11:45 〜 12:00
[STT39-05] 干渉SARによる箱根火山大涌谷における地すべり性変位のモニタリング
キーワード:干渉SAR、地すべり、箱根火山、大涌谷
神奈川県西部に位置する箱根火山周辺は日本有数の多雨地帯であり,近年,大雨により地すべりなどの土砂災害が度々発生している.箱根火山最大の噴気地帯である大涌谷(谷地形の名称としては大涌沢)は,年間約300万人が訪れる一大観光地であることに加えて,造成温泉の主要な生産地となっており,箱根地域の重要な観光資源となっている.一方で,大涌谷は,1910年に死者6名を出す土石流災害が発生したことに加えて,2015年には水蒸気噴火が発生するなど,火山災害と常に隣り合わせにある場所と言える.特に,2015年噴火以降,大涌沢最上流部の砂防堰堤に目に見える形で多数の亀裂が生じている.このような斜面崩壊につながる可能性のある地表面の変位をモニタリングすることは,生命および財産を守る上で重要である.
そこで,本研究では,1)複数視線方向からなる干渉SAR解析結果による大涌谷周辺の3次元変位分布の推定および2)干渉SAR時系列解析による斜面の経年変位の推定を実施した.本研究の結果明らかとなったことを以下に示す.
1)大涌谷周辺の3次元変位分布
2017年および2020年にALOS-2/PALSAR-2により実施された北行軌道・左観測の解析結果(Path119)と,定常的に実施されている右観測の解析結果(Path126(北行),Path18,Path19(南行))を合成し,大涌谷周辺の3次元変位分布を得た.その結果,大涌沢の右岸において北北西に約3年間で 最大約17cm の変位が観測された(以下,A地点とする).大涌沢左岸においては南東方向に約3年間で最大約6cmの変位が観測された(以下,B地点とする).いずれの地点の変位も斜面の傾斜方向への変位を示す.また,B地点の変位は,神奈川県温泉地学研究所が大涌谷に設置しているGNSS観測点の変位の方向とも概ね調和的である.
2)干渉SAR時系列解析結果
2015年水蒸気噴火直後から2021年4月までのALOS-2/PALSAR-2データ(Path126およびPath18)を使用し,SBAS法による干渉SAR時系列解析を行なった(Doke et al. 2021).また2.5次元解析により,準東西成分,準上下成分の変位を推定した.解析の結果,A地点,B地点とも,上述の斜面の傾斜方向への変位と同傾向の変位が認められた.特にA地点の変位が顕著であり,解析期間中に,南行軌道・右観測のPath18で約26 cmの衛星から遠ざかる変位を示した.その変位の方向が斜面の傾斜方向であると仮定した場合の変位速度は,約5.2 cm/yrと推定された.またA地点の変位時系列を見ると,秋から冬にかけて加速する傾向があり,台風などの大雨の時期に地すべり性の変位が加速している可能性が挙げられる.
なおA地点のやや下流付近において,2021年7月3日に崩壊が発生し,温泉供給施設の一部が破壊される被害が発生している.同地点周辺には地上の観測点はなく,その変位をモニタリングする上ではSARによる継続的な観測が重要と言える.
謝辞
本研究で使用したALOS-2/PALSAR-2データは,火山噴火予知連絡会衛星解析グループを通してJAXAよりご提供頂きました.原初データの所有権は,JAXAにあります.ここに記して感謝します.
文献
Doke, R., Mannen, K., & Itadera, K. (2021). Observing Posteruptive Deflation of Hydrothermal System Using InSAR Time Series Analysis: An Application of ALOS-2/PALSAR-2 Data on the 2015 Phreatic Eruption of Hakone Volcano, Japan. Geophysical Research Letters, 48, e2021GL094880. https://doi.org/10.1029/2021gl094880
そこで,本研究では,1)複数視線方向からなる干渉SAR解析結果による大涌谷周辺の3次元変位分布の推定および2)干渉SAR時系列解析による斜面の経年変位の推定を実施した.本研究の結果明らかとなったことを以下に示す.
1)大涌谷周辺の3次元変位分布
2017年および2020年にALOS-2/PALSAR-2により実施された北行軌道・左観測の解析結果(Path119)と,定常的に実施されている右観測の解析結果(Path126(北行),Path18,Path19(南行))を合成し,大涌谷周辺の3次元変位分布を得た.その結果,大涌沢の右岸において北北西に約3年間で 最大約17cm の変位が観測された(以下,A地点とする).大涌沢左岸においては南東方向に約3年間で最大約6cmの変位が観測された(以下,B地点とする).いずれの地点の変位も斜面の傾斜方向への変位を示す.また,B地点の変位は,神奈川県温泉地学研究所が大涌谷に設置しているGNSS観測点の変位の方向とも概ね調和的である.
2)干渉SAR時系列解析結果
2015年水蒸気噴火直後から2021年4月までのALOS-2/PALSAR-2データ(Path126およびPath18)を使用し,SBAS法による干渉SAR時系列解析を行なった(Doke et al. 2021).また2.5次元解析により,準東西成分,準上下成分の変位を推定した.解析の結果,A地点,B地点とも,上述の斜面の傾斜方向への変位と同傾向の変位が認められた.特にA地点の変位が顕著であり,解析期間中に,南行軌道・右観測のPath18で約26 cmの衛星から遠ざかる変位を示した.その変位の方向が斜面の傾斜方向であると仮定した場合の変位速度は,約5.2 cm/yrと推定された.またA地点の変位時系列を見ると,秋から冬にかけて加速する傾向があり,台風などの大雨の時期に地すべり性の変位が加速している可能性が挙げられる.
なおA地点のやや下流付近において,2021年7月3日に崩壊が発生し,温泉供給施設の一部が破壊される被害が発生している.同地点周辺には地上の観測点はなく,その変位をモニタリングする上ではSARによる継続的な観測が重要と言える.
謝辞
本研究で使用したALOS-2/PALSAR-2データは,火山噴火予知連絡会衛星解析グループを通してJAXAよりご提供頂きました.原初データの所有権は,JAXAにあります.ここに記して感謝します.
文献
Doke, R., Mannen, K., & Itadera, K. (2021). Observing Posteruptive Deflation of Hydrothermal System Using InSAR Time Series Analysis: An Application of ALOS-2/PALSAR-2 Data on the 2015 Phreatic Eruption of Hakone Volcano, Japan. Geophysical Research Letters, 48, e2021GL094880. https://doi.org/10.1029/2021gl094880