日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT38] 地震観測・処理システム

2022年5月31日(火) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (26) (Ch.26)

コンビーナ:鈴木 亘(国立研究開発法人防災科学技術研究所)、コンビーナ:松元 康広(株式会社構造計画研究所)、座長:鈴木 亘(国立研究開発法人防災科学技術研究所)

11:00 〜 13:00

[STT38-P01] もう一つの満点計画 -長野県西部における10kHzサンプリング観測の27年-

*飯尾 能久1 (1.京都大学防災研究所)

キーワード:長野県西部、高サンプリング地震観測、満点計画

長野県西部地域では、10kHzサンプリング地震観測により、1995年6月から約27年間にわたって,単独点でのトリガー方式による地震データが蓄積されてきた(Iio et al.,1999, Doi et al.,2013, Iio et al.,2017)。観測点は最大57カ所で、1984年長野県西部地震の余震域の東部を中心に設置された。ちなみに、2008年8月には満点システムによる連続観測(最大29カ所)も追加されている。観測点間隔は、約500m~6km、平均で1km程度となっている。長期間の使用により観測システムは限界を迎えており、撤収の検討を始めていた矢先の2017年6月25日に、Mj5.6の地震が観測網の真ん中で発生した。長野県西部地域は、1979年の御岳の噴火前後から地震活動が活発化し、1984年に長野県西部地震(Mj6.8)が発生した。余震活動は順調に減衰しているように見えたが、1993年4月23日のMj5.1の地震(Yamaoka et al., 2004)の頃から東部で群発的な活動が活発化し、現在に至っている。この地域は、1)地震の深さ分布の下限は最も浅いところで深さ5km程度、上限は深さ1km程度である、2)浅部まで高速度で、速度偏差が小さい(Doi et al., 2013)、3)林道が多数整備されている、4)ノイズレベルが10~100ナノメートル/秒と小さいところがほとんどであることなど、高感度の地震観測には非常にふさわしい場所である。これまで記録された最小の地震のマグニチュードはM=-1.3であり(飯尾、1987)、卓越周波数が100Hzを超えるような微小地震も多数記録されている。
 用いている地震計は、地表点では2Hzの速度型地震計L-22Dの3成分である。3カ所には、150m、100m、800mのボアホール地震計がある。地震が発生している領域の直上で密な観測点配置を実現するため、データロガーは、基本的にはDC電源で駆動している。サンプリング周波数が高いため、低消費電力化には限界があり、当初はバッテリー2個を2週間おきに交換していた。また、冬季にアクセス出来ない観測点も多く、当初は冬前に撤収して春に再設置していたが、2002年7月にソーラーを導入し、通年で観測できるようになって、労力を大幅に減らすことが出来た。記録媒体としては当初512MBのRHD(リムーバブルハードディスク)を用いており、湿気や電圧低下によるためか欠測が多かったが、2007年にCFに交換してからは欠測率が大幅に減少した。しかしながら、データロガーをプラケースに収納しただけの観測点では特に、ここ数年故障が多く発生し、稼働している観測点数も十数点に減っていた。地震計についても、直射日光が当たる点などで、内部に結露が発生するためか、欠測が発生していた。
 講演においては、得られた主な成果についても簡単に紹介する。
謝辞:高精度地震観測は、防災科研の特別研究「直下型地震のダイナミクス」により開始され、地震及び火山噴火予知のための観測研究計画、災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画や科研費(課題番号19204043)のプロジェクトで維持されてきた。全体統括と観測は主に飯尾が行ってきたが、データ処理は当初は大見士朗氏が、2002年頃から堀内茂木氏が担当して下さった。10kHz観測では産総研のボアホール地震計データを、2008年8月以降には、防災科研、名古屋大学、気象庁による定常地震観測点のデータも使わせていただいている。10kHzサンプリングデータロガー(EDR-6600)は近計システムと共同で開発された。観測においては、長野県王滝村・木曽町、木曽森林管理署、長野県林務課、名古屋市市民休暇村ほか、地元の方々に大変お世話になっている。