日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS12] 活断層と古地震

2022年5月30日(月) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (18) (Ch.18)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、コンビーナ:白濱 吉起(国立研究開発法人産業技術総合研究所地質調査総合センター活断層火山研究部門活断層評価研究グループ)、佐藤 善輝(産業技術総合研究所 地質情報研究部門 平野地質研究グループ)、コンビーナ:吉見 雅行(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、座長:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、吉見 雅行(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)

11:00 〜 13:00

[SSS12-P07] 古地震時系列に対する更新過程Brownian Passage Time分布モデルの異なる決定法によるパラメータ値の比較について

*井元 政二郎1森川 信之1藤原 広行1 (1.防災科学技術研究所)

キーワード:古地震、更新過程、Brownian Passage Time 分布、尤度幾何平均、発生年不確定

年代測定を必要とする古地震の時系列では発生年が不確定となるため,更新過程のモデルパラメータを推定する方法は確立されていない.広く用いられているサンプリング法では,モンテカルロ法によって多数の時系列を生起することにより,モデルパラメータや確率値などを分布として捉えることができる.この方法は,発生年の不確定性をそのままモデルパラメータの分布に反映させるといえる.また,簡便に不確定期間の中央を発生年とした時系列からモデルパラメータが決定されることもある(例えば,Nomura et al. 2011, JGR).この方法は,各地震の発生年を中央で代表しているので一見尤もらしく見えるが,中央値の選択によるモデルパラメータの偏りについては広く知られていない.Ogata(1999,JGR)による多重積分で表現され尤度式は,尤度分布に基づく最適モデルパラメータを提供する.しかしながら,この方法に含まれる暗黙の条件により,BPT分布のばらつきに関するパラメータ(以後,ばらつきパラメータとする)が小さく偏ることが報告されている(井元他,2021, JPGU).井元他(2021, SSJ)は全時系列の尤度を幾何平均することによりこの偏りを解消した.ここでは,14の古地震時系列にサンプリング法,Ogata(1999)の式,井元他(2021, SSJ)の式,さらに中央年を選ぶ方法でBPT分布のモデルパラメータを決定し,ばらつきパラメータを相互に比較する.これにより,各手法に見られるばらつきパラメータの偏りなどを明らかにする.
 調査に用いた古地震時系列は,Nomura(2011, JGR)に掲載されている表(Table1&2)から,1)3個以上の地震間隔が含まれている(平均滑り速度による平均間隔を含む),2)不確定期間が相互に重なっていない,の条件を満たす活動を選んだ.地震は不確定期間で一様に発生するとした.まず,モンテカルロ法により地震発生年を決定し地震間隔を得るとともに,平均活動間隔からも地震間隔を選び,両者を合わせた地震間隔の列(モンテカルロ時系列)10000組を得る.各時系列に対して最尤法によりモデルパラメータ(μii, i=1,10000)を決定する.10000個のばらつきパラメータの中央値をαmed,平均値をαmeanとする.中央年を選んだ時系列の最尤推定値を(μMiMi)とする.Ogata(1999)の多重積分の式(表1(1))を,ここでは表1式(2)によるモンテカルロ時系列による平均式で近似した.グリッドサーチにより表1式(2)の最大値とパラメータ値(μArAr)を求めた.また,井元他(2021,SSJ)の提案式(表1(3))を,モンテカルロ時系列による平均(表1(4))で近似した.表1式(4)については解析的に最尤推定値(μGeGe)を求めた.
 モンテカルロ時系列のばらつきパラメータ平均値αmeanと他の方法の値とを比較する(図1-a, 1-b).横軸をαmean とし縦軸は比較対象となるばらつきパラメータの値で,図1-aには,αmed ,αMi αAr がそれぞれ ―(赤),×(青),□(黒)で印されている.傾き1の赤線は基準とするαmeanの位置を示す.αmedはαmeanより常にやや小さい.また,αMi はさらに小さくαmedを超える例は確認されていない.αAr については5例において極端に小さな値0.01~0.03が確認されている.これら5例では,等間隔となる時系列を実現できる不確定期間の配置となっている.図1-bには,αmed ,αGeがそれぞれ―(赤),〇(青緑)で印されている.αGeはαmeanよりやや大きく決まっている.特に,大きく離れる例ではαmed とαmeanの差も広がっている.モンテカルロ時系列のαi が大きくばらつく場合に,極端に大きいαi が寄与して平均値がαmedから離れる.αGeはαiの2乗項を含む簡単な式で表される。このため極端に大きいαiのαGeへの寄与がさらに強く,αmeanよりさらに離れる.極端に大きいαiの出現は,地震間隔の短い時系列の出現と関係し,連続する地震の不確定期間がほぼ接続している場合に顕著である. αMi,αAr においてばらつきパラメータが小さく偏るのは決定の方法に起因するものである.これに対して,αGe はモンテカルロ時系列の全ての地震間隔に基づき決定されており,地震発生年の確からしさがそのままモデルパラメータに反映されている.αGeがαmeanより大きく求まるのは,極端に短い地震間隔が想定されている状況を,反映したものである.
 以上,異なる方法で求められたばらつきパラメータの比較により次のことが判明した.中央年に基づくαMi と Ogata(1999)式によるαAr では小さい値に偏る傾向が顕著であり,古地震時系列を代表するばらつきパラメータとするのは不適当である.モンテカルロ時系列による平均値αmean,中央値αmedあるいは尤度幾何平均式の最尤推定値αGe はモンテカルロ時系列αiの分布に対して極端に偏ることはない.αGe は想定できる全ての地震間隔を使って決定されており,古地震時系列を代表するパラメータといえる.