日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS12] 活断層と古地震

2022年5月30日(月) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (18) (Ch.18)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、コンビーナ:白濱 吉起(国立研究開発法人産業技術総合研究所地質調査総合センター活断層火山研究部門活断層評価研究グループ)、佐藤 善輝(産業技術総合研究所 地質情報研究部門 平野地質研究グループ)、コンビーナ:吉見 雅行(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、座長:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、吉見 雅行(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)

11:00 〜 13:00

[SSS12-P06] 超多重スタックの地中レーダ探査に基づく奈良盆地東縁断層帯・帯解断層の浅部地下構造

*川嶋 渉造1木村 治夫2谷口 薫3中西 利典4堤 浩之5 (1.同志社大学大学院理工学研究科数理環境科学専攻、2.電力中央研究所、3.株式会社パスコ、4.ふじのくに地球環境史ミュージアム、5.同志社大学理工学部環境システム学科)


キーワード:奈良盆地東縁断層帯、帯解断層、地中レーダ、超多重スタック、浅部地下構造、逆断層

奈良盆地東縁断層帯は,京都府城陽市から奈良県桜井市までの約35 kmにわたってほぼ南北に延びる西落ちの逆断層帯である.過去の活動履歴が十分に解明されていないことから,今後30 年間の地震発生確率はほぼ0~5%と幅のある推定値となっている(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2001).奈良盆地において本断層帯の最も前縁部に位置する帯解断層は,概ね南北走向で長さ約5~9 kmの断層であり(相馬ほか,1998;産業技術総合研究所,2014),天理撓曲とともに最近の地質時代に活発に活動している活断層であると考えられている.
本断層帯においては,2019年度から2021年度にかけて,文部科学省の委託事業として「奈良盆地東縁断層帯における重点的な調査観測」(研究代表者:京都大学防災研究所教授・岩田知孝)が実施されている.本報告では,超多重スタックの地中レーダ探査に基づいた帯解断層の浅部地下構造に関する調査結果について速報する.
奈良県奈良市今市町では,帯解断層による西落ちの撓曲崖が特徴的な変動地形として知られている.この撓曲崖の南延長上に位置する開析谷中で,超多重スタックが可能な地中レーダ探査システム(Sensors & Software社製pulseEKKO Ultra)を用いて,中心周波数25 MHzと50 MHzで調査を行った.この探査システムでは,従来のシステム(pulseEKKO PRO)と比較してスタック可能な回数が飛躍的に向上している.従来は64回のスタックが上限であった条件下において,およそ32000~65000回のスタックが可能である.これに伴って反射記録のSN比が向上し,より深部の地下構造を捉えることが可能になるとされている(谷口ほか,2021,日本活断層学会要旨集).
探査を行った奈良市今市町地点では,帯解断層の活動履歴の解明を目的としたトレンチ掘削調査と,掘削深度10 mおよび15 mの合計4本の群列ボーリング調査が2020年度に実施されている(文部科学省研究開発局・国立大学法人京都大学防災研究所, 2021).これらの調査に先駆けて,従来のシステムを使って実施した中心周波数50 MHzの地中レーダ探査の結果,断層活動に伴う地層の撓曲変形が推定された(川嶋ほか,2021,連合大会予稿集).しかし,深度2 m程度までの断面しか得られなかったことから詳細な地下構造は不明であった.そこで,群列ボーリングと対比可能な深度15 m程度までの地下構造をイメージングすることを目的として,超多重スタックが可能な地中レーダ探査システムを用いた調査を行った.
データ処理は,Parallel Geoscience Co. 製の地震探査データ処理ソフトウェアSPW Ver. 2を用いて行った.各種フィルター処理や振幅回復・調整処理を行い,地中レーダ探査の時間断面を得た.さらに,ワイドアングル測定の共通中間点アンサンブルデータを解析することによって地中電磁波速度を求め,時間断面のnormal moveout処理,マイグレーション処理,深度変換処理を行った.
中心周波数25 MHzで実施した地中レーダ探査により,群列ボーリングと十分に対比が可能な地表下深度約30 mまでの深度断面を得た(図1).なお,図中の距離200 m地点から距離260 m地点の間で断面上端から下端にかけて見られる大振幅の反射は,電柱からの空中反射波ノイズであると推定される.この断面では,No. 1ボーリング掘削地点で地表下深度約6 m,No. 3ボーリング掘削地点で地表下深度約12 mに連続性の良い明瞭な反射面が見られた.群列ボーリング試料の花粉分析結果との対比により,この反射面はMIS12またはMIS14の地層の上面に相当する可能性がある.この反射面は距離275 m地点に頂点を持つ凸形の形状を示しており,距離187 m地点が最も深くなっている.周辺の地形と群列ボーリング調査による地質情報から,この幅90 m程度の西傾斜の反射面は帯解断層の活動に伴う撓曲構造を示していると考えられる.この西落ちの撓曲構造は,東端のボーリングの下部に最も古いMIS14の地層が見られたことと調和的である.また,距離210 m地点の約8 m北で実施されたトレンチ調査では,より短波長の撓曲構造が観察されている(文部科学省研究開発局・国立大学法人京都大学防災研究所, 2021).25 MHzの探査の分解能ではその撓曲構造を確認することはできないが,前述の幅90 m程度の撓曲帯の一部を見ていた可能性がある.
上記のように,従来のシステムを利用した50 MHzでの探査と比較して,中心周波数25 MHzのアンテナを用いた超多重スタックの地中レーダ探査では,格段に深い箇所まで地下構造のイメージングを行うことができた.この結果を群列ボーリングによる地下地質情報と合わせて解釈することにより,断層周辺の地下構造の理解が飛躍的に進歩した.ただし,空中反射波ノイズも超多重スタックによって従来のシステムより強調されており,データ処理と断面の解釈の際にはこの扱いに注意が必要である.