推定がなされているし (Ide et al., 2007)、通常地震の中にもオメガ二乗モデルに従わない地震は存在する (Ye et al., 2016)。プレート内で発生する深部低周波地震がオメガ二乗モデルに従うかどうかは、その発生物理・破壊過程の理解のために重要である (Yoshida et al., 2020)。
本研究では、2008年岩手・宮城内陸地震震源域周辺で発生した通常地震・深部低周波地震の震源スペクトル・放射エネルギーの特徴を系統的に調べる。最初に、震源スペクトルの高周波側の減衰の特徴を調べ, 次に、それを考慮して放射エネルギーと規格化エネルギーを推定した。この地域では, 通常地震と同じ場所で低周波地震 (浅部低周波地震) が発生したことが分かっている (Nakajima and Hasegawa, 2021)。本研究では, これらの地震も解析対象とした。
地震・低周波地震の震源スペクトルを観測地震波形のスペクトルを利用して決定した。地震波は震源から観測点まで伝播する間に, 地震波減衰 Q-1 や観測点直下のサイト特性の影響を受けてしまう。震源スペクトルをより正確に決定するためにはこれらを除去する必要がある。本研究では地震波の後続波を利用したコーダ規格化法 (Aki, 1982; Aki and Chouet, 1975) を用いて, 地震波減衰 Q-1 とサイト特性を評価した (Takahashi et al., 2005; Yoshida et al., 2017)。この方法は, 震源スペクトルがオメガ二乗モデルに従うことを仮定する必要がない。但し, この方法では観測点間のサイト特性の相対値は評価できるが, 絶対値の評価をすることはできない。多くの先行研究ではボアホール観測点のサイト特性の影響は小さいと仮定して解析を行っていたが, 解析により本研究対象域ではその仮定がうまく成り立たないことが分かった。そこで本研究では地震間の観測スペクトルの比を利用した方法でボアホール観測点のサイト特性を評価した。具体的には, オメガ二乗モデルが成り立つと考えられる地震で, 震源パラメータが既知の地震を選定し, オメガ二乗モデル (Aki, 1967; Brune, 1970) を仮定し, その地震の震源スペクトルを決定することで, サイト特性の絶対値を推定した (Yoshida et al., 2017)。
通常地震3371個, 深部低周波地震642個, 浅部低周波地震76個の震源スペクトルを求めることができた。震源スペクトルの高周波側の減衰の特徴を調べるために, 周波数減衰のべき指数 n を導入した。個々の震源スペクトルに対して, グリッドサーチを用いたフィッティングを行い, コーナー周波数, べき指数 n を推定した。地震モーメントは震源スペクトルの低周波側の値とした。通常地震の場合, n の平均値は1.6, 標準偏差が0.47 であった。深部低周波地震の場合, 平均値は1.6, 標準偏差は 0.27 であった。浅部低周波地震の場合, 平均値は 1.6, 標準偏差 0.43 であった。本研究対象域の多くの地震が, オメガ二乗モデルに比べて, 震源スペクトルの高周波側が緩やかに減衰する様子が見られた。解析した地震の中に破壊過程が比較的複雑な地震も含まれていることを反映するのかもしれない。通常地震と深部低周波地震の間には顕著な違いを見出すことはできなかった。
n の値を平均値である1.6 で固定して, Snoke (1967) の手法を利用することにより、各地震の放射エネルギーと規格化エネルギーを推定した。推定された規格化エネルギーは,通常地震の場合, 10-5 程度であった。深部低周波地震の場合, 10-7 程度, Nakajima and Hasegawa (2021) により検出された浅部低周波地震の場合には 10-6 程度であり, 通常地震のそれと比べ1~2桁程度小さかった。
本研究では, 研究対象域の地震波減衰 Q-1 が空間的に変化しないことを仮定した。しかし, 深部低周波地震は通常地震よりも深部で発生するため, 実際には代表する Q-1(f) が系統的に異なっている可能性が考えられる。このため, 本研究で推定した深部低周波地震の震源スペクトルが系統的に誤って推定され, n ・放射エネルギー・規格化エネルギーが誤って推定された可能性は否定できない。今後, Q-1(f) の空間変化を考慮した解析を行うことで, n ・放射エネルギー・規格化エネルギーついてより詳細に推定できると期待される。