日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT37] 空中からの地球計測とモニタリング

2022年5月25日(水) 15:30 〜 17:00 101 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小山 崇夫(東京大学地震研究所)、コンビーナ:楠本 成寿(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設)、光畑 裕司(独立行政法人 産業技術総合研究所)、コンビーナ:大熊 茂雄(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、座長:小山 崇夫(東京大学地震研究所)、楠本 成寿(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設)、光畑 裕司(独立行政法人 産業技術総合研究所)、大熊 茂雄(産業技術総合研究所地質情報研究部門)

15:45 〜 16:00

[STT37-02] 無人ヘリ反復空中磁気測量による樽前火山の3次元着磁域イメージング

*渋谷 桂一1橋本 武志1 (1.北海道大学大学院理学院自然史科学専攻地震学火山学講座)

近年,無人機の利用が広がったことで,火山地域での無人機による空中磁気測量の事例が増えてきている(Kaneko et al., 2011; 橋本・他, 2012; Koyama et al., 2013; 渋谷・他, 2021; Tada et al., 2021; Koyama et al., 2021).著者らの研究グループは,北海道開発局の業務に協力する形で,道内の火山で無人ヘリによる各種調査を続けてきた.これは,火山活動が活発化した際に危険区域外から状況を把握するための撮影や計測を主目的としており,空中磁気測量もそのひとつである.このような背景のもと,著者らは火山活動に伴う磁場変化検出を念頭に,いくつかの火山で試行錯誤的に観測を行ってきた.その中で,樽前山ではこれまでに2011, 2012, 2013, 2020, 2021年の計5回空中磁気測量が試みられ,観測のノウハウやデータの蓄積が最も進んでいる.そこで,渋谷・他(2021)は,2013年と2020年の測量データを解析し,このプロジェクトとしては初めて明瞭な時間変化の検出に成功した.彼らの解析で,この期間に山頂溶岩ドーム直下で磁気モーメントが顕著に増大したことが明らかになっている.その一方で,樽前山ではこの期間,定常的な噴気活動や微小地震活動はあるものの,表面的な状態に顕著な変化は見られなかった.そこで本研究では,ほぼ静穏な時期に検出されたこの着磁現象が何を意味するのかを理解するために,渋谷・他(2021)で抽出された磁気異常変化を以下に述べる手法で再解析し,震源分布や比抵抗構造と比較した.
本研究では,時間変化成分について2種類の方法でインバージョン解析を行った.ひとつは,単一の磁気双極子ソースによる近似(以下,双極子モデルと呼ぶ),もうひとつは,一様磁化直方体の集合として地下を表現し,その磁化変化の3次元的分布を求めるモデル(以下,集合ブロックモデルと呼ぶ)である.双極子モデルではMCMCインバージョンを用いることで,モデルパラメータを確率分布として推定し,解の確からしさを評価した.一方,集合ブロックモデルの推定にはUtsugi(2019)の開発したL1-L2ノルム3Dインバージョンを利用した.このインバージョンは,通常のL2ノルムインバージョンに比べて,シャープな境界を有する構造モデルを好む性質があるため,火山のように高度な不均質が想定される観測対象での効果を期待して本研究の解析に用いた.
双極子モデルのソースは,渋谷・他(2019)の結果と同様に溶岩ドームの真下にその中央値が推定された.モデルパラメータの事後確率分布を見ると,深さ方向の分散は水平方向の約2倍大きく,強度と深度の間には顕著なトレードオフが見られたが,それでも深度の95%信用区間の幅は200 m未満に収まっていた.一方,集合ブロックモデルでは,上記の双極子ソースよりもやや深部から上向きに伸びて,地表付近で溶岩ドーム南東縁のA火口へと向かうような,曲がった柱状の着磁域が得られた(Fig.1およびFig. 2).集合ブロックモデルの総磁気モーメント変化量は,双極子モデルの磁気モーメント変化量とほぼ一致した.これらのことから,2つのインバージョン結果は調和的であると考えられる.
集合ブロックモデルの着磁域は,土屋(2010)がDouble Difference法で再決定した溶岩ドーム直下の微小地震の震源分布とほぼ重なることがわかった.さらに,この着磁域や震源分布は,Yamaya et al. (2009) が難透水性粘土層と解釈した低比抵抗帯の上端部で蓋をされたような位置関係にある(Fig. 2).また,気象庁の現地観測によると,A火口の噴気温度は2012年頃は600℃ 程度であったが2020年には500℃ 程度まで減少している(気象庁, 2021).これらの事実を踏まえると,着磁域は高温の噴気火道に対応している可能性が高い.高温ガスの供給が低下したために,噴気火道やその周辺部の温度が下がり磁化を獲得したと考えられる.また,微小地震活動は温度変化に伴う岩石の変形に起因しているのではないかと想像される.

謝辞:本研究で用いた空中磁気測量データは,北海道開発局および東京大学地震研究所の協力を得て取得されました.

Fig. 1 (左)集合ブロックモデルで推定された着磁域.
Fig. 2 (右)先行研究と本研究の推定モデルを比較した断面図.