14:45 〜 15:00
[SSS12-04] 阿蘇外輪山・象ケ鼻断層における2016年熊本地震前後の断層変位
キーワード:2016年熊本地震、象ケ鼻断層、地表変位、活動履歴
1.目的
阿蘇カルデラ北端に位置する外輪山に存在する象ケ鼻断層では,SAR干渉画像解析により2016年熊本地震に伴う位相不連続が確認されており(Fujiwara et. al, 2016),また,現地踏査により,走向N70°E,相対上下変位量約8cm(北西落ち)のコンクリート舗装路の変位が報告されている(中埜ほか,2018;文部科学省研究開発局・国立大学法人九州大学,2019).本断層は,1997年に一の宮町(現・阿蘇市)教育委員会により実施された象ケ鼻D遺跡第1次発掘調査概要報告書(一の宮町教育委員会,1998)において,北東-南西方向に走る北落ちの断層であり,アカホヤ(K-Ah)や姶良Tn(AT)などを含む火山灰層を累積的に変位させている活断層であることが指摘されている.しかしながら,同報告書では,断層活動の詳細な履歴については示されていない.本調査は,象ケ鼻断層の活動履歴を詳細に明らかにし,2016年熊本地震の震源断層である布田川断層の活動との関連性を考察するとともに,九州中部のテクトニクスにおける本断層の役割を考察することを目的として実施したものである.
2.方法
本調査では,UAVによる周辺の地形計測及び2016年熊本地震時の地表変位の踏査を行うとともに,道路沿い斜面の表土を除去し,露頭面の地層と断層,亀裂の詳細な観察・記載を行った.また,ハンドオーガーによる簡易ボーリング,地中レーダ探査等を行い,断層周辺の浅層構造の調査を行った.さらに,地層の編年,活動履歴の検討のため,露頭と簡易ボーリングで採取した試料の年代測定及びテフラ同定を行った.なお,放射性炭素年代測定については山形大学高感度加速器質量分析センターに依頼して実施した.
3.結果
露頭は上下約2m,幅約10mの,概ね西に面する斜面である.露出した地層を色相や粘性などの特徴に基づいて9層に区分した.このうち,ほぼ中ほどに現れた淡褐色の火山灰層は,層相及び下位の黒色土層の年代測定結果から,K-Ahを含む層準と特定できた.また,露頭南端に露出している灰色の火山灰層は,火山ガラスの特徴や屈折率分析の結果から,ATテフラを含む層準と特定された.
道路面に現れた地表地震断層の延長上周辺(露頭北側)では,10数本の新鮮な開口亀裂が観察された.走向はEW~N70°Wである.これらのうち明瞭な亀裂の延長は,露頭上部の地表に観察された数㎝程度の北落ちの段差の位置と一致した.これらの亀裂は2016年熊本地震で生じたものである可能性が高い.
また,亀裂群の約2m程度南に走向N70°Eのシャープな南上がりの逆断層が現れた.この断層の上端は表土に達しておらず,表土まで達するスランプ状の正断層が切っている.さらに,この断層の約2m南にやや不明瞭な断層が2条現れ,断層の上盤(南)側にはAT堆積層が接している.これらの断層は,遺跡発掘調査報告書(一の宮町教育委員会,1998)に記載されていた断層の位置,形状,変位が一致することから,2016年熊本地震以前から存在していたと考えられるが,2016年熊本地震時にはほとんど変位しなかったようである.
簡易ボーリングの結果からは,複数の阿蘇起源のテフラやATなどが確認され,断層を挟んで南北に明瞭な高度差があることが確認された.
4.考察
2016年熊本地震時に象ケ鼻断層が活動し,地表に変位が生じるとともに,地層中に多数の開口亀裂が発生したことが確認された.変位は1本の断層に集中せず,多数の亀裂に拡散したものと考えられる.これらの位置は,2016年熊本地震以前に存在した断層の位置よりも1~3m北にずれており,既存の断層は変位しなかったことを示唆する.
また,断層を挟んだ地層の高度差から,象ケ鼻断層は,少なくともAT降下以降,累積的に北落ちの活動を行ってきたことが明らかとなった.イベントは少なくとも5回認定できる.
謝辞
熊本大学理学部の宮縁育夫教授,同学生の手嶌隆一氏,五藤裕司氏,木尾竜也氏,深見基氏,福島隆渓氏,西岡大輝氏,徳丸実希氏,並びに阿蘇市教育委員会の宮本利邦氏には現地調査にあたって多大なご支援をいただいたことに感謝いたします.本研究はJSPS科研費20K0114の助成を受けて実施したものです.
阿蘇カルデラ北端に位置する外輪山に存在する象ケ鼻断層では,SAR干渉画像解析により2016年熊本地震に伴う位相不連続が確認されており(Fujiwara et. al, 2016),また,現地踏査により,走向N70°E,相対上下変位量約8cm(北西落ち)のコンクリート舗装路の変位が報告されている(中埜ほか,2018;文部科学省研究開発局・国立大学法人九州大学,2019).本断層は,1997年に一の宮町(現・阿蘇市)教育委員会により実施された象ケ鼻D遺跡第1次発掘調査概要報告書(一の宮町教育委員会,1998)において,北東-南西方向に走る北落ちの断層であり,アカホヤ(K-Ah)や姶良Tn(AT)などを含む火山灰層を累積的に変位させている活断層であることが指摘されている.しかしながら,同報告書では,断層活動の詳細な履歴については示されていない.本調査は,象ケ鼻断層の活動履歴を詳細に明らかにし,2016年熊本地震の震源断層である布田川断層の活動との関連性を考察するとともに,九州中部のテクトニクスにおける本断層の役割を考察することを目的として実施したものである.
2.方法
本調査では,UAVによる周辺の地形計測及び2016年熊本地震時の地表変位の踏査を行うとともに,道路沿い斜面の表土を除去し,露頭面の地層と断層,亀裂の詳細な観察・記載を行った.また,ハンドオーガーによる簡易ボーリング,地中レーダ探査等を行い,断層周辺の浅層構造の調査を行った.さらに,地層の編年,活動履歴の検討のため,露頭と簡易ボーリングで採取した試料の年代測定及びテフラ同定を行った.なお,放射性炭素年代測定については山形大学高感度加速器質量分析センターに依頼して実施した.
3.結果
露頭は上下約2m,幅約10mの,概ね西に面する斜面である.露出した地層を色相や粘性などの特徴に基づいて9層に区分した.このうち,ほぼ中ほどに現れた淡褐色の火山灰層は,層相及び下位の黒色土層の年代測定結果から,K-Ahを含む層準と特定できた.また,露頭南端に露出している灰色の火山灰層は,火山ガラスの特徴や屈折率分析の結果から,ATテフラを含む層準と特定された.
道路面に現れた地表地震断層の延長上周辺(露頭北側)では,10数本の新鮮な開口亀裂が観察された.走向はEW~N70°Wである.これらのうち明瞭な亀裂の延長は,露頭上部の地表に観察された数㎝程度の北落ちの段差の位置と一致した.これらの亀裂は2016年熊本地震で生じたものである可能性が高い.
また,亀裂群の約2m程度南に走向N70°Eのシャープな南上がりの逆断層が現れた.この断層の上端は表土に達しておらず,表土まで達するスランプ状の正断層が切っている.さらに,この断層の約2m南にやや不明瞭な断層が2条現れ,断層の上盤(南)側にはAT堆積層が接している.これらの断層は,遺跡発掘調査報告書(一の宮町教育委員会,1998)に記載されていた断層の位置,形状,変位が一致することから,2016年熊本地震以前から存在していたと考えられるが,2016年熊本地震時にはほとんど変位しなかったようである.
簡易ボーリングの結果からは,複数の阿蘇起源のテフラやATなどが確認され,断層を挟んで南北に明瞭な高度差があることが確認された.
4.考察
2016年熊本地震時に象ケ鼻断層が活動し,地表に変位が生じるとともに,地層中に多数の開口亀裂が発生したことが確認された.変位は1本の断層に集中せず,多数の亀裂に拡散したものと考えられる.これらの位置は,2016年熊本地震以前に存在した断層の位置よりも1~3m北にずれており,既存の断層は変位しなかったことを示唆する.
また,断層を挟んだ地層の高度差から,象ケ鼻断層は,少なくともAT降下以降,累積的に北落ちの活動を行ってきたことが明らかとなった.イベントは少なくとも5回認定できる.
謝辞
熊本大学理学部の宮縁育夫教授,同学生の手嶌隆一氏,五藤裕司氏,木尾竜也氏,深見基氏,福島隆渓氏,西岡大輝氏,徳丸実希氏,並びに阿蘇市教育委員会の宮本利邦氏には現地調査にあたって多大なご支援をいただいたことに感謝いたします.本研究はJSPS科研費20K0114の助成を受けて実施したものです.