日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS12] 活断層と古地震

2022年5月22日(日) 15:30 〜 17:00 103 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、コンビーナ:白濱 吉起(国立研究開発法人産業技術総合研究所地質調査総合センター活断層火山研究部門活断層評価研究グループ)、佐藤 善輝(産業技術総合研究所 地質情報研究部門 平野地質研究グループ)、コンビーナ:吉見 雅行(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、座長:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、大上 隆史(産業技術総合研究所 地質調査総合センター)

16:00 〜 16:25

[SSS12-07] 東北地方における地殻変動履歴復元に向けたエゾカサネカンザシゴカイの適用可能性の検討

★招待講演

*レゲット 佳1横山 祐典1白濱 吉起2宮入 陽介1福與 直人1太田 耕輔1、阿部 恒平3照沢 秀司3越後 智雄4 (1.東京大学 大気海洋研究所 高解像度環境解析研究センター、2.国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター(現 文部科学省)、3.応用地質株式会社、4.株式会社環境地質)

キーワード:放射性炭素、地殻変動履歴、カンザシゴカイ類、加速器質量分析、東北地方沿岸

東北地方沿岸部では地殻変動による隆起や沈降が発生しており,特に太平洋沿岸部では隆起と沈降が数千年スケールのサイクルで繰り返し起きていると考えられている(池田ほか,2012).地質学的な時間スケールでの高精度な地殻変動履歴復元と測器記録の組み合わせによる検討が重要になり、旧汀線指標を用いた検討が重要な情報を与える. しかし,東北地方沿岸部においての研究報告は,限られていた.例えば,既存研究で高精度な地殻変動履歴復元に多く扱われてきた,旧汀線指標であるヤッコカンザシゴカイは,その生息域が主に関東以南に限られているため,東北地方では活用例がなかった.また放射性炭素(14C)に比較的枯渇した親潮起源の海水の影響から14C年代測定の適用の検討可能性が不明であったことなどが挙げられる.そこで本研究では東北地方の潮間帯にも棲息する環形動物である,エゾカサネカンザシゴカイに注目した.エゾカサネカンザシゴカイが旧汀線高度を高精度に求めることができることは先行研究による報告があるが(三浦&梶原,1983),年代測定として適しているかは不明であった.さらに,前述のように東北地方の太平洋沿岸においては,冬期に異なる放射性炭素濃度(Δ14C) をもつ水塊が混合し,年代測定結果に影響を及ぼす可能性がある.そこで,エゾカサネカンザシゴカイの年代測定試料としての有用性を評価するため, 14C年代測定適用可能性の検討を行った.また棲管の構造についても電子顕微鏡(SEM)観察やマイクロ(X線回折装置:XRD)による分析を行った。
本研究では, 東北地方の太平洋側と日本海側にて,エゾカサネカンザシゴカイを実際にサンプリングし, Δ14Cを先行研究で報告されている値と比較した.採取した棲管がエゾカサネカンザシゴカイのものであるかを実体顕微鏡で観察し,先行研究で報告されている特徴と比較しそれらのΔ14Cをシングルステージ加速器質量分析装置を用いて分析した.
さらに,東北地方の離水海岸地形から採取した化石エゾカサネカンザシゴカイの棲管のSEM 観察と XRD 解析により,14C 年代に影響を及ぼす変質の有無を確認した後,高精度な標高及び14C年代測定結果と,歴史地震の記録との比較を行った.その結果,以下のことが明らかとなった: 本研究で得られた試料のうち外形的特徴が残っている試料についてはエゾカサネカンザシゴカイの棲管である エゾカサネカンザシゴカイは黒潮由来の14C値のみを記録しており,離水年代測定試料として有用である 化石エゾカサネカンザシゴカイの棲管は年代測定にずれを生じさせる規模の変質が起きている可能性が低く,14C 年代測定に適している 歴史地震の記録とエゾカサネカンザシゴカイの 14C 年代及び標高の情報が整合的である 特に(2),(4)の知見は,東北地方においてエゾカサネカンザシゴカイがこれまで扱われてきていたヤッコカンザシゴカイのように高精度な地殻変動履歴復元に有用であることを示しており、今後の東北地方沿岸域での高精度な地殻変動復元を行う上で重要な試料となることが確認された.