09:30 〜 09:45
[SSS13-03] Hi-netで捉えた河川振動記録を用いた洪水時河川水位の再現
キーワード:河川流量、上流域、河川振動、Hi-net
河川流量は河川水文学において最も重要な物理量であり、洪水予測のためには連続かつリアルタイムでの流量の把握が極めて重要である。通常、流量の観測は、河川に赴いて河川断面内の複数個所で流速を計測し、得られた流速を河川断面上で積分することにより行う。この観測には非常に労力がかかり、この方法で流量を連続かつリアルタイムで測定することは現実的ではない。そこで通常は、連続かつリアルタイムで計測できる河川の水位と流量の間にべき乗則が成り立つことを仮定し、様々な流況下で得られた流量と水位のデータから水位―流量(H-Q)曲線を構築し、水位HにH-Q曲線を適用して流量Qを推定するという方法がとられる。
しかし、高水位が生じる頻度は低く、また高水位時には現地に赴いての流量観測に危険を伴うため、H-Q曲線が得られるのは水位が比較的低い時期に限られる傾向がある。そのため、H-Q曲線の外挿により得られる流量の推定値は、水位が高いほど不正確となる。さらに、上流域では非常に多くの支流が複雑に分岐することから、全ての支流についてH-Q曲線を構築することは不可能である。これらの理由から、上流域での流量を連続かつリアルタイムで把握する方法は確立されておらず、流量の記録がほとんど得られていないのが現状である。
一方で、上流域の河川沿いに設置されている地震計では、しばしば流れが引き起こす振動が明瞭に観測される。以下これを河川振動と呼ぶ。H-Q曲線が河川上の一地点のみでの水位と流量の関係を反映するのに対し、河川振動のパワーは地震計設置地点に近い複数の河川から伝播してきた振動のエネルギーが積算されたものであるため、河川振動記録を用いることで、上流域の複数の河川について流量のモニタリングが可能になると考えられる。しかし、河川振動記録と水位・流量の間にどのような関係があり、どのような条件の下で河川振動記録から水位・流量を再現できるかについては精査が必要である。
以上の背景に基づき、本研究では、Hi-netで捉えられた河川振動記録と国土交通省による水位観測記録を比較し、河川振動記録を用いて水位を再現するための条件を調査した。解析対象は2019年台風19号(令和元年東日本台風)の上陸前後の10月10日から17日までの記録である。東日本を中心としたHi-net観測点362点と、各Hi-net観測点に最も近い水位観測点の記録を比較した。
まず、Hi-netの上下動記録に対し2分ごとにFFTを施し、0.2Hzごとにパワースペクトル密度を計算した。次に、地震などによる過渡的な振動と観測点に固有の単色振動を除去するため、10分間×1Hz幅の時間―周波数領域においてパワースペクトル密度が最小となるグリッドの値を、その時間―周波数領域における河川振動パワーとして採用した。1-2Hzから16-32Hzまでオクターブ幅ごとに1時間毎の河川振動パワーを計算した。河川振動パワーと最寄りの水位記録の間にべき乗則が成り立つと仮定し、水位の再現性を表すNash-Sutcliffe指標(NSE: Nash and Sutcliffe, 1970)を最大化するように、最小2乗法によりべき指数と比例係数を求めた。
解析の結果、いずれの周波数帯域においても、標高の高い山梨県、長野県、群馬県、福島県西部などの地域で最大NSEが高く、河川振動記録から水位を再現しやすい傾向が見られた。一方で、関東平野においては最大NSEが低めであった。この理由として、1.河川勾配が強い上流域ほど流れが速く効率的に振動を励起すること、2.上流域ほど社会活動による振動が少ないこと、が考えられる。そこで、最大NSEの値とHi-net設置点近傍の河川勾配、および洪水前におけるHi-net雑微動パワーとの関係を調べた。その結果、最大NSEと河川勾配の間には正の相関が、最大NSEと洪水前の雑微動パワーの間には負の相関がそれぞれ見い出され、これらの指標が雑微動記録から水位を再現するために重要であることが明らかとなった。
謝辞:本研究は大成学術財団2020年度助成金からの支援を受けています。
しかし、高水位が生じる頻度は低く、また高水位時には現地に赴いての流量観測に危険を伴うため、H-Q曲線が得られるのは水位が比較的低い時期に限られる傾向がある。そのため、H-Q曲線の外挿により得られる流量の推定値は、水位が高いほど不正確となる。さらに、上流域では非常に多くの支流が複雑に分岐することから、全ての支流についてH-Q曲線を構築することは不可能である。これらの理由から、上流域での流量を連続かつリアルタイムで把握する方法は確立されておらず、流量の記録がほとんど得られていないのが現状である。
一方で、上流域の河川沿いに設置されている地震計では、しばしば流れが引き起こす振動が明瞭に観測される。以下これを河川振動と呼ぶ。H-Q曲線が河川上の一地点のみでの水位と流量の関係を反映するのに対し、河川振動のパワーは地震計設置地点に近い複数の河川から伝播してきた振動のエネルギーが積算されたものであるため、河川振動記録を用いることで、上流域の複数の河川について流量のモニタリングが可能になると考えられる。しかし、河川振動記録と水位・流量の間にどのような関係があり、どのような条件の下で河川振動記録から水位・流量を再現できるかについては精査が必要である。
以上の背景に基づき、本研究では、Hi-netで捉えられた河川振動記録と国土交通省による水位観測記録を比較し、河川振動記録を用いて水位を再現するための条件を調査した。解析対象は2019年台風19号(令和元年東日本台風)の上陸前後の10月10日から17日までの記録である。東日本を中心としたHi-net観測点362点と、各Hi-net観測点に最も近い水位観測点の記録を比較した。
まず、Hi-netの上下動記録に対し2分ごとにFFTを施し、0.2Hzごとにパワースペクトル密度を計算した。次に、地震などによる過渡的な振動と観測点に固有の単色振動を除去するため、10分間×1Hz幅の時間―周波数領域においてパワースペクトル密度が最小となるグリッドの値を、その時間―周波数領域における河川振動パワーとして採用した。1-2Hzから16-32Hzまでオクターブ幅ごとに1時間毎の河川振動パワーを計算した。河川振動パワーと最寄りの水位記録の間にべき乗則が成り立つと仮定し、水位の再現性を表すNash-Sutcliffe指標(NSE: Nash and Sutcliffe, 1970)を最大化するように、最小2乗法によりべき指数と比例係数を求めた。
解析の結果、いずれの周波数帯域においても、標高の高い山梨県、長野県、群馬県、福島県西部などの地域で最大NSEが高く、河川振動記録から水位を再現しやすい傾向が見られた。一方で、関東平野においては最大NSEが低めであった。この理由として、1.河川勾配が強い上流域ほど流れが速く効率的に振動を励起すること、2.上流域ほど社会活動による振動が少ないこと、が考えられる。そこで、最大NSEの値とHi-net設置点近傍の河川勾配、および洪水前におけるHi-net雑微動パワーとの関係を調べた。その結果、最大NSEと河川勾配の間には正の相関が、最大NSEと洪水前の雑微動パワーの間には負の相関がそれぞれ見い出され、これらの指標が雑微動記録から水位を再現するために重要であることが明らかとなった。
謝辞:本研究は大成学術財団2020年度助成金からの支援を受けています。