日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS11] 地震活動とその物理

2022年6月2日(木) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (22) (Ch.22)

コンビーナ:楠城 一嘉(静岡県立大学)、コンビーナ:直井 誠(京都大学)、座長:楠城 一嘉(静岡県立大学)、永田 広平(気象庁気象研究所)

11:00 〜 13:00

[SSS11-P03] 統合的な地殻活動指標の構築に向けて ―“ふつう”の地震活動の特徴に基づく異常度評価―

*永田 広平1溜渕 功史1弘瀬 冬樹1野田 朱美1 (1.気象庁気象研究所)

キーワード:地震活動、規模別頻度分布、潮汐相関

Nagata et al. (2021, JpGU)では,日本全国の過去約20年間の地震活動の規模別頻度分布,潮汐相関等に関する指標値について,空間グリッドサイズ一定,解析震源数一定の機械的な解析を行い,各指標値の頻度分布の統計的性質に着目して全国的に他の活動と区別することができない“ふつう”の地震活動の特徴を抽出した結果を報告した.

本発表では,上記の解析で得られた“ふつう”の規模別頻度分布及び潮汐相関に関する指標値の頻度分布を説明する地震規模及び地震発生タイミングに関するモデルについて報告するとともに,これらを標準モデルとして最近の地震活動の異常度を定量化した結果を示す.

規模別頻度分布に関しては,Gutenberg-Richter (GR)則のb 値及びGR則からの逸脱の度合いを示すη値(Utsu, 1978)を指標とした.過去の地震活動のη値の解析結果は,地震規模の片対数頻度分布が,通常,GR則から期待される直線的な形状でなく,やや上に凸の形状であることを示す.そこで,このような規模別頻度分布を説明する関数形として,Lomnitz-Adlar and Lomnitz (1979)による式を採用した.この式は,解析M 下限Mthを用いて書き直すと,以下のように書ける.

logN(M) = A - [ b' (Mth)exp{B ( M - Mth )}] / B
b'(Mth)=dlogN/dM (M = Mth) = cB exp(BMth)

ここで,N(M) はある規模M 以上の地震の発生回数,A, B, c はUtsu (1999) による変形式のパラメータである.b'(Mth) はM=Mth での規模別頻度分布の傾きであり,この値が観測したb 値に概ね対応し,B が観測したη値に概ね対応する.b 値とη値の観測結果に基づき,b'(Mth) に正規分布,B に対数正規分布を仮定して,モデルから数値的に生成される規模別頻度分布が観測結果をよく説明するようb'(Mth)とB の分布を推定した.観測結果は,データが有限であることに起因するばらつきを持ち,グリッドの取り方や解析震源数によっても異なるが,得られたモデルはこれらのばらつきを含めて非常によく観測結果を説明する.

潮汐相関に関しては,潮汐応答の特定位相に地震活動がまとまって起こっている度合いを表すD
D2=(Σi=1Ncosθi)2+(Σi=1Nsinθi)2 , θii 番目の地震の位相角)を指標とした.過去の地震活動の解析からは,地震活動と潮汐応答が無相関である場合に期待されるレイリー分布よりもやや大きな値が多い.この分布は,潮汐の周期に対して十分短い時間間隔で続発する地震の割合を考慮したモデルにより説明され,必ずしも潮汐相関がなくとも,ポアソン過程で発生する地震が余震を伴うと考えることで説明できることが分かった.この場合,D 値は,潮汐周期に対して十分に短い時間間隔で発生する地震の割合を表す指標と見なすことができる.

上記の指標値(b 値,η値,D 値)は“ふつう”の活動においては無相関であり,得られたモデルから指標値それぞれの頻度分布と,それらの同時確率分布が得られる.これらを標準モデルとして,観測した震源データに対して,逐次,異常度評価を行うことが可能である.発表では,最近の地震活動にこの手法を適用した例を紹介する.