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[SSS12-05] 根尾谷断層破砕帯地下浅部における最新すべり面の特徴と強度回復過程
キーワード:最新すべり面、根尾谷断層破砕帯、強度回復過程
原子力規制庁が行った孔井掘削により得られたボーリングコアを用いて,1891年濃尾地震で活動した根尾谷断層の地下浅部における最新すべり面のX線CT観察,粉末X線回折分析(XRD),蛍光X線分析(XRF),微小部蛍光X線分析(XGT)を行った.これらより根尾谷断層の地下浅部における最新すべり面の特徴を明らかにするとともに,過去のすべりによって生じた断層ガウジの特徴と比較することで,断層浅部における強度回復過程を検討することが本研究の目的である.
調査対象地は濃尾地震の際に6mの垂直変位を生じた岐阜県本巣市根尾水鳥であり圧縮性断層ジョグに位置している.本研究では,2019年に原子力規制庁が掘削したパイロット孔であるNDFP-1と本孔であるNDFD-1-S1のボーリングコアを調査対象とする.NDFP-1孔は傾斜井であり,掘削長140.0 m,孔底深度106.8 mである.NDFD-1-S1はほぼ鉛直に掘削された孔井であり,掘削長524.8m,孔底深度516.9 mである(原子力規制庁, 2019).
X線CT観察では,NDFP-1とNDFD-1-S1における最新すべり面と想定されるせん断面内部はきわめて低いCT値,すなわち低密度であることが確認された.他の断層ガウジでは,CT値は破砕した岩石や断層角礫岩と同様の値を示す.一方,最新すべり面でない断層ガウジでは低いCT値は認められず,断層角礫等の他の断層岩類と同様の値を示す.
XRDでは,最新すべり面を含む断層ガウジのみで方解石とスメクタイトが検出された.XRFでは,NDFP-1の最新すべり面とその近傍でCaの濃度が高い値を示すことを確認した.XGTでは,最新すべり面の近傍でCaの濃度が高いのに対して,最新すべり面そのものでは相対的に低い値を示すことを確認した.
Scaringi et al.(2018)は低封圧下の600 kPaでの地すべり粘土のリングせん断試験より,変位速度が大きい場合には変位量が大きいほど地すべり粘土の体積膨張が大きくなることを示している.よって最新すべり面では,圧縮性断層ジョグであるにもかかわらず,濃尾地震の際に最新すべり面に沿って断層ガウジの体積膨張が生じ,密度が低くなったと考えられる.他のガウジでは,CT値が高く,密度が大きいことから,すべり面の密度回復が十分に生じたと考えられ,その要因として断層ガウジ形成後の鉱物充填や,ある地震の際にすべり面とならないガウジにおける圧縮性ジョグの作用による圧密,広域応力場のもとで生じる地殻の短縮が挙げられる.これは,過去のすべりによって生じた断層ガウジ中の間隙を方解石とスメクタイトが充填したと考えられる.断層ガウジ試料全般からスメクタイトが検出されることから,最新すべり面の断層ガウジで密度が低くなることは,スメクタイトの膨潤作用によって生じたものではないと考えられる.これは,すべり面で全般的に方解石の充填が進んでいることが考えられ,過去のすべりによって生じた最新すべり面近傍の断層ガウジでは,最新すべり面の断層ガウジより方解石の鉱物充填が進んでいてCaの濃度が高くなっている.最新すべり面とその近傍で充填されている方解石は,濃尾地震の発生以降に充填が進んだ可能性に加えて,濃尾地震以前の断層運動でも同じすべり面が何度も動く中で充填が生じた可能性がある.なお,NDFP-1の最新すべり面は,最新すべり面でない断層ガウジと同様にスメクタイトを含むため,形成条件は類似していることが考えられる.よって,いまだ低密度のままである最新すべり面の断層ガウジは,これから時間をかけて方解石が充填されることが考えられる.
根尾谷断層の平均活動間隔は約2100~3600年(地震調査研究推進本部,2005)であり,濃尾地震から130年が経過した現在でも最新すべり面は他と比べてCT値が低いので,最新すべり面における強度回復はいまだ不十分であると考えられる.最新すべり面でない断層ガウジでは,時間の経過とともに密度回復をし,断層の強度回復過程を終えていることが考えられる.しかし,今回対象としているボーリングコアは浅部の試料であり封圧が小さいことから,高い断層強度を必要としないことが考えられる.よって,根尾谷断層の次の地震に向けた大きなひずみエネルギーをこの深度では蓄積できないため,次の断層運動までに完全には断層強度の回復をしないことが考えられる.
原子力規制庁(2019)平成30年度原子力規制庁請負成果報告書, 断層活動性評価手法の構築に係る破砕帯掘削調査.
地震調査研究推進本部 (2005) 濃尾断層帯の長期評価について. 49pp.
Scaringi et al. (2018) Geophysical Research Letters, 45, 766–777.
調査対象地は濃尾地震の際に6mの垂直変位を生じた岐阜県本巣市根尾水鳥であり圧縮性断層ジョグに位置している.本研究では,2019年に原子力規制庁が掘削したパイロット孔であるNDFP-1と本孔であるNDFD-1-S1のボーリングコアを調査対象とする.NDFP-1孔は傾斜井であり,掘削長140.0 m,孔底深度106.8 mである.NDFD-1-S1はほぼ鉛直に掘削された孔井であり,掘削長524.8m,孔底深度516.9 mである(原子力規制庁, 2019).
X線CT観察では,NDFP-1とNDFD-1-S1における最新すべり面と想定されるせん断面内部はきわめて低いCT値,すなわち低密度であることが確認された.他の断層ガウジでは,CT値は破砕した岩石や断層角礫岩と同様の値を示す.一方,最新すべり面でない断層ガウジでは低いCT値は認められず,断層角礫等の他の断層岩類と同様の値を示す.
XRDでは,最新すべり面を含む断層ガウジのみで方解石とスメクタイトが検出された.XRFでは,NDFP-1の最新すべり面とその近傍でCaの濃度が高い値を示すことを確認した.XGTでは,最新すべり面の近傍でCaの濃度が高いのに対して,最新すべり面そのものでは相対的に低い値を示すことを確認した.
Scaringi et al.(2018)は低封圧下の600 kPaでの地すべり粘土のリングせん断試験より,変位速度が大きい場合には変位量が大きいほど地すべり粘土の体積膨張が大きくなることを示している.よって最新すべり面では,圧縮性断層ジョグであるにもかかわらず,濃尾地震の際に最新すべり面に沿って断層ガウジの体積膨張が生じ,密度が低くなったと考えられる.他のガウジでは,CT値が高く,密度が大きいことから,すべり面の密度回復が十分に生じたと考えられ,その要因として断層ガウジ形成後の鉱物充填や,ある地震の際にすべり面とならないガウジにおける圧縮性ジョグの作用による圧密,広域応力場のもとで生じる地殻の短縮が挙げられる.これは,過去のすべりによって生じた断層ガウジ中の間隙を方解石とスメクタイトが充填したと考えられる.断層ガウジ試料全般からスメクタイトが検出されることから,最新すべり面の断層ガウジで密度が低くなることは,スメクタイトの膨潤作用によって生じたものではないと考えられる.これは,すべり面で全般的に方解石の充填が進んでいることが考えられ,過去のすべりによって生じた最新すべり面近傍の断層ガウジでは,最新すべり面の断層ガウジより方解石の鉱物充填が進んでいてCaの濃度が高くなっている.最新すべり面とその近傍で充填されている方解石は,濃尾地震の発生以降に充填が進んだ可能性に加えて,濃尾地震以前の断層運動でも同じすべり面が何度も動く中で充填が生じた可能性がある.なお,NDFP-1の最新すべり面は,最新すべり面でない断層ガウジと同様にスメクタイトを含むため,形成条件は類似していることが考えられる.よって,いまだ低密度のままである最新すべり面の断層ガウジは,これから時間をかけて方解石が充填されることが考えられる.
根尾谷断層の平均活動間隔は約2100~3600年(地震調査研究推進本部,2005)であり,濃尾地震から130年が経過した現在でも最新すべり面は他と比べてCT値が低いので,最新すべり面における強度回復はいまだ不十分であると考えられる.最新すべり面でない断層ガウジでは,時間の経過とともに密度回復をし,断層の強度回復過程を終えていることが考えられる.しかし,今回対象としているボーリングコアは浅部の試料であり封圧が小さいことから,高い断層強度を必要としないことが考えられる.よって,根尾谷断層の次の地震に向けた大きなひずみエネルギーをこの深度では蓄積できないため,次の断層運動までに完全には断層強度の回復をしないことが考えられる.
原子力規制庁(2019)平成30年度原子力規制庁請負成果報告書, 断層活動性評価手法の構築に係る破砕帯掘削調査.
地震調査研究推進本部 (2005) 濃尾断層帯の長期評価について. 49pp.
Scaringi et al. (2018) Geophysical Research Letters, 45, 766–777.