11:00 〜 13:00
[SSS12-P05] 岐阜県本巣市根尾長嶺における根尾谷断層の極浅部断層破砕帯の特徴
キーワード:最新すべり面、極浅部、根尾谷断層
活断層の活動履歴の調査として,トレンチ調査が一般に用いられている(吉岡,2004).しかし,これには第四紀に堆積した若い地層が必要であるため,若い地層がない場合でも基盤岩の断層破砕帯に基づく活断層の新たな活動履歴評価手法を見出す試みが進められており,根尾谷断層破砕帯の極浅部における最新すべり面に上位の地層から小礫が取り込まれていることが明らかにされている(津留・大谷,2020).ただし,このような取り込みが地表付近でどの深度まで生じているのか明確になっていない.また,最新すべり面は直近の過去の断層運動において変位を生じた面であり,断層破砕帯にはそれ以外にもすべり面が含まれている.これらの特徴から古い時代における根尾谷断層の活動を読み解ける可能性がある.根尾谷断層では,近年,原子力規制庁が破砕帯露頭調査を行っており(原子力規制庁, 2021),その一環で製作された剥ぎ取り標本を一時的に借用し,詳細に観察・記載する機会を得た.そこで本研究では,この剥ぎ取り標本を用いて根尾谷断層破砕帯における極浅部の最新すべり面に加えてその周辺の断層ガウジの変形構造より,根尾谷断層の長期的な活動の変遷を明らかにするとともに,最新すべり面の特徴を把握することを目的とする.
本研究は1891年に濃尾地震を引き起こした根尾谷断層を対象とする.根尾谷断層は,岐阜県西部の能郷白山付近から本巣市根尾長嶺を経て,岐阜市北西部付近へ至る長さ約35 kmの活断層である.対象とする地域は本巣市の根尾長嶺地区である.
剥ぎ取り標本を用いて断層破砕帯に発達する変形構造の詳細スケッチの作成を行うとともに,スケッチをもとに古いすべり面に含まれる特徴の観察を行う.
剥ぎ取り標本は,上部に礫層,左側に石英質断層破砕帯,右側に黒色泥岩起源断層破砕帯で構成されている.最新すべり面は断層ガウジからなること,暗灰色ガウジとわずかに色調が異なること,他のせん断面や変形構造を切断しほぼ直線の面構造であること,基盤岩起源ではない礫の混入がみられること(津留,2020)から認定した.また,最新すべり面は石英質断層破砕帯と黒色泥岩起源断層破砕帯の岩相境界には一致せず,わずかに右側にずれた位置している.
最新すべり面に含まれる小礫の落ち込みは上部の礫層から深度80 cmまでである.また,最新すべり面以外に,小さなせん断帯にも礫の落ち込みが確認できる.
礫層の底面は右側が30 cm隆起する変位を示している.一方で,石英質断層破砕帯に認められる複合面構造より右側が沈降するせん断センスを読み取ることができる.
最新すべり面に沿って基盤岩上面からその80 cm下部まで小礫の落ち込みが見いだされた. Scaringi et al.(2018)は地すべり粘土を用いたリングせん断試験より,変位量が大きいほど地すべり粘土の体積膨張が大きくなることを示している.よって濃尾地震の横ずれ変位により地下深くで断層ガウジの体積が大きく膨張した結果,地表付近で開口が生じることで最新すべり面に沿って基盤岩上面から80 cmまで礫が落ち込んだものと考えられる.
剥ぎ取り標本上部の礫層に30 cmの落差を伴う変位が確認できる.濃尾地震の際,根尾長嶺地区の露頭近傍ではほぼ純粋な左横ずれが生じており,縦ずれは起きていないと考えられている.このことから礫層の30 cmの落差を伴う変位は濃尾地震の際に起きた縦ずれではなく,濃尾地震より過去に生じた縦ずれにより形成されたものであることが考えられる.上部の礫層は第四紀に堆積したものであり礫層に落差を伴う変位が生じていることからごく最近の断層活動によって変位したものであることがわかる.
礫層の落差を伴う変位は複合面構造のせん断センスと異なることから複合面構造は礫層の落差を伴う変位より古い時代に生じたものと考えられる.
最新すべり面で小礫が基盤岩上面から80 cmまで落ち込むとともに,他の開口地割れでも小礫の落ち込みが確認された.
礫層の落差を伴う変位は濃尾地震以前の最近の断層運動により生じた.一方で,複合面構造により認められる断層運動は他と比べてせん断センスが異なることから,より古い時代に生じたものであると考えられる.
参考文献
原子力規制庁 (2021) 令和2年度断層破砕物質の試料採取及び室内分析.
Scaringi et al. (2018) Geophys. Res. Let., 45, 767-770.
津留・大谷 (2021) JpGU2021 講演要旨集.
吉岡敏和 (2004) 地震と活断層-過去から学び,将来を予測する-,丸善,p.237.
本研究は1891年に濃尾地震を引き起こした根尾谷断層を対象とする.根尾谷断層は,岐阜県西部の能郷白山付近から本巣市根尾長嶺を経て,岐阜市北西部付近へ至る長さ約35 kmの活断層である.対象とする地域は本巣市の根尾長嶺地区である.
剥ぎ取り標本を用いて断層破砕帯に発達する変形構造の詳細スケッチの作成を行うとともに,スケッチをもとに古いすべり面に含まれる特徴の観察を行う.
剥ぎ取り標本は,上部に礫層,左側に石英質断層破砕帯,右側に黒色泥岩起源断層破砕帯で構成されている.最新すべり面は断層ガウジからなること,暗灰色ガウジとわずかに色調が異なること,他のせん断面や変形構造を切断しほぼ直線の面構造であること,基盤岩起源ではない礫の混入がみられること(津留,2020)から認定した.また,最新すべり面は石英質断層破砕帯と黒色泥岩起源断層破砕帯の岩相境界には一致せず,わずかに右側にずれた位置している.
最新すべり面に含まれる小礫の落ち込みは上部の礫層から深度80 cmまでである.また,最新すべり面以外に,小さなせん断帯にも礫の落ち込みが確認できる.
礫層の底面は右側が30 cm隆起する変位を示している.一方で,石英質断層破砕帯に認められる複合面構造より右側が沈降するせん断センスを読み取ることができる.
最新すべり面に沿って基盤岩上面からその80 cm下部まで小礫の落ち込みが見いだされた. Scaringi et al.(2018)は地すべり粘土を用いたリングせん断試験より,変位量が大きいほど地すべり粘土の体積膨張が大きくなることを示している.よって濃尾地震の横ずれ変位により地下深くで断層ガウジの体積が大きく膨張した結果,地表付近で開口が生じることで最新すべり面に沿って基盤岩上面から80 cmまで礫が落ち込んだものと考えられる.
剥ぎ取り標本上部の礫層に30 cmの落差を伴う変位が確認できる.濃尾地震の際,根尾長嶺地区の露頭近傍ではほぼ純粋な左横ずれが生じており,縦ずれは起きていないと考えられている.このことから礫層の30 cmの落差を伴う変位は濃尾地震の際に起きた縦ずれではなく,濃尾地震より過去に生じた縦ずれにより形成されたものであることが考えられる.上部の礫層は第四紀に堆積したものであり礫層に落差を伴う変位が生じていることからごく最近の断層活動によって変位したものであることがわかる.
礫層の落差を伴う変位は複合面構造のせん断センスと異なることから複合面構造は礫層の落差を伴う変位より古い時代に生じたものと考えられる.
最新すべり面で小礫が基盤岩上面から80 cmまで落ち込むとともに,他の開口地割れでも小礫の落ち込みが確認された.
礫層の落差を伴う変位は濃尾地震以前の最近の断層運動により生じた.一方で,複合面構造により認められる断層運動は他と比べてせん断センスが異なることから,より古い時代に生じたものであると考えられる.
参考文献
原子力規制庁 (2021) 令和2年度断層破砕物質の試料採取及び室内分析.
Scaringi et al. (2018) Geophys. Res. Let., 45, 767-770.
津留・大谷 (2021) JpGU2021 講演要旨集.
吉岡敏和 (2004) 地震と活断層-過去から学び,将来を予測する-,丸善,p.237.